終盤
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ステージはつつがなく進んでいた。
盛り上がっているステージの終盤。いよいよ痴漢男の出番である。
今回の大会は元々これが目的であった。
「エントリーNo.299!痴漢男だーー!以前、教団の会合で痴漢を働いた、下劣極まりない男の登場だーー!」
MCの発声とともに、一瞬、会場は静まり返る。
そして男が登壇した瞬間、
「ブーーー!」
「引っ込めカス野郎ーー!」
ブーイングの嵐である。
「えー、みなさん。本日開催のイベントは、実はこの男を見ていただくことも一つの目的でした。この男、みなさんご存じかも知れませんが、なんと教団員であることを騙っていたのです。」
ブーイングはさらに加熱する。
「あいつ教団員じゃなかったのか?」
「違うの?」
しかし、今回は一般客も大勢入っている。
教団が痴漢を働いたと思いこんでいた人々は各々、ブーイングではなく少しの戸惑いの声を漏らしていた。
「この男はなぜか、頑なに自分が教団員であると言い張っておりました。そのせいで、我々は痴漢集団、痴漢男製造所などと、つらい風評被害にあってきました。教徒の中には、女性の近くに立っていただけで悲鳴をあげられる方もおりました。そこで今回、そんな風評を一掃すべく、この男を呼んだのです。それではご覧ください。この男の筋肉を!」
男は服を脱ぎ捨てた。
「いかがでしょうか。この貧弱な体。この前に登壇した教団員たちは言わずもがな、一般の教徒と比較しても圧倒的に少ない筋肉量です。」
男は中肉中背、少しだけおなかが出ている、ごく普通の体型であった。
この一ヶ月、死にものぐるいでトレーニングしてきたものの、一ヶ月では筋肉は育たない。なぜなら、刺激を与えても実際に増量が始まるのは三ヶ月後だからである。
「たしかに...この男が教団員な訳ない...。」
「私、この間筋肉の人から逃げてしまったわ...。」
体の出来映えという圧倒的な根拠により、観客たちは、男が教団と無関係であることを確信した。
「おわかりいただけましたか。教団員であればこのような体型なはずはありませんよね?ご理解いただけたならば、私は光栄であります。」
ブーイングは歓声に変わった。
「うおぉぉーーー!俺、もう、筋トレできないかと...。」
観客の教徒が涙ながらに叫ぶ。
「ただ、私がお伝えしたかったのは、これだけではありません。実はあの事件のあと一ヶ月の間、この男にも筋トレをさせていました。その結果、男は反省し、更正したのです。もう、正直に話せるな?」
MCは男にマイクを向けた。
「俺は教団員ではありません。嘘をつき、皆様ご迷惑をおかけしました。大変申し訳ございませんでした。痴漢ももうしません。」
「よく言えたな!皆様、お聞きになりましたか!我が教団の教えは、痴漢男も更正させるようなすばらしい教えなのです!」
また歓声が起こる。
痴漢男は、この一ヶ月のトレーニングを思い出していた。
(あまりにも、疲れすぎた。もうこんなことはしない。)
そう決意し、ステージを降りるのであった。
そしてステージ袖で控えているのは大会の大トリ、レオー。




