第6話 別館
別館は一階に作業場として使える部屋やキッチンなどがあり、二階は寝室になっていた。
「食堂はないから、作業場で食事をするのが気になるなら、寝室かな。本館まで来て食べてくれてもいいんだけど」
「私は平気よ。もともと作業場で暮らしていたようなものだし」
ディアナが笑いながら言うと、サミエルが少し切なそうな笑みを浮かべた。
マリーに至っては、はっきりと怒っていた。
「ミーティア伯爵家は、お嬢さまの扱いが雑すぎました。愛は買えませんから、愛せとはいいませんけれど。でも利益は得ているのですから、報いるのは当然だと思います」
プンプンしているメイドを見て、ディアナがクスクス笑う。
「もう、マリーってば。本人よりも怒ってどうするの?」
「だってお嬢さまぁ~」
「ふふ。イライラはお肌に悪いわよ、マリー。ミーティア伯爵家には戻らないのだから、もう忘れてしまいましょう」
ディアナは笑顔で、作業場のレイアウトを考え始めた。
「作業台はあるものを使うとして……少し場所を移して。この棚に薬品を……あら、この瓶は……」
「あぁ。祖母が作ったものだね。ここにある物で使えそうな物は、勝手に活用してもらって構わないよ」
「まぁ、ありがとう」
「ふふ。最終的には、僕の商売に役立ってもらうからね」
「あら、サミエルってば」
ディアナとサミエルは顔を見合わせて笑った。
「さて、そろそろ本館へ行こうか。両親も君と一緒に食事がしたいと言っていたから、待っていると思うよ」
「ええ。でも、着替えなくて大丈夫かしら?」
ディアナは自分の服装をチェックした。
茶色の髪と瞳を持つディアナは、細身でスラッとした体を茶色のドレスを身に着けていた。
エプロンを付けていたとはいえ、作業服のようなものだ。
他人の家に来て食事を共にするような服装ではない。
だがサミエルは気にする様子もなく笑顔だ。
「大丈夫でしょ。昼食だし、ディアナはいつも綺麗にしてるもの」
「そうです。お嬢さまはいつも美しいのです」
「まぁ、2人とも。ふふふ。ありがとう」
ディアナは使用人たち指示を済ませると、サミエルの後について馬車に乗り、マリーと共に本館を目指した。