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よく食べますね



 待ち合わせ場所は、駅近くのファミリーレストランだった。

 日曜も昼間近くということもあって席の半分は埋まっていたが、後から人が来ることを伝えると、コーナーの比較的ゆったりとした席を案内してくれた。

 待ち合わせの時間よりだいぶ早く着いた二人は、早めの昼食をとることにした。とは言え、それほどまだお腹の空いていない麻友はコーヒーとケーキのみを注文。一方で松井は、ステーキ定食にご飯大盛りのうえ、スパゲティまで追加していた。


「あっ、食後にアイスとコーヒーも」


 注文を受けてくれた店員までちょっと含んだ笑いをしていたが、一礼してそのまま戻っていってしまった。


「相変わらずの食欲ですね」

「朝御飯が抜きだと思うと尚更な」


 松井はそう言うと、満足そうにソファーにもたれかかった。

 昨日の松井はいつものようにスーツを着ていたが、今日はさすがにジャケットは羽織っていない。それでも質の良さそうなワイシャツを、パリッとのりを効かせて着こなしている。

 ボタンを開けた胸元から胸筋がそれとなく見えたり、袖からわずかに見える時計がシンプルなのにとても高そうだったり。

 それでなくとも精悍で男の色気を振りまく顔立ちは、注目を浴びないわけがない。


 本人達はあまり意識していなかったが、周りから浮いた二人は非常に周りからの視線を集めていた。


「ファミリーレストランなんて久しぶりだ」

「私は夜にお腹が空くと、今でも利用しますよ」

「まあ、そんな時はコンビニで買ってすましたりするかな」

「……それで、私に夕食をよく誘ってきていたんですね」


 そう言えばよく食べるくせに、松井は食事に頓着しない。一人の時は、カップラーメンだっていい、という勢いだ。だからこそ、人を誘ってどこかへ食べに行こうとするのだが、よく見れば麻友以外にはそれほどマメに誘っている様子もない。


「全然乗ってくれなかったけどね」

「二人きりはさすがに……」


 麻友が苦笑いをして答えると、松井はにやっと笑った。


「この前、二人で行ったじゃないか。もうこれからはいいんじゃないか?」


 そんな松井の誘いにも、麻友はひとつため息をついて答える。


「あの時は、取締役が落ち込んでいたからです。それだけで、もう私が落ちたと思ったんですか?」

「相変わらず固いなぁ」


 松井はぶつぶつ言いながら、運ばれてきたステーキを食べ始めた。

 いつものことだが、食べるスピードが早い。

 急いでいるようには見えないのだが、一口が大きいのだ。

 ステーキもご飯もサラダも、あっという間に胃袋に消えていく。


 麻友もコーヒーをゆっくり飲みつつ、その様子を楽しげに見つめた。


 コーンスープを間に飲みながら待っていたが、次に運び込まれたスパゲティまで置かれるやいなや数口で食べきってしまった。

 食後のコーヒーとアイスの出すタイミングを間違えた店員が、慌てて厨房に消えていくのが見えて、麻友は口に含んだケーキを吹き出しそうになってしまう。

 麻友には見慣れた光景でも、初めて見た人達にはやっぱりびっくりされてしまうようだ。仕事が立て込むことが多く、自然と早く食べる癖がついてしまったのだと、以前聞いたことがあるが、それにしても早くて豪快な食べっぷりだ。

 作り手としては気持ちよく食べてくれるので作りがいはあるが、作った時間に比べて食べ終わる時間があまりにも早いのは、なんとも言えない気持ちにはなることはあるが。


 ようやくお腹が落ち着いたのか、松井はふうっとため息をついて伸びをした。


「落ち着きましたか?」

「まあな……ただ、あとでパフェも食べたくなってきた」

「ぶっ……」

「吹き出すなよ」


 麻友は必死に笑いをこらえようとしていたが、身体は小刻みに震えていた。


「……見ていたら久しぶりに食べたくなったんだ……笑うこと無いじゃないか」

「そ、そうですね。失礼しました」

「お前、言葉は丁寧にしているが、全然尊敬してないだろう」

「微笑ましい気持ちで満たされています」

「……やっぱり馬鹿にしているな」


 仏頂面の松井の横で、麻友は苦しそうに笑いをこらえていた。

 ただ、そんな麻友の笑い顔にドキッとしたなんて、言ってやるもんかと松井は思っていたのだが。




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