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人口は目に見えて減少し、水道、ガス、電気は止まり、学校も会社も無くなった世の中は、文明が成り立たなくなってきた。

だから、これより先は映像がなく、誰が書いたのかもわからない書物でしか残っていない。


先生、同級生、上司、隣人たち、親戚だけではなく家族までなくなった人が大勢居た。

そんな中でも、残飯を漁ったり、畑に残る野菜、家畜やペット、雑草を食べたりしながら必死でみんな生きていた。

病気になったら、諦めて死を待つしかなかった。

精神はボロボロで、何かを楽しもうなんて誰も思わない。

やせ細っていき、死ぬかもしれないという時、半分ほどの人間は今までの生活を捨てた。

誰が声をあげたわけでもなく、今までの生活にすがりつく人間と、その生活を捨ててもう一度始めから生活をやり直す人間に分かれたのだ。


すがりついた人間たちのその後は著者も、その周りの人間も知らなかった。

残った瓦礫はあれど、人の姿を見ることはなかった。

文明を捨てた人間たちは刃物と縄と、火打ち石もしくはマッチだけを持って街を出てきた

。屋根のある場所を拠点として、一つの集落にいたのは十数人程度。

数キロを行動範囲としても、誰とも会うことはなかった。もしかしたら、他に集落など無かったのかもしれない。

一緒にいた青年の中に、農作業に詳しい人物が居て、彼のおかげで私たちは畑をつくり、少ないながらも安定した食料を得ることが出来た。そこから、私たちの行動範囲は増え、子供達も大勢できて、生きていく先が見えた。



「我々の先祖はこの文明を捨てた人間たちだ。彼らのおかげで、我々はこうして貧しいながらも生活することができ、他国との交流もようやく持ち始めた。ちなみに、数百年経った今も、すがりついた人間たちのその後を知る人物はいない。」

誰が予想しただろうか、たった一つの液体でここまで人がいなくなるなど。想像図だと渡された、先祖たちが生活する絵を見ると、ずっと昔に見た弥生時代の絵にそっくりだった。



「先生。資金はどうなりました?」

人がいなくなったのを確認した少女は、今日も教師へ問いかける。反応はいつもと同じだった。

「未だ変わらないな……。私にもわからん」

いつもは理由を問いつめる少女も、さすがに十数回目ともなるとうつむくだけで口を開かない。

「何かわかれば、すぐ伝えよう」

そう言う教師にも泣いているような顔で笑うだけで、少女は何も言わなかった。

物言わぬ不安が教師を襲ったが、声をかける頃には少女はいなくなっていた。




どうも生きる気力がでない。すべてに絶望したようだった。

お腹が鳴ったがどうしても食欲が出ない。

目隠ししなくても食べられるようになった夕食にも手をつけず、ベッドに横になった。

母親が部屋まで来ても、起きあがることすら億劫だった。

いつになったら資金が集まり、決定するのだろう? もしかしたら、今までの政府のように期待させるだけさせて、うやむやにして終わるのかも知れない。

そんな不確かなものを待ち続けるなんて私の身が持たない。そう考えると涙が出た。

どんどん闇の底に沈んでいく気分だ。

天国でも地獄でも、この世からいなくなれば菌は見えなくなるのだろうかと、あふれ出る涙が枕に沈んでいった。




少女は、学校へ行く気力もなくなっていた。

ただただベッドで横になり、時たまふらりとどこかへ出かける。

両親も、諦めていた。教師からも何も連絡はない。

いつになっても、いつまでたっても現状は何一つ変わらない。

諦めた少女は、ある日菌の集まる家を出た。


その日、教師が「支援金が増え、来年から旧東京で生活用の巨大なクリーンルームを作ることが決定した」と伝えてきた。

しかし少女の行く末は誰も知らない。



2305年の春のことだった。北陸地方の崖下で、少女の水死体が発見された。


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