ダンブルの絶望
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「違うんです。筋トレを教えるのはできます。そうではなく、ブレイさんの筋肉が2ヶ月でどれだけ大きくなるか分からない。古代魔法を使えるまで大きくなるのか、自信がないんです。」
筋肉は嘘をつかない。前世ではありふれた言葉だった。レオも同じく、そう思っている。しかし、期日がある場合は別だ。夏までになんとか仕上げたい。次の大会までに仕上げたい。そんな希望が打ち砕かれるシーンは幾度となく目撃してきた。
「ああ、そんなことでしたか。それくらいはもちろん覚悟の上ですよ。」
ブレイはそう言うが、レオは知っている。これは嘘だ。もちろん、今の気持ちそのままを言っているのだろう。本人に嘘のつもりはない。だが、2ヶ月後、古代魔法が使えなかったときどう感じるだろうか。こんなに頑張ったのに何で?あのトレーナー嘘つきやがった。そう言うに違いない。なんせ、レオが最初の2ヶ月で思ったことがこれだったのである。
それが怖くてレオはブレイに教えるのを少しためらった。
...いや、それ以上に筋トレの素晴らしさを信じた結果、裏切られたと感じてブレイさんが一生筋トレを嫌いになってしまうのが怖かった。
しかし、成功の確率をあげる方法を思いついた。
「本当に、あまり期待しないでくださいね。なんせ、筋肉が大きくなったと感じるのはは筋トレを初めて三ヶ月と言われていますから。二ヶ月というのは、ちょうど一番辛くて結果が見えにくいと言われる時期なんです。」
ただ、この方法はあくまで確率がほんのちょっぴりあがるだけ。うまくいく保証はないどころか、どちらかといえばうまくいかない可能性の方が高い。レオはブレイにはそのひらめきを伝えないことを選択したのだった。
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「ダンブル、これを見てくれ。」
そう言ってレオはダンベルを生成した。
ダンブルの顔が一瞬で曇る。
「神様!なんということを!まさか、錬金術が使えるようになったのですか!?」
「ああ、そうだ。これでもう、お前達にダンベル作りを頼まなくていい。」
「そんな!?」
ダンブルはレオから発せられた言葉に絶望した。
ダンブルは誇りに思っていた。自分たちだけが作れるダンベルが、唯一、レオと自分たちを繋ぐ『絆』なのだと信じ込んでいた。
そして、見せられたレオの錬金術。全く自分たちに見劣りしない出来映え。しかも自分たちなら数人がかりでやっと生成する質量をあっさりと一人で作って見せた。ダンブルにとってこの光景が意味することは、レオとの別れであった。
「グスッ。余りに急なことで...心の整理が...。皆までおっしゃらなくて結構です。今まで、本当にありがとうございました。」
ダンブルは涙しレオの前から走り去った。
「え?」
突然走り去ったダンブルをレオはなにが起こったかわからず、ただ呆然と眺めることしかできなかった。
冷たいダンベルと、静寂だけが取り残された。




