飛べないものは落ちるだけ
魔法。
森羅万象に根差す、属性を操る術。物理法則をねじ曲げ、現象そのものを引き起こす力。
魔法1つで世界観を決定づけることもある。
だが、多くの作品で「完全な何でもアリ」ではなく、ルールがある。
このゲームでは、魔法を操る為にはスキルの補助が必要になる。
そして、スキルで取得した魔法はその”属性”を操ることではなく、
その”術”を一つ一つ習得しなければならなかった。
つまり。
火を操る、ではない。水を操る、でもない。
「……一個ずつ、覚えろってことか。」
スキル一覧を開く。
|[水魔法] SP2、
|水魔法[水球]を取得し、それ以降は、
|SPを消費することで、水魔法の習得を可能とする。
|水魔法[水球] SP0
|スキル使用時、水球を作り出し、発射する。
|
|ステータス上昇値
|INT(知力):10
少し、ややこしくなるが、
[魔法スキル]という大枠の中に、また、別の[水魔法]という“系統”があり、その中で“技”を個別に取得する。
魔法は作品によっては様々な解釈がされているが、
最もポピュラーな使われ方は、
遠距離攻撃。
このスキルも例に漏れない。
右手にある杖をもてあそびながら、状況を俯瞰する。
「さて、どうしたもんか。」
現在、渓谷には、大まかに分けて3種類のモンスターがいる。
まず、渓谷に攻め入っているゴブリンの集団。
何のために入ってきたのか知らないが、こいつらのおかげで、渓谷の状況が動いたから感謝しとこう。なーむー。
渓谷の状況が動いたってのは、
この渓谷のモンスターたちの縄張りが、住み分けられていたのが原因だ。
渓谷の底、を縄張りにしている蛇型のモンスター。
渓谷の壁、を縄張りにしている鳥型のモンスター。
本来、この渓谷の領土争いをしていたモンスターはこの2種類だったのだろう。
互いに干渉しすぎない距離を保ちながら、
縄張りを維持していた。
だが、そこに。今はゴブリンが割り込んだ。
「三つ巴の対局を作れば、俺は楽に塔に行けるってわけさ。」
そのためにも、ゴブリンには頑張ってもらわないといけない。
杖を軽く回す。
「全員に、“別の敵がいる”って思わせればいい」
スキルを発動する。
選んだのは[水魔法]。
スキル発動後、幾らか時間がかかる。詠唱時間だ。
実際に言葉にだして、詠唱しているわけではなく、ただのポーズなのだが、妙な気恥しさがある。
技名を言葉にするのと、魔法の詠唱するのどっちも同じはずなのに。
視界の中心に魔法陣が展開されるが、よく見ればその魔法陣は不完全だとわかる。
陣は形成されているのに、その中身には文字がない。
しかし。
時間経過と共に、陣の内側へ“文字”が刻まれていく。
一文字ずつ。環状に。
文字が一周した瞬間、変化が起こる。
周囲の水分が強制的に収束する。
数秒で形成された水球は、
照準に向けて射出された。
狙うのは、ゴブリンと蛇型のモンスターの、ちょうど中間。
攻撃を当てる必要はない。攻撃されていると意識を上に向けてもらえばいい。
「ギャッ!?」
「シャァァッ!!」
両者が、同時に上を見る。
さらに。上空。
鳥型モンスターの影。
「……よし、乗った」
誤認。
“上から攻撃された”という事実だけが、残る。
空中という圧倒的に有利な場所から遠距離攻撃される。
その事は2種類のモンスターにとって、看過できないことになる。
狙い通り、ゴブリンと蛇型のモンスターの狙いが鳥型のモンスターに集中する。
「よし!あとは俺の準備だ。」
スキルを選択し、スキルセットを交換する。
ええと………塔までの距離は、おおよそ200メートルちょっと。
40メートルであれば、[疾走]と[ハイジャンプ]で余裕で届く。
スキルの詳細を見てたり、ゴブリン達の乱戦を眺めている間にも、着実に渓谷の上から塔まで近づいていた。
黒い塔は渓谷の底から、突き抜けて雲にかかるほどまで高さがある。渓谷の上にいても黒い塔の高さの半分ほどもない。それでいて、黒い塔の入り口は底にある。
だから、最短ルートを目指す。
杖を両手で持つ。
そして、言い放つ。
「スキルコネクト。
[バカぢから]×[疾走]。」
|スキルコネクト[過剰適応]を発動。
全身から力が沸きあがる。いや、暴れ狂う。
「マジカルパワー(物理)!!!」
地面に向かってフルスイング。
すぐさま、スキルを解除し、スキルセットを交換する。
崩落。
荒れ狂う力が地面に向かい。渓谷を崩落させながら自分も落ちる。
距離、200。
落ちる地面を鳥型のモンスターへの盾にして、突き進む。いや、落ちる。
160。
崩落したことに気づいた鳥型のモンスターが迎撃に来る。
120。
魔法を発動。水球。
だが、狙わない。
「そこだ!」
進路上に“置く”。
迎撃の軌道に。衝突。水が弾け、視界を遮る。
80。
体当たりするように迎撃してくるが、瓦礫が、邪魔をする。攻撃は届かない。
60。
後ちょっとで気づく、迎撃用の地面がどかされていることに、
50。
鳥型のモンスターの瞳が、俺を映している。完全に捉えられた。
「けどな、そんなことは想定内だ。」
インベントリは開いている。
棍棒を取り出し、それを足場に、
40。
「行くぞ!」
|スキル発動 [疾走]
|スキル発動 [ハイジャンプ]
鳥型のモンスターを追い越す。
視界が、開ける。
その先に。
黒い塔。
一直線。
重力すら利用した、加速。
「――到達ッ!!」
次の瞬間。
地面が迫る。
だが、止まらない。
これまでに見たことが無いであろう、ダイナミックにダンジョンに突入するのだった。




