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「細菌目視では最大の事件がこれだ。今までに見せたものよりも悲惨になっている。少しでも気分が悪くなった者は、すぐに隣接している保健室へ行って欲しい。」

その言葉に、先日倒れた少女は映像が始まる前に保健室へ向かった。


それを確認した教師は、「みんなも知っているだろう、手指にアルコール消毒すると、ほんの一分足らずだが、除菌できることを。たいした除菌にはならないし、先人たちも見て分かるだろうに、効果がある、という噂が流れた。」

教師はもう一度、保健室に行っても良いのだと伝えると、映像を流し始めた。



どこかの施設での様子らしい。火災発生の原因を、再現VTRにまとめたものだという。

主婦らしき女性が、掃除機を片手に、手指どころか全身、家じゅうにアルコールをまき散らしていた。

それだけならば、まだ良い。次に女性は台所に立ち、まな板からフライパン、コンロにまでアルコールをかけていた。揮発すれば問題ないだろうが、その女性は、あろうことか火の傍でアルコールを吹きかけた。とたん、爆発する室内。

不自然に感じるのはCGだからだろうが、あまりに現実味を帯びていた。煙で画面が灰色になり、再現VTRはこれで終わった。


なんだ、思ったより大したことないじゃないか。と思っていると、黒い画面が真っ赤に染まる。火事だ。家が一軒燃え上がり、近隣の住宅にも被害を及ぼしていた。

消火器程度では止められることはできず、大きな火災が発生する。

範囲を広げていく火災に、撮影者も画面を揺らして逃げ出した。

数秒の砂嵐のあと、大勢のうめき声に慌てた声、怒鳴り声だけが聞こえた。

会話の内容から、病院だとわかる。声に続いて映像が出た時、全員が息をのんだ。

満足な治療も受けられず、ただれた皮膚がそのままの人たち。

ベッドどころか椅子も足りず、床に寝そべる怪我人も大勢居た。

撮影者は、医師たちが駆け回る病院を出て外の様子を映し出した

。空が煙で黒く染まっている。少し視点を下げると、家々が燃え上がっていた。サイレンの音は鳴らない。

多くの場所で発生した火災はとどまることなく広がり続け、消火活動も間に合わなかったのだ。ふと、正面からゆっくりと向かってくる焦げ茶色の何か。人と同じくらいの大きさだろうか。

だんだんとハッキリしてきて、人間だ。と何人かのクラスメイトが息をのんだ途端映像が途切れた。最後に映っていたのは人だった。歩いているのが不思議なほど全身に火傷を覆っている。焼けた皮膚は垂れ下がり、地面を引きずっていた。


次に映像が出た時には、カラー映像から白黒へ変わっていた。ということは、これから悲惨な光景が流れるということだ。

生徒全員が身構え、覚悟を決めた。

地面にはがれきが散乱している。2メートルを超える建物は崩れて何もなく、木々もかろうじて立っているものばかりだ。

そんな景色を映しながら撮影者は歩いていく。先ほどの映像とは違い、すでに火は消えていた。歩いている者は一人もいない。


悲鳴が上がると同時に、ブツリと映像が切れた。

少女も息を飲んで、はき出さないように口を押さえた。

恐ろしかった、最後に大きくナニかがうつったのだ。

人のような顔。髪も鼻も、耳も片方なかった。右瞼は落ち窪み、どう見てもそこに眼球が入っているとは考えられない。少女達と同じような肌はしていない。赤く爛れたそれは、やはり人の輪郭をしていなかった。

「この火災は全国で起こり、人口は一万を切った。あまりのことに国は一般階級の人間を見捨て、富裕層と一緒に国外へ逃亡したと言われている。」

この中で唯一平気な顔をしている教師は、そう吐き捨てた。



さすがに図太い神経のもつ少女も、この衝撃的な映像には気分が下がり、足取りは重い。

その少女の首筋に、なにか冷たいものがあたった。どうやら雪が降ってきたようだ。例年より早い雪。

マフラーを口元まで上げ、歩くペースを早めた。

雪は好きだ。ただでさえ乾燥で細菌が増える冬に、雪が降れば寒さでだいたいの細菌が増殖を停止してくれる。かといって、雪で騒ぐような歳でもなかった。



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