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30 精霊族の村の困り事

*****アル視点


『アルビレス様』

『なんじゃ、オルトレスか。何かあったのか?』

『ここしばらく城に戻られていないじゃないですか。たまには戻ってきてくださいよ』


屋敷の庭で子供たちを見ていると、部下のオルトレスから念話テレパシーが送られてきた。

部下と言っても一人しかいない魔族なんだが。


『ん~戻っても何もする事なかろう?』

『最近、精霊族の者たちが庇護(ひご)を求めてやって来ているのです』

『初耳じゃが』


精霊族?何の用じゃろう。

魔族って言ってもわらわとアルビレス二人しか居らんし。

仕方ないので、トワにしばらく家を空けることをいう事にした。

子供たちは・・メイドが増えたから見てもらえばいいか。


「僕行かなくて大丈夫?」

「わらわの問題じゃからな。困ったことがあったら手を借りるかもしれんが」


トワも忙しいと思うのだが、心遣いが嬉しい。

「まぁ、早めに戻るようにはするがの」


わらわは、右手で空間を歪めて城へ直通の通路を開いた。





数カ月ぶりの我が家。


「久しぶりじゃの。やっぱり自室が落ち着くわい」

「ままーここどこ?」


「エ、エミリア?」

黒髪の娘がわらわのスカートのすそを引っ張っていた。


「しまった・・置いてくる予定じゃったのだが」


どうも感覚が鈍っているのだろうか。

付いてきてしまったようだ。


「アルビレス様のお嬢様ですか?」

「おお、オルトレス戻ったぞ」


わらわは、頭に二つの角がある肌が浅黒い美青年の魔族に声をかけた。


「まぁ付いてきたのなら仕方ない。一緒に行くとするかの」


エミリアの手を引いて、精霊族の里へ向かう事にした。





わらわは右手で空間を歪める。

一度行ったところは魔法で移動できるのだ。

一瞬にして緑豊かな森の中に入った。


「とりのこえがする~」

「鳥がさえずっておるな」


「ここは精霊族の住む村じゃ。大人しくしていなさい」

「アルビレス様も優しいお顔されるんですね」

「一応母親じゃからな。わらわを何だと思っておるのじゃ」


緑色の髪をした門番の男がわらわを見て、頭を下げた。

「村長から話を聞いております。どうぞこちらへお越しください」




「それで?何かわらわに用事とは?」


単刀直入に訊ねた。

目の前の白髪交じりの老人が今の村長らしい。

絨毯に座って、話を聞くことにする。

エミリアは膝の上に乗っている。


「最近、人間たちが頻繁に村に入るようになっての。何とかならぬかと思って・・その間村人は隠れておるのだが」


精霊族は臆病なので昔から人間を避けてきた。

わらわと昔からの友人である精霊族は困ったことがあるとお互い助けるようにしているのだ。


「ふうん・・人間が入れるようになった原因は?」


「何処かに隙間が出来てしまったようで、塞ごうにも場所がよくわからなくての」

「本当に隙間なのか?」

「と、言いますと?」

「魔法で破って入って来たとか・・」

「まさか、そんな事はありますまい」


隠れて住むのも意外と大変だ。

だったらいっそ開け放ってしまえばいいとも思うのだが。

精霊族の性格上そうもいかないらしい。


一応わらわが調べることにした。

探索サーチ


どこか隙間があればこれで見つかるはずだ。


「ん?」


何か変な場所があるな。

オルトレスも気が付いたようだ。


「行ってみましょう」



「ここだけ破られた形跡があるのう・・」


村の隅っこに穴が開いていた。

魔法と言うよりは物理的にぶった切った跡。

魔法付与の剣だろうか。

結界を張り直すか。


『・・・・』

穴に手を当てて、呪文を唱えた。


「さすが魔王様です!」

「いや、これくらいお前でも出来るじゃろ?」

「まおう?」


「そうですよ。ママは魔王なんですよ」

「オルトレス、余計な事言わんで宜しい」

「可愛いお子さんじゃないですか。見た目は人間ですが、魔力も相当多いのでしょう?」


この子は人間と魔族のハーフだ。

トワがいるうちはいいが、亡くなった時は・・珍しく先の事を考えてしまった。


「トワとの子供じゃからな。そりゃ多いに決まっている」





「取り合えず、穴は塞いでおいた。また破られるかもしれんしの。恐らく剣でぶった切ったのじゃろう。根本解決できなくてすまんな」


村長の家に戻って、報告をした。


「いいえ。有難うございました。今度来た人間には注意することにします。ところでその子供さんは?」


わらわの膝に大人しく乗っているエミリアに関心が向く。


「わらわの子供じゃ。人間とのな」

「何と!いつの間に一緒になられたのですかな?もしかして城に居なかったのも・・」

「違う場所で暮らしておるのでな。すぐ対応できずにすまなかったの。トワっていう若い人間の男じゃ」

「その方はもしかして・・・」




*****トワ視点




「トワ、精霊族の村に行ったことがあるそうじゃの?」

「えっ?」


アルが帰ってくるなり、僕にそう言った。

「確かに、呪いを解くのに訪ねたことはあったかな・・」


「先ほど、村長に会って来たのじゃ。驚いておったわ」

ガハハと笑うアル。


「そ、そうなんだ。懐かしいね」

用事って精霊族の村に行くことだったんだ。


「問題は解決したの?」

「ん~そうじゃの。応急処置ってくらいかの。原因が解らないからの。まあ、何とかなるじゃろ」


相変わらずポジティブ思考だな。

これで何とかなるんだから凄いけど。


「エミリアが付いてきておってびっくりしたわ」

アルはエミリアの頭を撫でていた。


「え~おれもいきたかった~」

「アルトはまた今度じゃな?」

「やった~!」


連れて行くって・・魔王城か。

まあ、いつかは行かないとだしな。

この世界に獣人は居なくはないけど、翼のある種族は珍しいみたいでアルトが大きくなったら大変だな。


アルの事と人間の事と・・。

どう説明したらいいのだろう。

まだ小さいから、あと数十年後に説明すればいい事なのだけど。

そういえば王様には獣人の女の子と結婚したと誤魔化した。

だって魔王と結婚したなんて言えないよね?


「アスマは女神様と一緒になったんだっけ」

案外大丈夫?だったのかもしれない。

読んでいただき有難う御座います。


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