焦燥
もはや国教となりつつある筋肉教は、政治家にたちに強い関心を与えていた。
真っ先にその関係性を疑われるのはグレンである。
夜のメンバーの首一つ持って帰らなかったこと、夜のアジトがあったところで筋肉教徒が活動していこと、筋肉教の発足が、グレンたちが帰還した直後であったこと。すべてがグレンと新興宗教のつながりを示唆していた。
レオの願いを叶えたい。自分もレオに会いに行きたい。その二心で、筋肉教の活動を許可した。
「...いえ、なにも。」
グレンは騎士団長としての仮面を張り付け、感情を殺して答えた。
筋肉教徒が悪事を働いていないこと、そして、彼らが危険な思想を説いていないことがグレンにとっての救いであった。プニオもこれ以上の追求はしてこない。
「そうか。しかし、あまりにも、既存のマシュリー教の教えからかけ離れている。皆、筋トレなるものにかまけて、仕事をしなくなってしまうのではないか。」
マシュリー教は、今国を牛耳っている政治家たちが自分たちのいいように作り出した宗教だ。
その教えは、善行を良しとすること、働くことのすばらしさ、自殺はいけない。など、国の秩序を保ちつつも、国民に働くことがいいことなのだと説く、すばらしい教えだ。
十分に広まったこの教えに、国民たちはそこまで熱心でないながらも、思想の奥底、行動理念の根元はここからきている。
「確かに、しかし彼らが筋肉教を広めて以降、国の生産性があがってきていると聞きました。特に悪事をしているわけでもない。むしろこのままでよいのでは?」
「無論、そういう一面はある。なにも思想統制しようとなどは思わんよ。だが、我々が危惧しているのは急激な変化だ。この後、この国がどう変わっていくか予測ができない。」
プニオが危惧しているのは、自分の、政治家としての立場が、新興宗教に脅かされることだ。これはグレンもよくわかっている。
ほとんどの政治家たちは、代々マシュリー教を牽引してきた家柄だ。
新興宗教に強い危機感を持つのは仕方がないだろう。
グレンは、軽く流しつつも、いつ彼らが強行手段にでるか気が気ではなかった。
強行手段によって、レオに危害があれば、内紛も起こり得る。彼一人でも国を潰しうる力があるとグレンは思っている。そんな彼が、国民の半数を率いて紛争を初めてしまえば、国はただではすまないだろう。
(もうこれ以上、筋肉教を広めないでくれ。この静かな平和こそが、彼を守る唯一の盾なのだ。)
実は筋肉教徒のグレンは切に願う。
「...貴官の意見はわかったよ、グレン騎士団長。だが、貴官たち影も、筋肉教と仲良くしているそうじゃないか。」
グレンはビクッと体を震わせる。まさかバレているとは思っていなかった。
プニオは、丸々とした指先で机を叩きながら、まるで子供を諭すような声音で言った。
「君の言う通り、彼らが悪事を働いていないのは事実だ。しかし、騎士団長たるもの、政治的な中立は保つべきだろう?」
グレンは無言でプニオを見つめた。
「よって、今後一週間、君には王都の騎士団本部から一歩も出ることを禁ずる。 他の騎士たちによる『筋肉教』への接触も、騎士団長として君の全責任で禁止してもらおう。」
プニオは冷酷に微笑んだ。
「その間に、我々が、この『新興宗教』の本質を静かに見極める。 いいかね?これは王命に準ずる。違反した場合、君の首が飛ぶだけでは済まされない。」
プニオが立ち去った後、グレンは、震える手で机の上の**「王都治安維持計画書」**を握りつぶした。
――あと、七日間。レオ殿に、この危機をどう伝える...?




