ダンプカーは直線番長
何度目になるか。[ハイジャンプ]からの着地後。
衝撃を殺すように膝を曲げ、その反動のまま
すぐに回避の態勢へ移行する。
視線は、常に奴を捉え続ける。
巨体の四足獣。
奴が、助走距離を確保した。
「来る……!」
その瞬間。
__回避。
ドォンッ!!
爆発音のような衝撃が背後で弾ける。
遅れて、風圧が横をかすめる。
振り返る。
そこにあったのは破壊の跡。
木々は根元からなぎ倒され、視界が一気に開けている。
地面は抉れ、一直線に“道”ができていた。
ただの突進。されど、この巨大な体躯で行うのは、突進なんて生温い言葉じゃ利かない。
高速で突っ込んでくる鉄の塊。
それが意思を持って襲ってくるような錯覚。
直撃すれば終わりだ。
「だが、いい加減理解したぞ。」
呼吸を整えながら、小さく呟く。
こいつは突進しか使わない。
そして、使う突進は2つある。
一つは、障害物を無視して突き進む、猪突猛進。
覇気を纏い、空気ごと押し潰すような圧を伴う。
もう一つは、小回りが利く通常の突進。だが木々に阻まれて速度が落ちていた。
「そして……。」
「お前、…………スキル使ってんな。」
問いかける。
当然、言葉が通じるはずもない。
だが、
「ブルルルンッ!」
低く、重い鳴き声。
同時に、圧が膨れ上がる。
空気が震える。
奴の回答は、
障害物無視の猪突猛進が行なわれる。
「ははっ!やっぱり。」
正解した喜びも束の間。回避を行う。
ギリギリで軌道から外れる。
スキルを使っているなら、話は早い。
先程確認したように、スキルは強力だが、使いどころを間違えれば、自身に刃が返ってくる。
だから、奴はスキルを隠すように、普通の突進を、ブラフとして混ぜている。
視線を細める。
「使い分けてる。」
ただのAIじゃない。
明確に、“意図”がある。
「強いスキルには、必ず“癖”がある」
自分で使って、理解したことだ。
[バカぢから]はスタミナを全消費する。次の行動を封じる代償。
[疾走]は継続的にスタミナを削る。別のスキルを挟む余裕を無くしていた。
[ハイジャンプ]は行動回数が一度きりしかなかった。
「じゃあ……こいつは?」
視線を巡らせながら、思考を回す。
奴はスキル使用後も、通常の突進を混ぜてくる。
つまり、完全な行動不能にはならない。
継続型。
そして任意で停止している。
「……通過した瞬間、止めている。」
もし止めなければ、そのまま旋回して轢き殺せるはずだ。
なのにやらない。
いや――
「できない、のか?」
思考が繋がる。
「行動中に、何かしらの制約がある」
検証の数が足らない。
だが、理解した。[突進]は[疾走]のように、スキル行動中に欠点があることに。
そうでもなければ、スイッチを切り替えるように、スキルを使う理由がない。
行動中のデメリットってなんだ?
威圧感はあったが、HPは減ってなかった。もし、ダメージを受けていたら、エフェクトが出る。
MPが減ってるなら、あんな馬鹿スカ、スキルを連発できるとは思えない。
スタミナは減ってるだろうが、それだけじゃ効果が釣り合わない。
「なら、ステータスの方か?」
STR(筋力)は、木々が倒れる程の火力だから違う。
DEX(器用)、INT(知力)、MND(精神)なら、いちいちスキルを切り替える必要はない。
なら、…………耐久力か?
もし、…………スキル使用中に、VIT(耐久)が下がる。もしくは、下がり続ける。
それなら、突進を切り替えるのに納得がいく。
仮説は整った。
「検証の時間だ。」
必要なのは、十分な距離と、タイミング。そして、障害物。
ちょうどその時。
スキルのクールタイムが明ける。
「……いいね。」
笑みが漏れる。
「乗ってきた。」
対面。
巨体が、こちらを捉える。
ダンプカーがエンジン吹かして突っ込んでくる。
「スキルの乗ってない突進は、もう見切れてるんだ。エンジン取り換えて来な。」
威圧感が増す。[突進]が来る。
「来た。」
|スキル発動 [疾走]
すぐさま、距離を離し、木の陰に隠れる。
何度となく見た光景。あきれるほどに猪突猛進。障害物など存在しないと真っ直ぐ突き進む。
だが、
木を壊した瞬間。衝撃。
突進が、強制的に止められる。
巨体が、その場で弾かれた。
奴自身が自ら、俺の目の前で止まる。
このゲームでは、障害物はダメージを持たない。
リアルで木に突進しようものなら、自分が吹っ飛ばされるが、このゲームでは、木に突進してもダメージが入らない。
だから、
ダメージを持つ障害物を設置した。
木が壊れる事を合図に、手にした棍棒を、全力で投げる。
奴の突進は加速しすぎて、止まれない。
あるいは、軌道を変えられない。真っ直ぐ俺を狙ってくる。
だから、その軌道上に武器を置いてきた。
突進してきた巨体が、棍棒に弾かれるように止まる。
おそらく、耐久が落ちている状態で、その衝撃を受けた。
そうでもなければ、棍棒一つであの巨体を止められない。
巨体が大きく揺れる。
体勢が崩れる。
|スキル発動 [バカぢから]
全身に力が巡る。
踏み込む。
突進を止められ、隙だらけになった。豚に振りかぶる。巨体が揺れる。
次の瞬間、四足獣は光へと分解された。一撃で相手を倒し、光に変換される。
遅れて、アイテムが地面に転がる。
「……はぁ……っ。」
大きく息を吐く。
__まだ道中だぞ。
ウィンドウを開けば、レベルアップと新しいスキルを覚えた通知がでる。
肩の力が抜ける。
ふと、顔を上げる。
視線の先。
黒い塔は近づいてる。




