42 空のランデブー
*****ブリアンナ視点
えっ?えええええっ?
今のどういう事ですの?
わたしと手を繋いだまま彼は直ぐに眠ってしまいましたけど。
数分後、保健の先生が保健室に戻ってきました。
わたしはアルト君が、体調が悪くて寝ていることを伝えて教室に戻りました。
「一緒に居たい・・深い意味は無いですわよね・・」
きっとわたしがそう言ったから答えてくれただけだわ。
アルト君は優しいから。
「ブリアンナちゃん!」
横を見るといつの間にか、エミリアさんがアルト君の席に座っていました。
彼女が移動するとかなり目立ちます。
クラスメートの中で年上?で大人っぽいですからね。
「アルトどうだった?大丈夫そう?」
純粋に心配で訊きに来たみたいです。
「本人は寝れば良くなるって言ってましたけど・・」
「そっか」
何故かニヤニヤしながらわたしを見ています。
何ででしょう?
「今度の週末楽しみだね~♪」
「そ、そうですわね」
あっという間の週末。
今日はアルト君の家に行くことになりました。
風魔法を教わりに行くという名目で。
この間行ったばかりだというのに、変に思われないだろうか?
馬車に乗っている間、色々な思いが頭の中をぐるぐると巡っていました。
「いらっしゃい」
「よく来たね」
今日はアルト君と、エミリアさんの二人のお出迎えでした。
ほっと息をつくわたし。
「ねえねえ、遊ぼ」
エミリアさんは、本来11歳って言ってましたっけ。
15歳に見えるから忘れてしまいそうになるけれど。
私の手を引っ張り、部屋に連れて行こうとします。
年相応なのかもしれませんね。
「こら、今日はぼくと約束したんだ。一人占めは駄目だよ」
「そうですわ。魔法を教わりに来たのですから」
「え~~?だって学校だと窮屈なんだもん。遊べないし・・」
「じゃあ、エミリアさんも一緒に教わるのはどうでしょうか」
わたしは慌てて提案する。
「あ~別に良いけど・・さ」
「わーったわよ。アルト、明らかに嫌な顔するんだもん。二人きりになればいいじゃん」
エミリアさんは家の方へ入って行ってしまいました。
サラサラと風が吹いて木々の音がします。
新緑が爽やかです。
「え、とじゃあ練習する?」
アルト君は照れながら右手を差し出してきました。
「えっと?」
「体験したほうが良いと思って。一緒に飛んでみない?」
わたしはアルト君の右手を掴みました。
ふっと浮力が体に感じられて、わたしの周りに風が集まってきます。
「力抜いて・・楽にしてていいからね」
足元が地面から離れました。
「ぼくに任せて」
アルト君を見ると凄く輝いて眩しいくらいです。
今まで見たことが無い満面の笑み。
「こんなの反則ですわ・・」
「え?何か言った?」
わたしはアルト君の事をもっと好きになってしまいそうです。
*****トワ視点
僕は窓の外を見ていた。
「アルトが女の子と空を飛んでいるな」
「この前来た女の子が今日来るって言ってたわね。そういえば私もあれ以来、風魔法教わらなかったわね。森で・・確かアルが倒れていたんだったのよね」
「そんな事もあったな・・」
「今からでも遅くないけど?」
「えええ?今から教えるの?」
今日は休みだからのんびりしたいんだけどな。
「ほら僕も、もう30代だし?あまり無理は出来ないって言うか・・」
「教えるのが面倒なだけなんじゃないの?」
バレてる。
ウェンディには嘘は通じないんだよね。
「もう必要ないんじゃ・・」
「いざっていう時につかえると便利だと思わない?」
説得は無理な気がしてきた。
仕方ない。
「わかったよ。少しだけだからな」
*****アルト視点
「あれ?お父さん?」
何故かウェンディさんと手を繋いでいる。
もしかして・・。
「風魔法はこうやって使うんだ」
お父さんとウェンディさんは、ぼくたちのさらに上空を飛んでいた。
「え?あの方は?」
「ウェンディさんだよ。確かお父さんが最初に会った人って言ってた」
「トワ~高いわよ~。怖い~」
「風魔法習得したいって言ったのは君じゃないか」
「昔はもっと優しかったのに・・」
ああ、少し意地悪だったな。
「ごめんね。少しイライラしていたんだ」
僕は高度を下げて、アルトたちと同じ位の高さになった。
「アルト、大丈夫か?魔力持たんだろう」
「最近増えてきたから大丈夫だよ」
「そうか」
「ウェンディ、風を自分の周りに集めてごらん。ゆっくりでいいから」
「うん」
くるくると風が舞い始めた。
「流石ウェンディだ。コツを掴むのが早いな」
「わたしもやってみますわ」
「え?無理しなくていいんだよ?ウェンディさんは昔、冒険者だったんだから」
ブリアンナさんがバランスを崩して落ちかける。
「危ない!」
ぼくは咄嗟に彼女を抱きかかえる。
「少しずつでいいんだから。ぼくたちはまだ初心者みたいなものだし」
「そう・・ですわね」
「アルト無理しないで降りたらどうだ?カッコつけなくてもいいぞ」
実のところ正直魔力がもう無いんだよね。
「うん・・そうする」
ぼくたちはゆっくりと地上へ降りて行った。
下ではアルが心配そうに見ていた。
「アルト、マジックポーションじゃ。飲んでおけ」
お母さんからポーションの入った瓶を受け取った。
「ありがとう。お母さん」
ぼくは芝生に座り込んで、ポーションをゴクゴクと呑み込んだ。
正直助かった。
魔力切れると倒れちゃうからな。
「まったく、彼女の前だからって良いとこ見せすぎじゃ」
「か、彼女じゃないし・・ブリアンナさんにも悪い」
「わたしは構いませんのよ?」
「え?それってどういう・・」
「アルト君、もういい加減解って欲しいですわ。わたしは貴方の事が好きですの!」
ブリアンナさんの顔は真っ赤に染まっていた。




