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親子のつながり



「麻友はしっかり仕事をしていますか?」


 大きなダイニングテーブルを囲んで座り、麻友が作った夕食をいただいていた。机の上にはサラダとロールキャベツと、お酒のツマミになりそうなものが数品並んでいる。どうやら、圭吾も麻友も食事の時はお酒を飲む人のようで、ビールの他にワインも用意されている。

 初めに聞いてきたのは圭吾の方だった。松井はスープの沁みたロールキャベツを味わいつつ、質問に答えた。


「飲み込みが早く、的確です。無くてはならない存在になっています」

「それは良かった。でも麻友、上司を前にしてなんだが、あまり無理するなよ。お前は頑張りすぎるところがあるから」

「でも、その上司がけっこう頑張らせちゃうから」


 圭吾と麻友の視線が松井に集まると、松井はやや慌てたように言葉を続ける。


「いや確かに、私のペースに無理に付きあわせてしまっていました。どんどん向かってくるから、つい……これからは気をつけます」


 松井が珍しく頭を下げると、圭吾は笑いながら顔を上げるよう促す。


「頭を上げて下さい。……期待している人間には、そうなりますね。解ります。麻友もそう思われて幸せです」

「すみません」


 やはり圭吾は優しい人だ。それぞれに気を配りながら声をかけてくれている。松井はほっと胸をなでおろした。


「お父さんも無理しないでよ。仕事、相変わらず忙しそうだけど」

「そう言えば、何のお仕事を?」


 これだけの大きな家を持って維持できているのだから、それなりの収入があるに違いない。 松井は疑問に思っていたことを聞いてみた。


「証券会社で働いています。ですから、あまり家にいられる時間がなくて。ご存知かもしれませんが、母親も早くに亡くしたので、寂しい思いをさせてしまったな、と反省しています」


 証券会社。それは確かに家に帰っていられる時間も少なかっただろう。その中で、母一人、娘一人の繋がりは強く、確かなものだったに違いない。

 母親の死は、今は明るい麻友にどれだけの影を落としたのか……。聞くまではまったく想像もしていなかった家族関係に、松井も思わず黙ってしまう。そして、ふとその母親の写真を見上げた。

 松井は気付いた。なぜ写真の女性は眠っているかのように、穏やかな笑顔でうつむいているのか。おそらく視線の先、自分の足元か手元に愛しい存在……麻友がいるのだろう。

 そう思うと、ふと松井の胸に熱いものがこみ上げてきた。

 さりげない麻友の写真への挨拶、父親への態度。でも、そこに込められた深い愛する気持ちと抑えた寂しさが、急に理解できたような気がしたのだ。


「大丈夫よ。私は幸せよ。だけど、一人は嫌だからお父さんは長生きしてね」


 少しだけ甘えたような娘の顔になっている。圭吾は嬉しそうに麻友の頭を撫でると、気持ちよさそうにそれを受けていた。

 松井がした時とは違う麻友の表情に胸がずきっとするが、それと同時に親子の繋がりに胸が苦しくなる。

 寂しさはあったのだと思う。だけれども、それを見せない強さも育っていった。

 きっと父親として申し訳なく思いながらも、そんな娘を誇らしく感じているだろう。


 そんな二人の温かいやり取りを眺めながら、久しぶりに賑やかな夕食は過ぎていった。



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