*3「さんかくかくめいの夜明け前」③
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「ジャスミンを任せたぞ。スピカ、スターライト」
少女たちが去り、静かになった小屋でアラシは呟いた。
「なあ先生、あのスターライトって子…」
「ああ、マコダ。だが1人の女の子としてここに来たんだ。だったらおれたちは大人なのだから、迎え入れるべきだろ?」
マコダはスターライトを訝しんでいた。
「お前なあ、おれたちは慈善団体でないんだぞ」
「良いじゃないか、慈善団体でも。カームが導いた未来は、争いや諍いの無い世界なんだ」
さんかくかくめいの主導者は、
両方の陣営の隔たりを壊して、希望の光を差し込んだ。
「はあ、そうだな。おれたちに、出来るか?アラシ…」
「出来るさ、カームのように行かなくても。信じれば人類はまた光を取り戻せる」
ネームレスでも無く、ナンバーチップが付いていない少女。
おれたちにはその存在は気味が悪い。
というのなら、彼女は。
スターライトは上級の、それに加えて特殊な生い立ちがあるのだろう。
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「え、と。ご飯は1日1回。トイレはきょーよー。洗濯は川で…、あとなんだっけ?」
「お風呂は時間制、だよスピカ」
「そうだ!覚えたか?ジャスミン!」
「うん…」
私たち3人はテントに戻り、特にすることも無いのでひと休みしている。
ジャスミンを元気づけようと、スターライトと協力してしきりに話しかけてはいるものの、
心がどっかに行ってしまったように空返事だ。
パパとママが死んだ、あの日。
全て失った日。
スピカが利口だったら。
うさぎさんのレインコートを諦めていれば…。
あの日を思い出そうとすると、心臓に直接刃物を突き立てられたようにズキズキする。
昔のスピカも、今のジャスミンのように元気が無かったのかもしれない…。
どうしてたんだっけ、あの頃。
あんまり思い出せなくなってきていた。
本当は思い出したく無いんだ。
だって、あの日を鮮明に思い出してしまったら、すべてを諦めたくなってしまう。
きっともう立ち上がれない。
そうだ、少し思い出せた。
1人になってから出会った人がいた。
宇宙人の男だ。
あの人のおかげで今日まで生きて来れたんだ。
(おい!何をぶつぶつ考えてやがる!いつもは空っぽだろ!)
「うわ!火の玉くん!?もしかして心読めるの!?」
(おれとスピカはいわばリンクしてんだ!だから感情がこっちに流れてくんだよ!)
「ええ!?早く言ってよ!!この変態ッ!」
(や、やめろ!殴るな!!)
そんな様子に、スターライトとジャスミンはぽかんとしていた。
「スピカおねえちゃん…どうしたの?」
「見てはいけません。ジャスミンちゃん…」
スターライトはジャスミンの目を手で覆った。
「2人とも信じてよ!この辺に、エリート妖怪がいるんだってば!」
スピカは自分の右肩に手を当てた。
「エリート、ようかい…?」
「うん、スピカには妖怪が見えるらしいの。ジャスミンちゃんが見えていなくて安心した。おかしいのはスピカの方みたい」
「スターライトぉ!!」
スターライトは相変わらず信じてくれていない。
「ごめんね、スピカ。でも見えないのだから、仕方ないんだよ。妖怪はいません。」
「います!!」
「ジャスミンちゃんはどう?見えるかな?」
「なにも見えないよ…」
「本当にいるんだ!ん〜!信じてよ!」
私は地団駄を踏んだ。
「ふ、ふふ…あはは、スピカおねえちゃん、変!ふふふ」
スピカの必死な訴えに、ジャスミンが笑い声をあげた。
スターライトと目を合わせた。
心の中で握手をした。
「ジャスミン!!」
「やっと笑ってくれたね」
スピカはジャスミンに抱きついた。
「私にも甘えて良いんだよ」
「うん!」
3人で仲良くくっ付いた。
こうしていると家族みたいだ。
嬉しいな。
ジャスミンが笑顔を見せたことで、私の方が救われた気がする。
手を取り合えば、悲しみは乗り越えられるんだ。
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「〜♪〜♪」
それからジャスミンはお礼に歌を聞かせてくれた。
お歌が好きらしい。
スピカは歌のことはあんまり知らないけど、
ジャスミンの歌声はとても綺麗だ。
「えへへ、パパとママ以外に聞いてもらったのはじめてなんだ…」
ジャスミンは照れ臭そうに顔を振った。
「上手い!」
「うん、すごいよ。びっくりしちゃった」
「ジャスミン、夢があるの…」
ジャスミンはゆっくりと一生懸命に言葉を紡いだ。
「ジャスミンね、歌姫になるの。カームおねえちゃんみたいな、みんなを元気にするお歌を歌うんだ」
「カームおねえちゃん?」
「カームは、おれたちさんかくかくめいの主導者さ」
テントの外からアラシの声が聞こえた。
「盗み聞いて悪いな、だが綺麗な歌が聞こえたもんでな。飯の時間を伝えに来たわけさ」
テントの外から食事の知らせを聞いて、お腹が鳴る。
「はらへった!」
「おう、じゃあ小屋で待ってるぜ」
私たちはテントの中を軽く片付けて、小屋に向かった。
「うわあ!カレーだ!」
大きな鍋からカレーの匂いが空気を漂わせていた。
「今日はマコダ特製カレーだ!」
「今日、も。だな」
「細かいことは良いんだよ!」
みんなで配膳を手伝った。
量に限りがあるから均等にしようとスターライトとよそっていたら、アラシとマコダは自分たちの量を減らして3人に分けてくれた。
小屋の前にある木製のテーブルに、カレーを並べてみんなで座った。
「いただきまーす」
みんなお腹が空いていたのか、一様にカレーを口に運ぶ。
「ん?このカレー?」
「なんだろう…」
「おいしくないよ、おねえちゃん…」
私たちは同じ感想を分かち合った。
「だとよ、マコダ!おれも同感だ!」
「仕方ないだろー?まともな食料なんて回って来ないんだから、これでも頑張ってカレーの体裁を保たせたんだ!」
マコダは少しだけおおげさに反論した。
「マコダ、何が入ってるの?」
マコダはメガネをくいと持ち上げた。
「枯葉と安い人工肉と…、昆虫だ!」
マコダの言葉に、スターライトとジャスミンの表情は暗くなった。
「昆虫…」
「枯葉…」
2人は食器をゆっくりとテーブルに降ろした。
そしてカレーのような何かを見つめている。
「スピカはその辺食べ慣れてるから大丈夫だ!」
私はなんだと思ったので、食欲に従った。
「火が余り通っていないような気がします」
「それはアラシ先生の管轄だ」
マコダはスターライトの疑問をアラシへ投げた。
「石炭が枯渇しそうでな、火を十分に起こせないんだ。直ぐにでも採取したいのは山々なんだが…」
アラシが言いづらそうにしていたから、私は聞いてみた。
「なんだ?」
「人手不足なんだよ、他の仲間は食料を確保しに遠くまで出張ってるんだ。今キャンプ場にいるのはおれたち5人しかいないのさ」
アラシは手を大きく広げた。
「火なら私が出すよ!得意なんだ!」
「ちょっ!スピカ!」
スターライトが口を塞いだ。
「でもみんな困ってるよ?」
「だめだよ。アビスステラは2人だけの秘密!」
私たちは顔を近づけて、こっそり話した。
「何をヒソヒソしてやがる?だが出せる物なら出してもらいたいくらいさ」
「う〜ん、じゃあスピカ石炭取りに行くよ」
「本気か?結構ハードだぜ?」
「大丈夫だ!こう見えて運動神経いいんだぞ!」
私は椅子から少し離れて、後方に3回転して見せた。
「おお!やるな!なら夜が明けたら出向くとするか!」
「おおー!」
明日はアラシと一緒に石炭を採掘することになった。
「でも、良いのか先生?スピカはさんかくかくめいじゃないんだろ?」
「指切りしたしな…」
「困ってるなら関係ないよ!マコダ!」
「ふ、楽しいやつだな」
「少女たちはそういうやつらさ!」
スターライトがいてジャスミンがいて、
アラシとマコダがいて、ついでに火の玉くんもいる。
スピカはこの日常がいつまでも続くと良いなって、この時は本当に思ってたんだ。
*3 完
続きます。
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