33 一緒の時を
僕はアルと子供たち二人と魔王城へ来ていた。
魔王城は洞窟の奥深くにある。
場所は洞窟の奥だが、空間魔法を使っているらしく室内は広々としている。
「いい機会じゃから、見せておくのも良いかと思っての」
色合いが白ではなく、黒っぽいのがいかにも魔王城なんだけど。
「初めて隅々まで見たけど、立派だね」
以前見たのは食堂と部屋のみだった。
隅々まで清掃されていてキレイになっている。
「ぴかぴか~つるつる」
「ゆかが、かがみみたい」
アルトが床を手で触っていて、エミリアは覗き込んでいた。
床は石で出来ているらしい。
「これだけ広いのに清掃を一人でやっているのかな。ここには他に一人しか居ないんだよね?」
「そうじゃな。かつては何百と言う魔物が居たが、オルトレスのみが現存している部下じゃ。室内は保護魔法がかかっておるから、それほど汚れないのじゃよ」
「へえ~」
そんな魔法があるんだ。
オルトレスは何処かへ行っているのか姿が見当たらない。
「まあ、あと数百年しないと他の者たちも復活せんだろうし。トワもその頃は・・この子たちは恐らく少しは長寿じゃろうな」
魔王城を一通り見てまわった。
人?が居ないせいなのか随分物寂しく感じたけど。
アルが時折、僕を見て何か言いたげだったが口を閉ざした。
*****
「トワ、長い時を生きてみんか?」
突然、夜中にアルが部屋に現れた。
僕はベッドに横になっていたが寝付けずに目を開けていた。
「ん?アル?どうしたの突然・・」
アルはドアの前に突っ立っていた。
「昼間思ったのじゃが・・実は前から思っておったが、トワはあと4、50年したらこの世から居なくなってしまうであろう?わらわと契約をすれば一緒の時を過ごせると思って・・いや、ごめん忘れてくれ」
「僕が長生きできる方法があるんだね。でももしかして、人間を辞めるって事じゃない?」
「そうじゃ。魔族として生まれ変われば・・なんて自分勝手じゃな。居なくなると思うと寂しくてたまらん。こんな感情は初めてなのじゃ」
アルは泣きそうな顔をして俯いた。
僕は起き上がってアルを優しく抱き寄せる。
「あはは。子供みたいじゃな・・笑ってくれ」
「出来るだけ一緒にいるよ。ずっと二人きりは難しいかもだけど」
「・・そうじゃな。他にも二人嫁がおるしな」
「二人が拗ねない程度にね。それと頑張って、長生きするようにするよ」
アルも色々悩んでいたんだな。
他の二人は人間だからそれほど悲しくは無いだろう。
いつか人は死ぬのだ。
いつも朗らかなアルが、珍しく悲しい表情をしたのは後にも先にもこの時くらいだった。
*****
今から数年前に遡る。
これはアルがトワと出会った頃のお話。
復活してから数日が経った。
まだ体が慣れていないようだ。
わらわはアルビレス。
黒い翼を持った魔王だ。
白い翼を持った天使族、黒い翼は突然変異の異端児だったようだ。
わらわは翼が黒い事で、天使族から追い出されてしまったのだ。
黒髪に黒い翼・・不吉に思われたのだろう。
数100年一人で生き抜いたわらわは、魔力という強い力を得て魔族の王に君臨していた。
魔王になってから、突然人間が襲い掛かってくるようになった。
全く予期していなかった事態に、我らはあっという間に滅ぼされてしまう。
その後、短命の人間たちは寿命で亡くなり・・あれから500年が経ち復活したのだ。
「のう、オルトレスよ。他の者はしばらく居ないのじゃな?」
「はい。おそらく数百年は復活しないだろうと思われます」
中途半端な時期に復活してしまったようだ。
何故か体は黒髪美少女になっているし。
わらわ男じゃなかったっけ?
オルトレスはわらわの忠実な部下で、浅黒い肌の頭に角が二つある魔族だ。
「ひまじゃの~外へ行ってくるか」
わらわは黒い森の上空を飛ぶことにした。
以前なら造作もない事だったのだが、体が慣れないせいか落下してしまった。
前の体のつもりで飛んでいたのが良くなかったみたいだ。
「しまった・・魔力切れじゃ・・」
どうやら魔力が枯渇したらしい。
木の上に引っかかり、そのまま気絶してしまった。
「うう~~ん」
「あ、目を覚ましたのかな」
目を覚ますと、人間の少年がわらわを覗き込んでいた。
瞳をじーっと見つめられる。
何じゃ恥ずかしい。
「えっと、助けてくれたのか?とりあえず、すまなかったの。それと恥ずかしいからそんなに見ないでほしい・・」
顔が赤くなっている気がする。
見た感じ優男で金髪の青い目の少年。
15歳位だろうか?
その後、王城へ運ばれたようだ。
てっきりどこかの宿辺りに入るかと思っていたのだが。
何者だこの少年は?
甲斐甲斐しく看病する少年。
貴重なマジックポーションを飲ませてくれるらしい。
起き上がれないのでスプーンですくって飲ませてくれた。
確かに魔力枯渇で動けなくて有難いが・・人を疑わないのかこいつは?
「あれ・・気が付かなかった。君、腕を怪我してるじゃないか」
落ちた時に枝に引っ掛けたのだろう。
少年はすかさず回復魔法をかける。
他の者たちはわらわに少年が付きっ切りなのを気にしているようだ。
何が気になるのであろうか?
それにしても女性ばかりじゃな。
後にトワと呼ばれるこの少年が、とんでもなく女性好きだという事を知ることになり、まさか結婚することになろうとは想像すら出来なかった。




