第7話 カナン男爵家
「おじさま、おばさま、お久しぶりです。お招きいただきありがとうございます」
ディアナはサミエルの両親に挨拶をした。
サミエルの両親とは、ディアナの家族も交えた旧知の仲だ。
しかもサミエル同様、茶色の髪と瞳をしている。
地味な色合いで、とても落ち着く。
ディアナは自身も茶色の髪と瞳をしていることもあり、サミエルの両親のことは大好きだ。
サミエルの母は、ディアナを自分の娘のように両手を広げて迎え入れた。
「まぁまぁ、ディアナ。お久しぶりね」
「はい。おばさま。お元気でしたか?」
「ええ。おかげさまで。貴女の作る魔法薬は、美容にも、健康にもよく効くわ」
ディアナはサミエルの母に背中をポンポンと軽く叩かれながら、ふふふと笑った。
「本当に久しぶりだね。まだ少女だと思っていたお嬢さんが、立派なレディになられて」
「まぁ、嫌ですわ。おじさま。からかわないでください」
(とても穏やかな気持ちだわ。この感覚、久しぶりね)
カナン男爵家の本館は、男爵家とは思えないほど豪華だ。
ディアナは手入れの行き届いた天井のシャンデリアを見上げながら思う。
(初めて来たわけじゃないけど、改めて見るとびっくりするのよね。ミーティア伯爵家の本館よりも豪華だもの。爵位を鼻にかけて威張り散らすイーサンも、この屋敷を見て反省したらいいんだわ)
最後に来たのは結婚前だから10年は経っている。
しかし、隅から隅まで手入れの行き届いた屋敷内は、以前と変わらない輝きを見せていた。
ディアナの様子を見ていたサミエルの父は、微笑みながら言う。
「私たちは隠居したが、サミエルが頑張っているから屋敷はキチンと維持できているよ」
「ええ、そうよ。サミエルはやり手ですからね」
サミエルの母もそう言って笑った。
当のサミエルは、頬を赤く染めて恥ずかしそうにしている。
(相変わらずサミエルは家族仲がよさそうね。羨ましい)
ディアナは、ミーティア伯爵家のことを思い返して暗い気持ちになった。
ミーティア伯爵となったイーサンを褒め称えるまではいい。
ディアナのことは、格下の家の娘扱いで、実家のことをボロカスに言われた。
実際には実家であるレーアン子爵家から莫大な持参金が入り、ディアナが働いているから商会や領地経営が回っているにも関わらず、褒めるどころか存在を無視された。
しかも義両親は、ミーティア伯爵をイーサンに継がせて、さっさと領地へと引きこもってしまったのだ。
イーサンに意見する者はいなくなり、ディアナは雑に扱われて働かされた。
「さぁ、ディアナ。食堂へ行こうか」
暗い表情になったディアナの背を押すようにして、サミエルは彼女を食堂へと連れていった。