第12話 兄登場
イーサンの襲来があった翌々日。
ディアナの兄アレックスは馬に乗ってやってきた。
アレックスは色合いこそ地味なレーアン子爵家の血筋をしっかり引いているが、身長も高く貴族にしてはマッチョなので存在が派手だ。
茶色の髪に茶色の瞳であっても、着ている服が茶色でも、艶やかな栗毛の馬に乗って登場すれば目立つ。
外が騒がしいことに気付いたディアナが、またイーサンが来たのかと外を見ると、門番と楽しそうに話している兄の姿が見えた。
アレックスは商売人向きの社交的な明るい男性で、行動的だ。
別館の外に出ると、ディアナの姿に気付いたアレックスは、馬に乗ったままやってきた。
「やぁ、ディアナ。我が妹よ、久しぶり」
「お久しぶりです、お兄さま」
馬上から笑顔で言う兄に、ディアナはスカートの両端を持って軽く頭を下げた。
ディアナは兄を見上げると首を傾げながら言う。
「お兄さま……お会いできたのは嬉しいですが、馬車は?」
「ん、後から来るよ」
アレックスがヒラリと馬から降りると、別館の警備がサッと連れていった。
「立ち話もなんですから中へ……といっても、ここには応接室などありませんから作業場ですけどね」
「ふふ。作業場で話すのなんて、いつものことじゃない」
バツが悪そうにディアナが言うのを聞いて、アレックスは笑った。
別館の中に入っていくと、マリーがお茶の準備をして待っていた。
ごちゃごちゃした作業場ではあったが、久しぶりに会った兄とディアナの心は寛いだ。
腰を下ろしてひとしきりディアナから話を聞いたアレックスは、溜息を吐いた。
「いずれはこんなことになるのではないか、と思っていたよ」
「申し訳ございません。お兄さま」
向かいに座った兄へ、ディアナは座ったまま軽く頭を下げた。
アレックスは顔をしかめて苦々しく言う。
「イーサンは酷い。あいつだけはない、と父上にも言ったのだが。父上は伯爵家ということで乗り気になっていたし、お前はイーサンに夢中で誰も私の言うことなど聞きゃしない」
ディアナはバツが悪そうに「でもだって」とブツブツ呟くことしかできない。
「でもまぁ……お前がミーティア伯爵家を出たことで、遠慮なく動けるようになった」
「そうですね。領地経営や商会に対する影響について、イーサンがまともに考えているかどうかは分かりませんが」
「その男は短慮だからねぇ。何も分かっていないだろうね」
アレックスはとても楽しそうにクスクスと笑った。
「ミーティア伯爵家と共同で行っている商会の仕事は、キリのついたところで止める予定だ。ディアナにとっては不本意かもしれないが、いきなりだと周りにも影響が大きいからね」
ディアナは半眼になって答える。
「いえ、そんなことはありません。なるべく周囲への影響は小さく。なんだったらミーティア伯爵家への影響も小さくていいです。イーサンとその両親をとっちめたいだけなので」
「そうだよなぁ~」
アレックスは遠い目をした。
「ミーティア伯爵家の領地にまで影響が及ぶと領民に迷惑がかかるから、一気に事業を引くというのも考えものだ。領民の生活は、些細なことですぐに影響がでてしまう」
「はい。そうなのです。私はそこまでのことは求めていません」
「自業自得と笑っていられる範囲にとどめないと後味が悪い。どこまでやるか……ちょっと考えなきゃな」
アレックスは改めてディアナに向き直った。
「で、ディアナ。この後はどうするつもりだ?」
「そのことでお兄さまにご相談したいことがあるのですが……」
ディアナはマリーのほうをチロッと見てから腹を決め、アレックスへ相談することにした。




