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37 アルトと家族

プノン町外れの住宅街。


「じいじ~」

「久しぶりだな。トワ、レーシャさん、ミーシャ」


僕はプノン町に住む父親に会いに来ていた。

昔の面影はなく、すっかり痩せこけてしまっていて顎髭もだらしなく伸びてしまっている。

孫の顔を見ると元気が出るようだ。

父は町中の借家で一人暮らをしている。

ワンルームで狭いので来るときは少人数で訪ねるようにしている。

今回は僕とレーシャとミーシャが顔を見に来ていた。


「もう、昔の事だし一緒に暮らしても良いと思うんだけど・・」

僕は少し前から父に言っているのだが。


「いや、追い出したのは俺だからな。できれば頼らずに生活したいんだよ。それにそっちに行ったら元嫁が押しかけてきそうだしな」


兄たちが国外追放になった時、母が直ぐ離婚したらしい。

その母親が僕の所に来るんじゃないかと心配しているのだ。


「まさか~そんな事はないでしょう」

「いや、アイツの事だからありえる。金のために結婚したみたいだからな」


もうあれから随分経つけど。

母親は、僕が領主になった事を知っているはずだから今更来ないとは思うけどね。





「お父様、意外と元気だったみたいですわね」

「病気とかもないみたいだし、僕らが行くと気持ちも上がるんだろう」

帰りの馬車の中、僕たちは話していた。


「そういえば、アルの子供たちは落ち着きましたの?」

「アルトは反省しているみたいだし、大丈夫だろ。悪戯好きは相変わらずだけどな」


あの魔石騒ぎから少し落ち込んでいたが・・。

クラスメートからは、逆に弄られるようになったらしくそれが嬉しいらしい。

あんまりキレイすぎても近寄りずらいのだろう。


「学校で楽しそうにしているみたいだから良かったよ」




*****アルト視点




「アルト、校庭行こうぜ」


クラスの男子からよく声をかけられるようになった。

最初は近づいてすら来なかったけど、魔石の事で迷惑をかけて謝ったりしてたら不思議と仲良くなったのだ。


今は昼休みで、各々自由に過ごしていた。

友達のニルスが声をかける。


「飛ぶのは無しでな、ボール蹴りしよう」


数名の仲がいい子達と遊ぶ。

貴族の子供が通う学校と聞いていたけど、遊ぶのは割と普通みたいだった。


「いいなぁ」


ぼそっと、ブリアンナさんが呟いた気がした。

気のせいか?

ブリアンナさんも友達が大勢いるだろうに。


教室を出るとき振り返ると、ブリアンナさんがクラスの女子に話しかけられていた。




「お前さ、フィールドさんとはどうなんだよ?」

「どうって?」


ブリアンナさんの事だ。

ぼくが勝手に頭の中で名前呼びしているだけだから。


「隣の席だし、たまに話すくらいだけど?」

「クラスの中でも人気があるんだぜ?解るとは思うけど家柄も良いし、美人だし申し分ない」

「家柄ねぇ」


クラスの人達の会話を聞くと貴族の位だの、家柄だのって言葉が出てくる。

大人になったのなら分かるけど、まだぼくたちは子供なのだ。

気にしなくて良いのではと思ったんだけど。


多分だけど、親が普段からそういう事を言っているのかもしれない。

うちの親は全くそういう事に無関心?だからなのかそんな言葉聞いたこと無かったからな。



*****ブリアンナ視点



「アルト、校庭行こうぜ」


「飛ぶのは無しでな、ボール蹴りしよう」


アルト君が男子に誘われていた。

校庭で遊ぶらしい。


「いいなぁ」


教室内でわたしは思わず呟いていた。

混ざりたい。

男子だったら気軽に声かけられるんだけどな。

すぐさま近くにいた女子に話しかけられた。


「フィールドさん、今のどういう意味ですか?」

「はい?」


わたしは素のまま答えてしまった。


「どういうって、どういうことでしょうか?」


「単刀直入に言いますけど、ウィンザー君の事です。クラス内の女子から結構人気があってフィールドさんも・・もしかして?」


「な、何の事を仰っているのかわかりませんわ」


急に恥ずかしくなり、顔が熱くなった。

言葉もしどろもどろだ。

わたしらしくない。


「彼、見目麗しい外見をしているのに奢ることなくて皆に優しくて。まさに王子様って感じで良いですよね。本物の王子様は見たことありませんけど」


うっとりと両手を組んで熱弁する女子。


最初の頃は声をかけるのも憚られた感じだったが、魔法の実技授業の出来事があってから、懸命に謝る彼の姿を見て好意を抱いた女子も少なくないらしい。


思っていたよりもライバルが多い。

でも最初に声をかけたのはわたし。

もう少し仲良く出来ないかしら。





わたしは何とか苦肉の策をひねり出した。


「え?あの時の石が見たい?」

アルト君はかなり驚いた様子で返答に困っていたみたいだった。


「ん~いいよ。多分大丈夫だと思う。今度のお休みでいいかな?お父さんに聞いておくから」

わたしはアルト君の家に行く約束を取り付けた。


正直石は興味なかったけど、彼に近づくきっかけになればいいのだ。

「ありがとうございます。当日は馬車でお伺いしますわね」


何か手土産を持って行った方が良いだろう。

お父様にも印象を良くしてもらいたいから。




「ここですの?」


わたしは早速後悔することになった。

地方領主の男爵と聞いていたので、それなりの家だろうと予想はしていたのだが。


「うちより広いですわね・・・」


庭はまるで小さな庭園のようだ。

広くて家の玄関に入るまでに時間がかかった。

馬車の中から家を見上げていた。


「いらっしゃい」


家族で出迎えてくれた。

って人数多くありませんか?


「うち珍しいみたいで、お嫁さんが三人いるんだけど大人数で驚かせてごめんね」


領主のトワ様、三人の女性たちは30代くらいだろうか。

アルト君と妹さんかしら、それともうひとり幼い女の子が居ますわね。


「驚いちゃったよね?どうしてもアルトのお友達が見たいって皆聞かなくてさ」

領主様が困った顔をしていた。


この国では何人と結婚していてもいいのだけど、実際お金のこともあって本当に複数で結婚している人は少ない。

黒い翼を持っている女の人がアルト君のお母様かしら?

妖艶な美女がわたしに微笑んでいた。

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