揺れ
「さらばです!」
ポチャリーニが、逃げ場のないエーに向けて非情に剣を振り下ろした。エーは覚悟を決め、静かに目を瞑る。
――スカッ。
しかし、振り下ろされた刃は空を切った。
「おっと……よろけてしまいました。年をとるというのは、真に、嫌なものであります。さて、気を取り直して……」
ドサッ!!
「な、何だこの揺れはッ!?」
立ち上がろうとしたポチャリーニが、カエルのように無様に地面へ這いつくばった。突如として会場全体が激しく波打ち、観覧席からは悲鳴が沸き起こる。
***
(まずい。観戦中ずっと座りっぱなしだ。おまけに食べ過ぎた。どうにかして、この余剰カロリーを消費しないと……)
レオは内心、猛烈に焦っていた。
バベルの隣での観戦は楽しい。だが、中身が30歳とはいえ、今の体は15歳の思春期真っ只中。好みの女の子を前に緊張し、沈黙を埋めるためにひたすら食い続けてしまったのだ。
「ねえ、レオ。エーさん、もしかしてピンチなんじゃない?」
かつて自分を攫った男とはいえ、今は大切な筋トレ仲間。バベルが心配そうに身を乗り出す。
(おいおい。エーのやつ、何やってるんだ。バベルを不安にさせるなんて……)
食べ過ぎとエーへの苛立ち、そしてバベルの隣に座っていることによる緊張が混ざり合ったその時、レオは自分の足が激しく貧乏揺すりをしていることに気づいた。
(そういえば、貧乏揺すりは一時間で100kcalくらい使うって聞いたことあるな。ちょっと意識してやってみるか……)
レオの超高密度な大腿四頭筋が高速振動を開始した。その振動は椅子を伝い、闘技場の地盤そのものを共振させた。
ゴゴゴゴゴ……!
「大変です! 地震です! 私自身、立っていることもできません!!」
実況の男が座り込み、マイクにしがみついて叫ぶ。
「ん……? 動ける……。それに、体が軽い」
凄まじい縦揺れの中、エーは驚きに目を見開いた。
レオの引き起こした震動が、ポチャリーニの展開していたグラビティの魔法陣を物理的に粉砕していたのだ。
日々高重量で鍛え上げたエーの体幹は、この程度の揺れではビクともしない。
ふと前を見ると、そこには地面にへばりつき、必死に土を掴んでいるポチャリーニの姿があった。
「……まさかお前、立てないのか?」
エーはニヤリと、最高に意地悪な笑みを浮かべた。




