視野角300°
構え、視線を合わせる。
互いに、動かない。
目の前に対峙するのは、緑肌の人形モンスター。
ゴブリン。
サイズはプレイヤーの半分ぐらいで、麻布かなんかで腰と胴を隠してる。
手には木の棍棒をもっている。それを、振り回して戦うんだろうが、サイズのせいでリーチがない。
相当近づかれない限り__たいしたダメージにはならないかな。
ゴブリンの観察を続けてると、目線をたまに上の方に向けていることに気づく。
チラチラと、上に目を向けているゴブリン。
あぁ~なるほど。
上に仲間がいるのね。誉は海に捨てたか……。
__そうと分かれば、こちらか手を出すことはできなくなった。
自分が攻撃を仕掛けるタイミングを狙われたら対処のしようがない。
もう一体の位置を計ろうと、動こうとした。
瞬間。
「ギャッ!」
対峙するゴブリンが踏み込んだ。
「グギャギギッ!!」
それと同時に木の上にいる敵も奇襲を仕掛ける。
敵との位置関係的に木の上の方が早い。
音を頼りに相手の方に顔を向ける。
そこには、今にも棍棒を振りかぶろうとしている。ゴブリンがいる。
__回避は………無理かな。仕方がない。
左腕を掲げながら、右手に持った片手剣を構える。
「左手はやるよ。」
__狙うなら、着地。
ゴブリンが振り下ろす。衝撃。鈍い重さが、左腕を潰す。
強い衝撃を左手で感じながら、着地で硬直したゴブリンに、片手剣の斬撃をくらわす。
それだけでは、倒せなかったのか、よろめくゴブリンに追撃をしようとして、妨害が入る。
初めに対峙していたゴブリン(誉なし)が、棍棒を振り回しながら距離を詰め攻撃してくる。
一歩、引く。
それに対処するために、大きく距離を取る。
二体との距離を離しながら、思考する。
「……今の一撃、入ったな」
左腕を犠牲にした分、ダメージは通っている。
あと一撃。
あの奇襲側に、もう一度当てれば落ちる。
そういえば、スキル忘れてたな。試してみたいしちょうどいい。
現状、使えるスキルは3つ、
|[バカぢから] , [疾走] , [ハイジャンプ]
この中で攻撃に使えそうなのは、1つか。
再び、ゴブリンが踏み込む。
迎撃の構えを取る。
|スキル発動 [バカぢから]
その瞬間、赤いオーラが全身を包む。筋力が上がったのを肌で感じる。呼応するかのように片手剣がミシミシと鳴る。
タイミングを見計らい、武器を振るう。
一閃。
ゴブリン(誉なし)が、弾ける。砕ける。
粉々になりながら、木に勢い良くぶつかる。ポリゴンの光に変換され、倒したことがわかる。
「えぇ…………。」
いきなりグロい………。粉々になったゴブリン(誉なし)のいた場所に目を向ける。ドロップアイテムはなし。今の俺、自分の力が暴走した哀しきモンスターじゃん。
奇襲を仕掛けたゴブリン(奇襲)がドン引いた目で見てくる。
全身を包んでいた赤いオーラが消えていく。効果が切れたみたいだ。時間が短い。だが、まあいい。
「……さて」
ゴブリンを見る。敵は1体。ダメージはお互いに一撃ずつ。
「けどな………。トントンってわけじゃねえよ。」
|スキル発動 [疾走]
その瞬間俺が消える。
ゴブリンが認識したのはここまで。
ゴブリンの背後、…………振り抜かれた剣。
ポリゴンの光に変換され、ドロップアイテムが落ちる。
「お!やった!ドロップアイテムだ。」
ドロップしたものは、棍棒。片手で振り回せる適度な長さを持っている。殴打用の武器。俺の左腕を持っていったやつだな。まだ、ついてるけど。
「まあ初ドロップなんて、こんなもんか。」
というか、
「いってぇ………。」
左腕を見る。いや、痛いわけじゃないけど。
痛いっていうか、握りこぶしをグリグリと押し付けてきてるような感覚がずっと続いている。
左上を確認すると体力のゲージが減っている。回復する様子はない。
「検証のために受けるのはまずかったかな。」
回復アイテムなんて持ってないし、町に行けばあるんだろうけど無理だしな。
__早まったか?
そう考えながらも、左腕を診る。
戦闘中には不確定要素を入れたくなくて左手を使わなかったが、特に動かせなくなった訳ではない。
ドロップアイテムの武器を持ち振るってみる。行動を阻害されるような感覚はない。ダメージ量に差があるかもしれないが今はパス。相手がいないから。
どうやら今のところは”気になる”ぐらいしかデメリットがなさそうだ。体力が減っているのは置いておいて。
「今は体力をどうすることもできない。」
だから、とりあえず
「兜探しを始めるか。」
思考を切り替える。
場所は森の中、
対象は、兜や仮面、顔が隠せるもの。
PK、追い剝ぎはNG。
モンスターのドロップアイテムに頼るしかない状態。モンスターの分布すら知らないのに。
「だが、完全に詰んだわけじゃあない。」
ゴブリンとの戦闘中。白い塔とは反対方向。
そこに、黒いものが見えた気がした。
|スキル発動 [ハイジャンプ]
視点が一気に持ち上がる。
「はっは!!やっぱりだ!」
見えた。
黒い塔が聳え立っていた。
確信する。
「ダンジョンだ!」
その言葉に反応する用に黒い塔が怪しく光った気がした。
視野は広いんです。広すぎて焦点が合ってないんです。典型的な草食動物です。




