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09 本来の目的

*****アスマ視点


ゼノベア城の執務室で。


バン!


「アスマよ、王女が戻ってないとはどういうことだ!」


目の前の書類が置かれた机が叩かれる。

ここは王様が執務を行っている部屋だ。

机を叩いたのはゼノベア国、国王ライアン・ド・ゼノベア。


「そのうち、帰ってくるだろうよ。心配しなくても大丈夫だと思うが」


俺は王様に、第三王女レーシャが見も知らぬ冒険者パーティに入ったと報告をした。

「王女は魔法もそこそこ使えるし、そこら辺の冒険者じゃ相手にならな・・」


あ、めっちゃ怒ってる。

王様とはいえ父親だからな。

当然と言えば当然か。


「勝手に帰ってきて悪かったよ・・しゃーねぇ迎えに行くか」

俺は肩を落とし、部屋を出た。


部屋の外には、赤いマントを着た同じ勇者パーティのユーリが立っていた。

赤い髪でショートヘアの気の強い女魔法士だ。


「あんたさぁ何やってんの、わたしには関係ないけどさ。そんで馬車で迎えに行くわけ?」

「あー王様が結構怒ってるから早く戻った方が良いかなと思って。魔力結構使うけど、飛んでいくよ」

「そっか。行ってらっしゃい~。んじゃこれ持って行けば?」


収納魔法アイテムボックスから、ユーリは青い小さなガラス瓶を取り出した。


「マジックポーション、飲めば魔力回復するからさ」

「すまないな」



*****トワ視点



「えっと、僕が聞いてもいまいち内容がよく分からないのだけど・・理由を直接相手に聞いてみたらどうかな。教えてくれるか分からないけど」


次の日、僕はティナに早速相談を受けていた。


朝、食堂の椅子に向かい合って座り食べながら話を聞いている。

相談されても、僕はあまりティナの事をほとんど知らないんだよな。

ウェンディの機嫌は良さそうだ。

目が合うとニコニコしている。

僕はウインナーをフォークで刺して口に運んだ。


「・・そうですわよね」

「他に仲間とか居ないのかしら?その人に聞いたら原因が分かるかもしれないし」


ウィンディは意外と真剣に質問の答えを返している。


「そうね、そうするわ」


僕は出来立ての丸いパンをちぎってバターを塗って食べる。

焼き立てのパンは美味しいな。


ティナが「あ!」と何かを思い出したような顔をした。


「すっかり忘れてたわ。丁度良いって言えばいいのだけど」



突然、ティナが僕の手を取り握りしめた。

「トワ様、是非勇者パーティに入って頂けませんか?」


はい?勇者?

ティナは真剣な眼差しで言う。


「わたくし、今まで偽名で名乗っていて申し訳ありませんでした。本名はレーシャ・ド・ゼノベア、ゼノベア国の第三王女です。因みに聖女とか呼ばれていますが」


「「ええええ?」」


僕とウェンディは二人して驚きの声を上げた。

王女様?勇者?

しかし、何だって僕に。


「わたくしは、変わったスキルを持っておりまして・・神からお告げを聞くことが出来るのですわ。それで呪われているトワ様を探しておりましたが、もう呪いは解けていたようですわね」


「呪いを解くために僕に会いに来たの?」


「いいえ。トワ様は気づかれていないでしょうが、膨大な魔力を持っていらしてそのお力を少し貸して頂きたいのですわ」


レーシャ王女の手が、僕の手をぎゅっと握ってじっと僕の目を見つめてきた。

何だかドキドキしてきたよ。


ふと隣を見たらウェンディが僕をじっと見て睨んでいて、怖くなった。




「勇者パーティって・・」


僕の頭の中には、勇者と魔王が戦うという最悪のイメージしか出てこない。

マンガやラノベの世界だ。


「トワどうするの?」


ウェンディに聞かれたけど、出来れば勇者パーティには関わりたくない。

戦いに行くのが目に見えているじゃないか。




「こんちは。ここに銀髪の少女いないか?」


宿の入口付近で、男性の声がした。

以前、冒険者ギルドで見た黒髪の日本人と思われる男性だ。


「あ、アスマ・・」


レーシャはうつむいている。

ウィンディは手を上げて、男性に声をかける。


「こんにちは。レーシャさんはこちらにいますよ」

「え、本当っすか」


男性が頭を下げる。

「すみません。レーシャがご迷惑をおかけしたみたいで・・」


僕たちに謝ってきた。

思っていたより良い人みたいじゃないか。


「レーシャ、それでどうするんだ?少年は見つかったのか?」


レーシャ王女は僕を指さした。

あーそっか。

もしかしてこの人が勇者なのだろうか。


「君、ゼノベア王城に一緒に来てもらいたいのだけど良いかな?」


「私も一緒で良いですか?」

ウェンディがすかさず言う。


「ああ、構わないよ」

僕に断る選択肢は無いみたいだ。




ビュウウウ・・。


「まさか、俺以外にも風魔法で空を飛べる人がいるとは・・」


僕たちは風魔法を使い、前にアスマさん、レーシャ王女を先頭にして後ろを付いてきている。

眼下には鬱蒼うっそうとした森が見える。

上空を飛ぶのが凄く気持ち良い。


「使ったのは初めてですよ・・出来そうな気がしたので」


アスマさんは驚く。

「嘘だろ?初めて?ありえねえ。これ結構魔力使うし、コントロールも大変なんだが」

「そうなんですか?」


魔石の時もそうだったけど、魔法の使い方が何となく理解できるんだよな。

それって僕だけなのだろうか。


「そういう特別な力があるって事なのでしょうね」

レーシャ王女が呟いた。


馬車で移動するよりも何倍も速く移動できるようだ。

もう、城が見えてきた。


「流石に魔力切れたわ」


城の前に到着すると、アスマが城の前に座り込みガラスの小瓶を開けて飲む。

突然現れた僕たちに兵士たちが驚いていたが、アスマさんを見てホッとしていた。


「往復したのでしょう?そりゃ魔力切れますわよね」


喧嘩したって言ってたけど、レーシャ王女はアスマを気遣っているようだ。

自分のハンカチでアスマの額の汗を拭きとっている。


「案外、大丈夫じゃないかしら。きっと直ぐ仲直りするわよ」

その様子を見て、ウェンディもそう思ったようだ。


僕たちは歩いてアスマさんたちの後ろをついていく。

これからゼノベアの王様に会うために。


「急に緊張してきた・・」

「私もよ・・」


城は思っていたよりも広くて中々目的地に着かない。

歩いている時間がとても長く感じられた。

大きな扉の前に到着した。


「ここだ、ちょっと待ってろ」


コンコンコン。

アスマがノックをした。


「王女と、例の少年を連れてきました」

「入りなさい」


扉が左右にゆっくりと開かれる。


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