36 魔石の思い出
「驚きましたわ・・凄い魔力をお持ちなのですね」
ブリアンナさんが目をキラキラさせながら言った。
君もびしょ濡れなんだけどね、気にならないのだろうか?
ぼくのせいでクラスメイトは皆びしょ濡れになってしまった。
次の授業が急遽中止になり、マイア先生が火魔法で焚火を作って皆の体を温める。
学校に替えの服があったみたいで、みんな同じ簡素な服に着替えていた。
上空から人影が現れた。
お父さんが慌てて校庭に飛んで来たらしい。
学校から呼び出しがあったのだろうか。
「アルト!お前、石持って行っただろう。今すぐ返しなさい」
あ、バレてる。
「石?」
「あ、領主様だ」
クラスメートが口々に言う。
「うちの息子がご迷惑をおかけしたみたいで申し訳ありません」
お父さんは深々と頭を下げる。
「これは事故みたいなものですから、気にしないで下さい」
マイア先生がお父さんに言う。
お父さんは周囲を見渡していた。
「水か・・水石だな。アルト、あと白いのと赤いのを持っているだろう」
「ごめんなさい」
ぼくは三つの石をお父さんに差し出した。
「僕がきちんと言っておかなくて悪かったよ。これは魔石といって魔法が使えなくても使える石なんだ。使ったのが水石で良かった。家に帰ったら詳しく教えるから」
「領主様、それ本当ですか?私も詳しく聞きたいのですが・・」
マイア先生が話に食いついてきた。
「え・・まあ話だけならいいですけど別の場所でお話しますね」
皆の前だと憚られる内容なのか、お父さんはそう言って言葉を濁していた。
職員室の隣の部屋に入り、ぼくとマイア先生とお父さんがソファに座った。
今回の原因の魔石について話してくれるらしい。
「この石は魔石で魔力を入れておくと魔法が使える物です。水色のが水魔法、赤が火魔法、白が回復魔法ですね」
「ほほう。話では聞いたことがありますが実物では初めて見ますね。触ってもいいですか?」
「魔力を流さなければ大丈夫なのでどうぞ」
マイア先生はじっくりと石を手に取り眺めていた。
見た目は綺麗な色のついた石なんだけど。
「これって高価なんですよね。因みにお幾らで購入されたのですか?」
「いえ、これらは頂いたものでして、とても買えませんよ」
そんなに高いものだったのか。
落とさなくて良かったよ。
家に帰ってから聞いたら家が一軒買える値段らしい。
希少な物で買うのが困難だとか聞いた。
家に帰ってからお父さんから話を聞いた。
「家にずっと仕舞いっぱなしだったからね。たまには使ってあげないとかな」
お父さんの思い出の品らしく、懐かしそうに眺めていたのが印象的だった。
「お父さんは昔、魔法が使えなくてね・・・」
使えないって言う割には、ウェンディさんと楽しそうに話していた。
ぼくは、魔法が使えないというお父さんが全く想像できないんだけど。
「お父さん!魔石わたしもほしい!」
リビングで寛いでいると、娘のエミリアが突然言い出した。
アルトに話を聞いたのだろう。
「エミリアは魔法が普通に使えるだろう?使える人にはいらないものなんだよ」
「ん?何で?使っても良いじゃん!」
「あ~威力が大きいから危ないからね」
「使ってみたい~わたしも~」
珍しく粘るな。
アルトが使ったと言ったから、使ってみたいのか。
「じゃあ、僕が近くにいるときは使っても良いよ。それ以外は駄目」
「ん~ならいい」
魔石が玩具みたいだな。
これそんなに安い物じゃないんだけど。
あっても宝石箱に仕舞っておくだけだしまあいいか。
*****
ゼノベア城。
わしはライアン・ド・ゼノベア国王である。
自室で可愛い孫と遊んでいた。
ミーシャは8歳になり、レーシャにそっくりな銀髪で瞳は青い。
「ミーシャ、今度は何が良い?」
クマのぬいぐるみを持ちながらわしは孫に聞いた。
「ん~あきちゃった。アスマのところにいく~」
「ええ?アスマは仕事中だと思うぞ?」
「王様のけんげんでつれてくればいいじゃない」
ミーシャどこでその言葉覚えたんだ?
わしは困り果てていた。
「わたくしが呼んできますわね。お父様見ていてくださいな」
くすくすと笑いながら娘のレーシャが部屋を出た。
少し我儘に育ったようだが、そこも可愛いものだ。
トワは子供たちを学校に行かせたいようだが、別に通わせなくても城で教育は十分にできる。
ミーシャは学校に行かずに城で暮らせば良いのではないだろうか?
*****レーシャ視点
「あら、お兄様お久しぶりです」
「レーシャ、元気でやっているか?」
兄の第一王子、アルス・ド・ゼノベアと廊下で偶然会いました。
アルス兄様は、お父様の後を継いでこの国の王になる予定です。
「ミーシャが我儘言って、アスマに会いたいって言ってるの」
「そりゃ、大変だな。アスマは確か・・」
アスマの居る場所を教えてもらい向かいました。
お仕事していて忙しいでしょうに。
確か最近上の役職になったと言ってましたわね。
コンコンコン
「アスマ様いらっしゃいますか?」
「どうぞ」
部屋に入ると、アスマは机に座って何やら書類とにらめっこしています。
「丁寧な言葉使いだと思ったら、王女様か。すまんな騎士団長になって事務仕事が多くて忙しくてな・・」
「わたくしはもう王女ではありませんわ。頼みずらいのですがミーシャが・・」
「ああ、分かった。場所は王様の私室か?少し経ったら行くから先に戻っていてくれ」
「お待ちしておりますわ」
わたくしはドアを閉めて、廊下を歩いています。
アスマは元女神さまと仲良く暮らしているそうです。
アイリさんでしたっけ。
女神の名前だと紛らわしい(周りが驚く)のでそう呼んでいるらしいです。
たまにはアイリさんと外で会っても良いですわね。




