27 アルと空中散歩
確かに最近はウェンディに同情していたかもしれない。
それが辛かったのだろう。
何か話してくれれば良かったのだけど。
・・いや、僕が忙しいとかで話しかけ辛かったのかもしれない。
冒険者ギルドは男性が多い。
ウェンディはお酒が好きだから、勧められればあまり深く考えずに飲んでしまうだろう。
ガイに聞いたところによると、酔っぱらってまともに歩けなくなっていたようだ。
万が一何かあってからでは遅いのだ。
泥酔したウェンディを良からぬ連中が襲ったりするかもしれない。
ウェンディは僕が言うのもなんだけど、結構美人だから。
ソファでいつの間にかウェンディが寝てしまっていた。
「風邪ひくよ・・って起きないか。僕が二階の寝室まで運ぶか」
顔には泣いた後があって、ぎょっとした。
そういえば泣いてたって聞いた。
横抱きにして抱える。
成人女性は結構重い。
僕は風魔法で少し浮かせて運んだ。
「・・ごめんなさい・・」
夢の中で謝っているみたいだ。
心がチクンと痛んだ。
ウェンディを寝室で寝かせて、僕が階段を下ってくると。
「ウェンディは大丈夫かの?」
アルが訊いてきた。
「う~ん。起きたら訊いてみるよ。思ってたより本人が辛かったみたいだし・・」
「言いづらかったのかもしれんな。話すなら二人きりの方がよかろう。それと思ったのじゃが家事を任せ過ぎではないだろうか?わらわも手伝った方がいいのだろうがなにぶん不器用でな」
家の家事をほとんどをウェンディに任せきりのような気がする。
アルは料理が苦手で、以前手伝ったら炭で出来た料理が出て来た。
レーシャも家事が苦手のようだった。
「ここは広いのじゃから、お手伝いする家政婦とか雇っても良いのではないか?そうすれば負担も減るじゃろうに」
「そういえば、実家ではメイドとか執事っていうのがいたよ。必要だと思って無かったから考えてもいなかった」
きちんと考えたほうが良いのかもしれない。
「トワ、どうかしたのか?」
ゼノベア城の廊下でアスマに声をかけられた。
仕事で城に出向いていた。
「え?な、何が?」
「元気無さそうだからよ。いつも機嫌が良いお前が珍しいなと思って」
アスマは城で騎士の仕事をしている。
本人は一介の冒険者で良いと言っていたのだが、女神様と一緒になった事で王様が取り計らったのだろう。
女神さまは人間になったのでもう力を失っているのだけど。
神様は寿命がとんでもなく長いらしくて、女神さまの妹さんも人間になって寿命で亡くなったそうだ。
「まあ、色々とあるんだよ・・」
僕はため息をついた。
「そういえばレーシャが子供が出来たらしいな?」
「うん。だいぶお腹も大きくなったよ」
「最初は三人も妻がいるとか驚いたものだが・・この世界では普通らしいからな」
日本の感覚だと、一人の妻が普通だからね。
僕も初めて聞いたときは驚いた。
人って慣れるものなんだな。
*****ウェンディ視点
「頭痛い・・」
私は右手で頭をおさえた。
冒険者ギルドでお酒を飲んでからあまり記憶が無い。
久しぶりに飲んだから酔いが回ってしまったようだ。
リビングでコップに入れた水を飲んでいると、アルがふらりと現れた。
「昨晩は大丈夫じゃったか?」
「え・・?」
「ストレスが溜まっておるのじゃろう?気晴らしに外でも良くか?」
「「ひゃあぁ・・」」
「何じゃ大げさじゃの~。前はよくトワと空を飛んでいたのじゃろ?」
「もう5年も前のことですよ・・ちょっと怖いのですが・・」
気晴らしにとアルが空を一緒に飛ぼうと誘ってくれた。
もちろん私は飛ぶことは出来ない。
風魔法を練習すれば出来るようになるのかもしれないけど。
「手、手を離さないで下さいよ・・」
私はアルと手を繋いでいる。
アルの魔法で落ちることは無いと言われているけど、怖くて手が離せなかった。
アルは黒い翼を広げて悠々と空を舞う。
私はおっかなびっくりで、下を見ると怖くなって怯えてしまっていた。
アルは翼と魔力で飛んでいるらしく、そんなに羽ばたかなくても良いらしい。
「下じゃなくて上を見たらどうじゃ?空は気持ちいいじゃろう?」
最近は下ばかり見ていた気がする。
「そういえば、子供たちは?」
「レーシャに少し見てもらっている。まあ、大丈夫じゃろう。よく言っておいたし」
レーシャが子供たちの面倒を見ているんだ。
大丈夫かな。
「ほら、またしかめっ面をしておる。性格が真面目なのは良い事だが深刻に考えすぎな所があるな。もっと力を抜いたほうが良い」
私ってそんな顔してたのかしら。
「結構適当でも何とかなるものじゃ。何も考えないのは良くないが、いいかげんの良い加減を覚えたほうが良い」
良い加減ね。
ふっと力が抜けた気がした。
「笑顔になってれば自然と良い事もやってくるじゃろうて」
アルが私に微笑んでいた。
良い事言うな。
魔王だけど。
そういえば魔王ってこのままでいいのかしら?
ふと素朴な疑問が頭をもたげた。
普通?の人間のお母さん的なことをしているだけのような気がするけど。
「あ、ほらまた何か考えておるな」
アルに指摘される。
「えっと、これは私の悩みじゃないから・・」
本人を目の前に質問していいか悩む。
別に聞かなくても良いか。
私がどうこう出来る話じゃないし。
「そろそろ帰った方がいいんじゃないでしょうか?」
「ん?そうじゃな。子供たちも飽きてくるころだろうしな」
私はレーシャが大変な思いをしていそうな感じを想像した。
殆どアルの子供たちの世話をしていないからね。




