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『5年かけ、下位階級の人間は滞りもなく細菌目視の生活に慣れた』


人間たちが変わりなく生活している映像をバックに、そんな無機質な文字が流れる。

そのことから、世界政府は全人類に細菌目視液接種と、危険な細菌の把握の義務化を決定した。いや、細菌目視の生活に慣れていなくても、世界政府は実行していたかもしれない。

唯一それに難を示した男、小林世次という人物がいたが、映像どころか写真すら残っていない。

発言力のある人間のうち、細菌目視化計画の問題点に気づいたたった一人の危険分子は未来永劫消し去りたかったようだ。

もちろん、その男の意見は通らなかった。あげく、彼は殺人未遂の罪で投獄され、誰も知らぬ間に処刑されたという。


なぜ、他の学者は反対しなかったのか、という当たり前の質問に、教師は「権力だ」と苦々しく答える。

「もちろん、反対しようとした者はいたが、すべて政府に届く前に抹消された。そして、見せしめのように小林世次が投獄されてから、誰一人として反対する者はいなくなったのだ。」

そして教師は、もし小林世次の立場だったら、殺されると分かっていても反対を唱え続けるかどうか、自分の意見を作文用紙一枚に書いてこい、と課題を出した。


いっせいにクリーンルームを出る生徒たち。それを横目で見ながら、少女は堪えきれない喜びと、期待に目を輝かせて教師に問うた。

「先生! いつ頃クリーンルームは出来ますか?」

「まだ案が出たばかりだからなあ……わからない」

眉をひそめて首を振る教師に、少女は失望して肩を落とす。

案が出たばかりなんて。いつその案が取り消されてもおかしく無いじゃないか。

落ち込みながら出ていく少女に、教師はため息をついた。





ため息をつき、うつむきながら歩く。先日とはうって変わって、足取りは重い。

足が上がらず何度も地面につまずいた。帰るのに、登校した時の3倍は時間がかかりそうだ。

「あの……」

聞き覚えのある声。振り返れば、前に転んでいた少年だ。

少し頬を染めている少年に、首を傾げる。金魚のように口を開閉した少年は、意を決して叫んだ。


「つ、つき合ってください!」


その言葉に驚愕した。頭の中でなんども繰り返される。

いやいや、待ってよ。なんであたしなんかを好きになったの? 何度も話したことがあるわけでもないのに。

色々な思考が渦巻く中、少女が声に出したのは「少し待ってくれ」の一言だけ。その返事に、少年は笑って了承した。


ぐるぐると巡る思考のまま帰宅した少女はベッドへ飛び込んで考えた。

友達が顔を赤くし、声をあげて楽しそうに。まだ未経験の相手には「私の方が先輩ね!」と自慢げに顔を歪ませて話すコイバナ。つき合ったら歩くときは必ず手をつなぐとか、二人きりになるとキスするとか、夜はベッドへ入り、熱く肌を重ねるとか。

そんなことを話していたな、と思い出して、想像してしまった。えづくように嘔吐が止まらなかった。

ただでさえ細菌の集まる手指を重ねたり、見るのでさえ嫌な、細菌のうごめく口どうしを重ね合わせ、あげく細菌の温床の唾液を交わらせたり。細菌のまとわりつく体を重ねるとか……。


あふれ出る唾を飲み込み、布団へ潜り込んだ。あたしに恋なんて絶対ダメだ……




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