あがらない火の手
「みんなすまない。国のために、死んでくれないか。」
グレンは集めた部下に頭を下げ、事情を説明した。
***
「団長、俺たちを何だと思ってるんですか?」
「すまない。そうだな。忘れてくれ。ただ、私一人行くだけでも、皆に危険が及ぶかもしれない。うまく隠れるなりして生き延びてくれ。」
「逆ですよ。」
「え?」
「だから逆です。俺たち仲間じゃないですか。死ぬときは一緒です。だからそんな風に頭を下げるんじゃなくて、命令してくれればいいんですよ。」
グレンの目から涙がこぼれる。
「グスッ...ありがとう、皆!私は、騎士団長の地位を捨てる。叛逆の嚆矢は今、放たれた!筋肉教を、国を守るぞ!」
彼女の瞳に映るのは、幸福な未来ではなく、現在、犠牲となる部下の影だった。
その誓いは、鉄の意志を焼き尽くす、情熱の炎となった。
(それでも...愛するものを守る。それが私の全てだ!)
***
工作員の一人がつぶやく。
「時間だ。」
筋肉教団の一員と似た服を着用し、信仰の熱狂という名の波に紛れ込んだ。死を纏う異物として、群衆の中に沈み込む。
(こいつら全員、血祭りだ。)
計画はこうだった。
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筋肉教団に扮して、聴衆をテロに巻き込む作戦だ。
人質をとり、爆弾を抱え、叫ぶ。
「愚民ども!筋肉教なんて存在しねえ!バカみたいに集まりやがって!ずっと騙してたんだよ!
俺たちの狙いはなあ、一万人集めて一気に殺してみたらどれだけ気持ちいいか、確認する事だったんだよ!」
実際に、爆発させる予定は無い。聴衆達をわざと逃がし、筋肉教団が危険な集団であることを認識させ、広めさせる。
広めるのは工作員たちだ。ことを起こした直後、国のいたるところで筋肉教団がやらかしたと吹聴する。
一週間の間で出来るだけ吹聴し、世論を傾ける。そして教団の幹部たち全員を法律で裁く。
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プニオの策略は、剣ではなく、言葉と捏造で毒する。静かなる毒ーーーそれは歴史の歯車を狂わせる、一瞬の暗転の前触れだった。
***
(こいつら全員、血祭りだ。)
工作員は、役になりきっていた。今まさに、聴衆を爆発させるつもりで突撃する。
「おい!こっちに来い!」
手前の女の肩をつかみ、連れ去ろうとする。
「ん?」
工作員は違和感を感じた。もう一度肩をつかみ、連れ去ろうとした。グッーーー。
力を入れても全く動かない。
グッーー、グッーー、何回やっても動かない。
「何?今いいところなんだけど?」
女が振り向く。ドサッー。振り向いた動作により、工作員は弾き飛ばされた。
「ガアッ!い、いえ何でもないでふ。」
男はなにが起こったか分からなかったが、とにかく怪しまれないよう、笑顔で去る。
(なんだ、なにがあった?仕方ない、ほかの奴だ。)
グッーー、グッーー、ドサッー。
「まだだ!」
グッーー、グッーー、ドサッー。
・
・
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(ちくしょう...それなら次の奴だ...!目的は爆発だ!)
「ちょっと、何なのこいつさっきから、超怪しいんだけど!」
女たちが不審な工作員に気づき、ざわつき始める。
「私もみてた!女の子ばっかりねらって肩を触って逃げてるの!」
(まずい!バレた!)




