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俺と奴等の華麗なる攻防戦 3

作者: 秋澤 えで

テスト期間中でいつもより早く学校が終わり帰路につく。ちょっと蒸し暑くなった曇天を見上げて間服の白い袖を捲った。このテストが終われば夏服への衣替えの指示が学校から出されるだろう。


曇りの日は嫌だ。 その辺の草むらからキャッキャと子供の声が聞こえてくる。もっとも、その草丈は20センチ程しかないためそこで戯れているのは人でないモノだろう。曇りの日はいつもより堂々と彼らが姿を現す。無害なものがほとんどなのだが絡まれるのは面倒臭い。重々しく空を覆う雲は限界とでもいうようにポツリポツリと雨粒をこぼし始めていた。


「ただいま。」

無論独り暮らしのため返事は返ってこない。

濡れた傘を傘たてに突っ込み、スニーカーを脱いでヒヤッとした廊下を歩く。靴下が少し湿っていて廊下にうっすらと足跡をつけていた。


「……ん?」



いつもは五歩目くらいで天井下がりが天井を突き破って驚かして来るのだが何故か現れない。普段は天井を壊すのを躊躇いなく必ず出てくるのだが……。

クイクイ、とシャツの端を引っ張られる。



「ばぁ……。」

「いや、ばぁじゃねぇよ。」



そこには廊下に足をつけて俺の制服を掴む天井下がりがいた。



「何で普通に歩いてんだよ。お前それでも天井下がりか。天井下がれよ。」

「坊いつも俺が下がると怒るくせに……!」

「天井壊さないで下がれば何も言わねえよ。」

「妖怪でも重力には逆らえない!」


そのまま居間に向かおうとすると天井下がりが腰に抱きついた。


「邪魔。」

「坊!ダメ!誰かいる!」

「ああん?」


誰かいるなんて日常茶飯事なことなのに今日に限ってやたら食い下がってくる。


「別に誰かいても問題な、……?」


妙だ。


いつもならどこからか家鳴りの声が聞こえてくるのに少しも聞こえてこない。それに雨が降り始めた今ならその辺の小物妖怪たちが雨宿りに来ていて普段以上に騒がしいはずなのにどこからも音も声もしない。静まり返り聞こえるのは外の雨風の音だけ。



――ぱちり。



今のは外じゃない。中だ。


居間の方から何か固いものを置くような音がした。


珍しくほとんど誰もいない家の中に馴染みのない奴がいる。さっきの音からして、誰かいるのはわかるはずなのに、なぜか誰もいない気がしてならない。


もやもやとした感情を解消すべく、俺は腰に天井下がりを着けたまま歩き出した。



「坊ダメェ~!」



腰に天井下がりを携えたまま居間へと足を向ける。暫くズルズルと引きずられていた天井下がりであったが、



「~~!もう坊知らない!!」


そう言ってパッと腰から手を放しいつも現れる天井へ……


バキィッ!!


天井を突き破り屋根裏へと逃げていった。



……うん、まあね。扉とかは流石に無いもんな。



「天井、直しておけよ?」


姿を消し、再び静まり返った廊下で天井の穴に向かって声をかけた。



パチッ――


また小さな音が廊下の先から聞こえた。


そこに何がいるかなど分からないがここは俺の家だ。何故家主である俺が自分の家の部屋に入るのに躊躇する必要がある。


パチッ――


まだ昼の三時ごろだというのに部屋は真っ暗であった。障子の隙間から光が入り遅れてゴロゴロと雷の音が響く。気付けば雨は勢いを増していた。


きしり、きしりと廊下の板を鳴らし、突き当りの部屋の畳に足を一歩踏み入れる。畳の所為か、濡れた靴下がじっとりと足にへばりついた。


暗いままの部屋を見渡す。十分暗いとはいえ猫目の自分の目には部屋の中を見渡すのに光は必要なかった。



「誰もいない……?」



パチッ――



「っ!?」



この部屋のどこかで、また音が響く。誰もいないように見えるのに、いる。この部屋には俺以外の何かがいる……!


嫌に大きく聞こえる鼓動を抑えつつ手探りで明りのスイッチを探す。ざらざらとした壁に手を這わせれば指先にプラスチックが触れる。指に力を籠め、くいっとそれを押した。


カチッ――



パッと部屋に明りがあふれる。ちかちかする目を少し擦りながらぐるりとさして広くもない部屋を眺める。どこに視線をやってもいつも通りの見慣れた部屋。何もいな――



パチッ――



「っ!!」


弾かれるように音の出処を見る。


そして俺はそれと目が合った。



「…………よっ!」

「いや、よっじゃねぇよ。」


藍のじんべえを着、腰に朱塗りの瓢箪と何かの皮袋、――物騒ながら脇差のようなものを携えた男、否人型のモノが片膝を立てて座っていた。パッと見普通の人間に見える。ただじっと観察するとそれには端々に人外らしさがあった。

鋭い手足の爪、とがった耳は明らかに人でないものであった。キツネやタヌキの類かと思ったが見た限りしっぽはない。もっとも奴らが化けたときしっぽが出てるのかは知らないけれど。



「……誰だ。」

「だーれだ?」



イラァッ……



「今日は生ごみの日じゃない。出直せ。」

「ヒデェなおい!」



ケラケラと堪えた風もなく笑いながら胡坐をかく。どうやら帰る気はないらしい。取りあえず目の前の男は放置して湿って色を変えた制服のシャツを脱ぐことにする。



パチン……



「……何をしてるんだ?」

「ん?おっ!見たい?見たいかこれ!?」



満面の笑みを浮かべ振り返り詰め寄られるが、その勢いに若干身を引く。



「や、別にそこまでの興味はな、」

「そうかそうか、見たいか!そこまで言うなら仕方ねぇなぁー。」



興味ないと言っているのに制服の黒いズボンを引っ張り側に座らせられた。



「オセロかよっ!」

「最近の人間はこういうのやってんだろ?」



盤上に伸ばされた手に黒い石が見えたため勝手に囲碁でもやっているものだと思い込んでいたのだが、持っていた黒い石の裏は白く、男の前に置かれた盤は緑色だった。



「そこは妖としてせめて囲碁とか将棋とかじゃないのか?」

「んなもん何百年もやってたら飽きるわ。ここ数年のブームはもっぱらチェスだ。」



どうだ!とでも言いたげに胸を張る。



「いやいやいや、日本固有の妖がチェスって、オセロって……。」



なんかもうものすごくどうでもよくなってきた。ていうか誰だよこいつ。帰れよ。



「ん?そういえば、俺が妖怪ってわかんの?」

「少なくとも他人の家に勝手に上り込んで寛ぐような奴を俺は人間だとは認めない。」

「キビシイなあ。」



また、けらけらと笑う。



「そういえばさ、聞きたいんだけど。なんでこの家あんなに妖がいたんだ?」

「……そんなにいたか。」

「あははっ、実はお前も人間じゃなかったりする?」



さっき向けられた笑顔とはまた違う笑みを浮かべた。やはりその笑顔は人間のそれとは程遠く、悪鬼羅刹を思わせた。



「さぁな。」



なんと答えるのが正解なのかが分からず、、とりあえず何か考えがあるわけでもないのに適当にはぐらかす。無論、俺はまごうことのない純然たる人間だ。



「へへ、そうか……じゃあさ、俺と勝負をしないか?お前が勝ったら俺のこと教えてやんよ!」



緑の盤の向かい側を指差し、俺に座るように促す。



「いや、帰れよ。……お前が勝ったらどうするつもりだ?」

「そうさなぁ……。」



顔に影が差す。少しだけ開けられた口からは赤い舌と白い犬歯がチラリとのぞき、ヒヤリと汗が背を伝う。このとき俺は初めて天井下がりの言うことに耳を貸さなかったことに後悔した。普段から当然のごとく妖が入り浸っているからか、奴らに対する危機感が完全にマヒしてしまっている。目の前の男の形をした何かが、害のない妖である保障などどこにも、ない。


小物であればいいが、こいつは違う気がする。この酷い雨の日というのに小妖怪がいないのはきっと天井下がりと同じで、この部屋に居座る男の所為で間違いないだろう。この男に小物達は怯えていたのだ。正直なところ、この勝負を降りてしまいたいが相手が何物か分からない以上下手に動くのは得策ではない。


男は逡巡するようにニヤニヤしたっきり、賭けるものについては口にしなかった。


最悪、喰われるかもな。つうっと汗が頬を流れる。男の黒い双眸が俺から外されることがなく、自然俺も逸らすことができなかった。



「じゃあやろうか。」

「ははっそうでねェとな!」



一か八か、覚悟を決め男の向かいに胡坐をかいた。




******




「お前……。」



パチン、



最後の白い石が置かれ、四マスの黒が白に塗り替えられた。


「弱いな。」

「ほっとけ!人間とやったのは初めてなんだよ!!」



この妖は自ら勝負をふっかけた癖に弱かった。超絶弱かった。緑の盤はほとんど白で埋められている。無論、白は俺だ。角は四つとも白が置かれ、黒はまばらであった。


なんというか、拍子抜けで、心配して損した。別に俺が特別強いわけじゃない。こいつが弱かったのだ。

もしかしたら見かけ倒しの小物なのかもしれない。



「で、勝ったんだから教えろよ。お前は何んだ。」

「あーそういえばそんな話だったな。俺、ぬらりひょん。」

「…………。」



何も考えずに文机の上に置かれたテレビのリモコンをおもむろに手に取り。



カコ―ンッ!!



「いってぇええ!?」



全力で妖の頭を殴りつけた。ああ、気持ちの良い音だ。つかなんなんだ。なんだというのだこいつ。全然小物じゃなかった。超大物だった。日本の妖怪の総大将様だった。いや、大物だけどがいないやつじゃんこいつ。本当に心配して損した。


現在件の総大将様はリモコンで殴られた黒い頭を抱え顔を真っ赤にしながら悶絶している。いったいこいつのどの辺が総大将だというのだ。絶対牛鬼とか九尾とかのが強いだろ。



「今更だけど何でお前俺の家に上り込んでんだ?」

「人のことこれだけ強く殴ったってのに無表情この野郎……。雨宿りだ、雨宿り。」



こぶ出来たかも、なんて頭をさする。殴った時に飛んでいったリモコンの電池の蓋を拾い上げカチリとはめる。


「帰れ。」

「話聞いてた!?俺雨宿りに来てんだけど!外みてみろ、思いっきり雨降ってんですけど!!」

「知らん。総大将様なら大丈夫だろ。帰れ。」

「うおおお……総大将と心得たうえでこの狼藉か……!」



ふと時計に目をやると短針は五時を回っていた。……少し早いが夕飯でも作ろうか。冷蔵庫には何があったか。台所へ向かおうと立ち上がり足を踏み出そうとしたが、



「……おい、なぜ足を掴む。」

「構え。」

「断る。」



立ち上がる俺の足にしがみつく総大将(笑)。普段なら足蹴にしていくのだが如何せん、人型なので少々良心が痛まないでもない。



「オセロの相手してやっただろ。」

「一回だけじゃん、もっとやれ!」


「他人に気付かれないお前は独り遊びのプロだろ。独りで遊んでろ。」

「独り遊びって……人間に気付かれないだけであって妖には気づかれるからな!独りじゃない!」


「なら住み処に帰って妖とやれ。」

「俺は特定の住み処を持たん。」


「ちっ、ぼっちホームレスが。」

「!?」



俺の言葉にショックを受けているうちに、掴まれていた右足をぬらりひょんの腕から引き抜く。勢いで奴が床に額をぶつけたとかは知らん。


へたりこむぬらりひょんをそのままに、冷蔵庫に向かう。何を作ろうかと冷蔵庫の野菜室を開ける。


長ネギ、ニンジン、椎茸……。


上の扉を開ける。豚肉、ちくわ、豆腐。今日買い出しにいく予定だったので中はすかすかの上にどれも賞味期限がギリギリだ。もう一度見回しポツリと呟く。



「鍋、か……。」

「何が?」

「……今日の夕飯。」

「俺も食ってって良い!?」

「逆に聞くがどうして良いと思うんだ、不法侵入者。」



キラキラした目でこちらを見る総大将に一瞥だけくれて一蹴する。不法侵入した人外に食わせる飯などない。


冷蔵庫の中身を一度に使える料理は鍋しか思い付かなかった。卵があれば適当にとじてしまえるのだが。

ちらりとカレンダーを見るともう七月に差し掛かっていて、鍋に相応しい季節はとうにすぎているが、帰り道にあった蒸し暑さは失せ、肌寒いくらいの今の気候なら暑くて敵わないとは言わない。



しかし一つ問題がある。


鍋に欠かすことの出来ない野菜……そう白菜がないのだ。白菜のない鍋など鍋ではない。

鍋ではないのだが、白菜がないわけではないのだ。ただ場所に問題がある。


庭の畑だ。


畑の方を見ると閉じられた窓がけたたましく音をたてていた。

普通なら野菜の心配をするところなのであろうが、この家の畑だ。十中八九無事だろう。


やはりこの雨風のなか採りに行くのは腰が引ける。面倒だ。どうしたものかと思案していると、体育座りをしていじける総大将が目に入った。



「あ、」

「え?」



*********




「うおー冷てっ!寒いなおい!」

「うるさい、雨が降り込むだろ。窓をさっさと閉めろ。」

「おまっ功労者に向かって……そんなこと言ってるとこの白菜たちは渡さねぇぞ!?」

「何でも良いからさっさと身体を拭け。畳の染みになる。」

「ぶふっ!」



両手に白菜をもったびしょびしょのぬらりひょんにタオルを投げつける。タオルを顔で受け止めた奴は後ろ手に窓を閉めようとした。するとぬらりひょんの脇をすり抜け、家の中に小さなものが飛び込んでくる。



「寒い寒い。」

「風強いー。」

「濡れちゃった。」



キイキイきゃいきゃいとお椀に手足を生やしたものやボロを纏った雀のようなもの、九十九神やら小妖怪たちが上がり込んできた。


一旦手に持っていた豆腐を置きそちらへ向かう。



ダンッ!



小物たちの前に足を降り下ろし腕を組み見下ろすと騒いでいたやつらがしんと黙り込む。


しかしすぐに小さな声でこそこはと内緒話を始めた。



「きゅいっ、人間。」

「怒られる?」

「家主?」

「イヅモだイヅモ!」

「イヅモ!?」

「人間?」

「人間!百々目鬼泣いてた!」



きゅいきゅい、きゃわきゃわと話す奴等にタオルをバサリと落とすと水を打ったように静かになった。欠けたお椀が恐る恐る、といった風にタオルの端から顔を覗かせる。



「ちゃんと拭け。屋根裏なら許す。晴れたら出ていけよ。」



それだけ言うとキャイキャイと小物たちは俺の足をすり抜け我先にとタオルを被ったまま廊下へ駆け出す。あ、茶碗転んだ。

ふとぬらりひょんに目を向けるとキョトン、という顔をしていた。



「何だ、どうかしたのか。」

「え、あ、いや、お前ああいうのと仲良いのか?普通追い出したりするだろ?」

「別に……、畑をこうやって守ってくれてんのもうまいのもああいう小物たちのおかげだからな。それに今みたやつらは小物の小物。無害な奴等だけだった。」

「ふーん……?」



どこか面白くなさげに返事をするぬらりひょんに眉を寄せながらもこちらからも聞いておく。



「なんで今まであの小物たちは家の中に入ってこなかったのに突然入ってきたんだ?雑魚はお前に怯えてただろ?」



てっきり入ってこなかったのは天井下がりのようにぬらりひょんを恐れてだと思っていたが、今の小物たちはぬらりひょんのすぐ側を通っていったのだ。



「ん、ああ。俺が窓を開けたから外にいたあいつらは『招かれた』と思ったんだろうさ。だから普通にあいつらは入ってきたんだ。」

「……客人(まれびと)信仰?」

「まあそんな感じだ。」



妖の中よ話は分からない、と諦めて両手にあった白菜を回収する。予想通り、二つとも濡れているものの無傷であった。



「つかお前、妖が作ったような野菜なんてよく食えるな。何を養分にしてるか分かったもんじゃねぇぞ?」

「旨いならそれで良い。それに何を使ってても知らなきゃ問題ない。」



少なくとも家の庭に死体やらなんやらを埋めた覚えはないしな。


バリバリと白菜を千切り、適当に鍋へと放り込む。まあ知ったとしてもどうでも良い。どんな肥料で育とうとも、結果的に手元にあるのはうまい野菜だ。ふーん、と分かったような分かっていないような返事をひ居間から出ていった。


帰るのかと思ったが、ドタドタと足音が聞こえる辺り、大方家の中にいる小妖怪を追いかけ回しているらしい。総大将の癖にやることか三下的だ。心の中で被害を被っているだろう天井下がりに同情する。


ちくわを半分に切り、大ぶりな椎茸に十字を入れる。多分入れる順番とか切り方とかいろいろあるのだろうが、大したこだわりも知識もないので切ったものから突っ込んでいった。


鍋の素を入れ、蓋をし煮える鍋を気にしながら茶碗と取り皿を並べていく。頃合いをみて鍋を火から下ろし机へと移動させていると鬼ごっこを終えたらしいぬらりひょんが戻ってくる。そして机の上の二人分の食器に首を傾げた。



「ん……?誰か他に住んでる奴がいるのか?」

「いや、俺は独り暮らしだ。」



そう答えると更に分からないと傾げるが、つとハッとしたように俺をみた。



「……っ、まさか!?」

「…………。」

「独りで食べるのが寂しいからって見えない友達と一緒に、うわっ!!」

「全然違えよ、心得た顔すんな。熱々のネギ鼻に突っ込むぞ。」



ふざけた回答を導きだし可哀想なものを見る目で俺を見る奴にお玉を投げつける。鍋に入れられて金属のお玉は熱々(あつあつ)だったとかは、知らん。


見事にお玉はぬらりひょんの頬に熱々の一撃を加えたらしく、奴の頬には赤く丸い痕がついた。



「ちょっお前、熱いじゃねえか!火傷するわっ!」

「せっかくだから左頬にもつけようか。」

「どこのお笑い芸人だっ!」


「右頬を焼かれたんだから左頬も差し出せよ。」

「俺キリスト違うっ!」



氷氷、と呟きながら氷をとりに台所へ走っていくが、他人の家で馴染みすぎでは無かろうか。

適当に鍋から皿に具材をよそっていく。



「おい、早く戻ってこい。」

「へーへー、次はなんだよ……。」



頬を氷で冷やす涙目のぬらりひょんを呼びつけちゃぶ台の向かいを箸で示すが訳が分からないというように目を瞬かせた。



「……食っていいっつってんだよ。」

「へ……マジで!良いの!?」



良いのかと言いつつさっさと向かいに座りいそいそと箸を持った。


一応白菜をとってもらった礼も兼ねて、だ。流石に妖とはいえ働かせてはい、さようならじゃ後味が悪い。

なんとなく言い訳をしながら鍋に箸を伸ばす。



俺はまだ知らない。


この日を境にぬらりひょんがやたら家に訪れて面倒なことになることを。


木下出雲高校二年の夏。図らずして総大将の餌付けに成功したとある一日。


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