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41 初恋

「送ってくれてありがとう」

馬車から降りて、彼女にお礼を言った。


馬車で来たとはいえ、これから自分の家に帰るのは遠回りじゃないだろうか。

訊いたところによると反対方向だったらしい。

少し悪い事をしたかな?

誘ったのは彼女だったけど。



門から歩いて家の敷地内に入った。


「兄い、ブリアンナさんの事まんざらでもないでしょ?」

「はあ?お前何言って・・」


ここまで直接言われれば、ぼくでも意味が解る。

好きじゃないかってことだ。


「・・嫌いじゃないとは思うよ・・」

好きかどうかって分からない。


「~んもう!素直じゃないんだからぁ。応援してあげるね!」


エミリアに背中をバシバシ叩かれた。

そういえばさっき、好きって言われてた気がするけど・・。

気のせいじゃないよな?




*****ブリアンナ視点




ひやあぁぁぁ・・・。

アルト君たちと別れて、馬車の中でわたしは一人悶絶していました。

先ほど会話の流れで言ってしまいましたが・・・。

わたし、好きって言ってしまいましたよね?


アルト君は気が付かなかったみたいですけど。

顔から火が出てきそうです。

恥ずかしい。

エミリアさんはしっかりと解っておられたみたいだけど。


「ど、どう致しましょう。きちんと告白したほうが良いのでしょうか・・」


またお家に行くことを約束したばかり。

家に行った時に勇気を出して言った方が良いですよね?

そうでなくてもアルト君はかなりモテているみたいですし。

アルト君宛に、お手紙を書いている女子もいるみたいなので急がないといけないですわ。




*****アルト視点




「好き?ブリアンナさんがぼくを?」


ぼくはリビングで座ってクッションを抱えていた。

何だろう妙な気持ちになっている。

酷く落ち着かない感覚。

手紙では他の女子から好きって書かれたのを沢山貰ったのに、それとはまったく違う気持ち。


友達だからだろうか?

ぼくはどうなんだろう。

好きなのだろうか。

嫌いではないとは思う、むしろ好きの方だと思う。


「アルト?どうしたぼーっとして顔が赤いぞ。熱でもあるのか」

お父さんが声をかけてきた。


「お父さん違うよ。アルトはようやく自覚し始めたんだと思うよ?」

エミリアが何か言っている。


「ん?」

「もう~男の人って何で鈍いんだろうね~」

「そう責めるでない。エミリア。そこが可愛いのじゃから」


お母さんも会話に加わっていた。


「そうか。アルトの初恋じゃの?今日はお祝いじゃな?」

「あ~そういうことなんだ。やっと分かったよ」

「もう、お父さん遅ーい」


家族の会話を耳で聞いているはずなんだけど・・ひどく遠くの出来事に感じていて全く現実感が無かった。





「お、おはよう・・・」


次の日、ぼくはブリアンナさんに挨拶をした。

きちんと喋れているだろうか?

昨日はあれから夜一睡も出来なくて寝不足になってしまっていた。

その割にテンションが高い気がする。


「おはようございます・・アルト君どうされましたか?」

「え?」


ブリアンナさんがぼくの顔を覗き込んでいた。


「お顔が赤いようなので、体調が悪いのではないかと・・熱があるのでしょうか」

「た、多分大丈夫だと思うよ?少し寝不足だけど・・」


そう、寝不足で頭がくらくらするんだよね。


「そうですわね。目も赤いですし大丈夫ですか?」


ブリアンナさんは優しいな。

今日一日くらい大丈夫だろう。

頭の中はブリアンナさんのことで頭がいっぱいになっていた。

きっと授業も頭に入ってこない気がする。




二時限目、意識が朦朧もうろうとしてきた。

ヤバイ授業中に寝てしまうかもしれない。


「アルト君大丈夫ですか?やっぱり保健室へ行かれた方が・・」


ブリアンナさんが心配して声をかけてきた。

いや、ただの寝不足だしそんな心配するほどじゃ。


「「先生!アルト君が具合悪そうなのでわたしが保健室へ連れて行きます!」」

ブリアンナさんは挙手をして先生に言う。


「え?そうなんですか?よろしくお願いしますね」


マイア先生は驚いているみたいだ。

ざわざわとクラス内が騒めいている。




廊下でブリアンナさんとゆっくり歩いていた。

授業中なので静かなものだ。


「ありがとう、保健室なんて大げさなんだけどな」

「何言ってるんですか!今、顔真っ青ですわよ?」

「え?そうなの?」


ぼくはよろけていたので、ブリアンナさんの肩を借りて歩いていた。

ちょっと情けない。

でも今すっごく嬉しい。

不謹慎なのかもしれないけど。

どうやらぼくはブリアンナさんの事が好きみたいだ。


しばらく二人きりで廊下を歩ける。

それだけで嬉しいなんて。


「どうしたんですの?顔、笑ってますけど?」

「何だか嬉しくなっちゃって」


君と二人きりで歩いているだけなのに。

心がふわふわしている。


「変なアルト君ですわね」

首を傾げているブリアンナさんも可愛い。




保健室は一階の端にあった。

しばらく寝れば体調は戻るだろう。

保健室は白いカーテンにベッドが二つ置かれていて、簡単な処置が出来るところだ。

魔法学校だけあって、先生は回復魔法が使えるらしいけど。


「失礼します・・って誰もいませんわ。保健の先生は戻ってくるんでしょうか?」

「取り合えず、ここで寝ることにするよ。休んでいれば良くなるだろうし」

「送ってくれてありがとう」

「いいえ、どういたしまして」


「ブリアンナさん?」

彼女は俯いて、寂しそうな表情をしていた。


「先生が戻るまで一緒に居たいなんて思ったけど駄目ですわね」

「一緒に居て?」

「アルト君・・」


ぼくはブリアンナさんの手を掴んだ。

「ぼくも一緒に居たいな」


温かい感覚に包まれて、いつの間にか眠りの海に溺れていった。

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