恥も外聞も投げ捨てたい。
背後で、地面が鳴る。
ドンッ。ドンッ。ドンッ。
一歩ごとに、森が揺れる。
「っ……は……っ、は……!」
呼吸が乱れる。
全力で走っている。
だが——距離が、離れない。
木々の隙間を、押し潰すように進んでくる“影”。
明らかに——デカい。
枝が折れる。幹が軋む。細い木は、ただの障害物にすらなっていない。
スタミナゲージが減っている。
今度は、はっきりと。回復が、追いついていない。
横をかすめる風圧。
遅れて、
ドォンッ!!
と、地面が爆ぜる。
「くっそ!っなんで!っまた!っっ逃げてんだ!」
悪態付きながらも、足を止めない。
迎撃は。
無理だ。[バカぢから]のクールタイムが間に合ってない。
逃走は。
こちらも無理だ。[疾走]のクールタイムも回復してない。
感じる。熱。圧。
殺意。
「——来る!」
|スキル発動 [ハイジャンプ]
視点が上空へと切り替わる。
直後——
ドォォンッ!!!
さっきまでいた場所が、消える。地面が抉れ、土が宙を舞う。
「プギィィィィッ!!!」
咆哮。空気が震える。
上空から視認する。相手の正体がわかる。
巨大な体躯。だるんだるんの脂肪に見せてるが、その実、高密度の筋肉の層で作られている。異常なまでの、質量。短い脚。それでも、あの巨体を支えてるんだ。並大抵の脚力じゃない。
遠目に見たら、豚。
近づいたら、ただののダンプカーだ。
「どうして、こうなった………。」
視界が、ゆっくりと落ちていく。
時間が伸びる。
思考が、巻き戻る。
さっきまでの行動を、振り返る。
「まだ……距離があるな。」
黒い塔を見据える。だが、その道のりは遠い。
黒い塔を確認したが、結構な険しい道だった。
後ろの塔と比べれば黒い塔はまだ小さいが、それは、月と太陽を比べるようなものだ。
地面からは、よくわからん。
どっちも超が付くほどの高層建築だ。
到達までの距離が長いことに、変わりはない。
「そういえば、………。」
思考が切り替わる。
スキルの検証もしたんだったな。
さっきのゴブリンとの戦闘中に2つ、塔の確認に1つ。
使用したスキルの詳細を思い出す。
|[疾走]
|スキル使用中、自身の移動速度を増加し続ける。
|
|ステータス上昇値
|STR(筋力):5, DEX(器用):5
|[ハイジャンプ]
|スキル使用時、自身の脚力を強化する。
|
|ステータス上昇値
|STR(筋力):5, DEX(器用):5
「………で、[バカぢから]は確か。倍加だったか。」
筋力の数値を倍にするスキルだったはず。あれは、分かりやすい。
でも、他2つのスキルは詳しい数値が載ってない。
ステータスを確認しても、どこにも、“移動速度”や“跳躍力”に関する数値は乗ってなかった。だから少し不安を感じていた。
「けど、杞憂だったな。」
[疾走]は最初から使っていたらダメージを食らわなかっただろうし、
[ハイジャンプ]は実戦で使えるほどの跳躍力を持ってた。逃げにも、攻めにも使える。
[バカぢから]は少し怖かったぐらいだ。
それぞれのスキルの良かったことを挙げる。次にデメリットだ。
スキル詳細に載ってない悪かったところを頭の中で思考する。
どうやら、[強化スキル]の3つはスタミナを消費して、スキルを使っていた。
[疾走]を使えば、徐々にスタミナが減っていた。少し、移動しただけでスタミナはほとんどなくなっていた。
[ハイジャンプ]は跳躍1回しかスキルが乗ってないようだった。
極めつけは、[バカぢから]だ。スキルを使用直後、スタミナ、全消費。赤いオーラを纏ったとき、スタミナがすっからかんだった。
あの時は相手から動いてくれたからいいが、自分から攻撃を仕掛けることができなかった。
どのスキルも強みがある分、弱いところも出てくる。
「使いどころに気をつけなきゃな。」
そう呟きながら、ウィンドウを開く。スキル詳細を確認しようとして止まる。
|レベルが上がりました。基礎ステータスを割り振ってください。
|スキルポイントを獲得しました。
|新しいスキルを覚えました。スキルポイントを消費して取得してください。
通知が来ていた。
「え?……。」
通知の内容を見て困惑する。
「レベルあったの?っていうかステータス割り振れんの?」
疑問が増え続ける。だが、困惑の中に少し、期待が込められている。
ステータス欄を開くと、上昇値をプラスされたステータスが表示される。変わった様子はない。
あれ?なんで?
もう一度通知を見ると、『基礎ステータスを割り振ってください』っと書かれていることに気づく。
基礎ステータス?
ステータス一欄をもう一度確認すると、区分けされた場所。基礎ステータス欄があることに気づく。
「……あ。」
両手で顔を隠す。
「かずかしい!もう、俺ヤダ!」
顔を真っ赤にしながら、自分のポンコツ具合に涙が出る。
基礎ステータスとか、ステータス一欄とか名前を一緒にすんなよ!!
わからんわ!一緒かと思ってたわ!
落ち着くまで暫し時間がかかった。
「……切り替えていこう。」
基礎ステータスこれは単純なものだ。
|HP(体力)
|MP(魔力)
|STM(持久力)
左上をある、三本のゲージ。これを数値化したものだ。
|LV:3(StP;3)
|HP(体力):10 (+)
|MP(魔力):10 (+)
|STM (持久力):10 (+)
ステータス欄を確認した時と同じ、10に統一されている。だが、違う部分も存在している。
「StPね。」
StP。ステータスポイント。これは基礎ステータスしか上げられない。
ここで、差をつけてくるか。
HPを上げれば耐久力が
MPを上げれば魔法。
STMを上げればスキルの回転数。
こんな感じか。
「とりあえずスキルを多く使いたいし、スタミナを上げるか。」
そう考えて、STMにポイントを振る。ここで、基礎ステータスに変化が起きる。
|LV:3(StP;2)
|HP(体力):10 (+)
|MP(魔力):10 (+)
|STM (持久力):11 (+)(-)
StPが1減り、STMが1増える。ここまでは予想通り。だが、(-)があらわれた。
マイナス?
自分の中に一つの仮説が生まれる。
「まさか…………。」
(-)を押すと、
|LV:3(StP;3)
|HP(体力):10 (+)
|MP(魔力):10 (+)
|STM (持久力):10 (+)
先ほどの基礎ステータス欄に戻っていた。
「……はは。」
理解する。
「振り直し、………できるのか。」
つまり——
「好きに、割り振れるってことだ。」
本来はこれが普通ですけどね。
*クールタイムはゲーム用語で、スキルの再使用までの時間を表す単語です。




