朝起きたら晴れていますように 〜拗らせももちゃん〜
しいな ここみ様主催『朝起きたら企画』参加作品です。
春の風がやわらかく吹いていました。
家の隣の小さな畑で、ももちゃん(9歳)は斜に構えて立っています。
お母さんが草を抜いているそばで、顔を手のひらで隠し、開いた指の隙間から土をのぞきこみました。
「母様! 芽が! 芽が覚醒している……!」
「ほんとだね。もう少ししたら食べられるようになるよ。あと……そのしゃべり方そろそろやめない?」
「ふむ……食されし宿命を背負ってなお、汝らは育つか……。フフッ、尊いものだ……!」
ニコニコ顔のももちゃん。すごく嬉しそうです。
それから三日後。
ももちゃんはひとりで畑へ行きました。
どうしても気になって、芽を一本、そっと引っぱってみました。
……けれど出てきたのは、細い根っこだけ。
胸がぎゅっと痛くなって、家に走って帰りました。
「母様、すまぬ。……摘み取ってしまった。まだ生きんとする未熟な命を……我がっ! 欲を満たすためにっ……!」
喋る言葉はヘンだけど小さい手のひらに大事そうに野菜の芽を乗せて涙ぐむももちゃん。
お母さんは笑って頭をやさしくなでました。
「ふふっ。大丈夫。そろそろ間引く時期だからね。選別一緒にやろうか」
「!? 選別……だと……? まさか、あの畑は弱肉強食の戦場……!?」
畑に戻ると、お母さんは芽を選びながら抜いていきます。
「ダメ母様! 抜いたら、抜いたら……!」
「そうね。でもね、こうして強い芽を残すと、もっと大きく育つの。
抜いた子たちも、ちゃんと生きてるんだよ。だから美味しく食べて“ありがとう”って言おうね」
ももちゃんは泣きながら、いくつかの芽を抜きました。
手の中の小さな葉っぱを見て、静かにつぶやきます。
「……すまぬ、か弱き者よ。汝らの意志は、我がしかと受け継ぐ」
家に戻って、お母さんと一緒にその芽をお味噌汁に入れました。
小さな緑が、湯気の中でやさしくゆれています。
口に入れると少し苦い味がしたけど、ちゃんと飲み込んでから小さくつぶやきました。
「……ありがとう。我が血肉となる感触が心地よいぞ。……苦い……」
壁のカレンダーを見ながら、お母さんが言いました。
「この日が晴れたら、収穫しようね」
「うむ! ……なら我は召喚しよう。天の加護を招く白き人形を……!」
ももちゃんはてるてる坊主を作って屋根の下にぶら下げました。
「頼んだぞ我が眷属よ。我が望み、しかと我にもたらせ!」
言ってることは偉そうだけど、手を合わせててるてる坊主にお願いするももちゃん。
晴れてくれるといいね。
それから毎日、畑に行って芽を見ました。少しずつ大きくなっていくのを見ると、なんだか嬉しい気持ちになります。
抜いて見てみたいけど、お母さんに言われた通り我慢しました。
そしてその日。朝起きたら空は晴れ。
「……晴れた! 奇跡の晴天、来たれり!」
お母さんと手を繋いで畑に行くと、畑の土が光って見えました。
ももちゃんが茎を引っぱると、赤い丸い実が顔を出します。
「これが……これが、選ばれし芽の力か!」
「そうだね。育ってくれてありがとう、だね」
ふたりでお日様の光を背中に受けながら、並んで収穫を続けました。
風がふわりと吹いて、畑の葉っぱがカサカサと笑いました。
「ももちゃん。しゃべり方直さないと晩御飯抜きだからね」
「お母さんごめんなさい」
童話とセットでここまで想定していました。
呑みながらのテンションで書きました。




