25 トワたちのその後
「トワ、来たぞ~」
空間が歪んで手がにょきっと現れてアルが姿を現した。
「うわっ!びっくりした」
「ん?どこじゃここは・・」
「何処って、僕たち引っ越ししたんだよ」
「そうなのか?じゃあ、王女たちは居ないのじゃな?」
「私は居るわよ。ごめんなさいね」
レーシャは実家が城なのでこっちには来ていない。
実際結婚したら一緒に住むという事にはなるとは思うけど。
「なんじゃ、つまらんのう」
「あの、アル?いつもあんな移動方法してるの?」
「そうじゃよ?でもトワの所と魔王城しか移動してないぞ?」
「そっか~ならいい・・って良くない!急に目の前を現れてびっくりするじゃないか!」
「折角なら一緒に掃除しましょうよ」
ウェンディがホウキを持ってきてアルに手渡した。
「あ~それはいいかも」
アルは無言で床を掃き始めた。
「何で掃除なんか・・」
「丁度人手が足りなくて二人だと結構大変なんだよ。アルが来て凄い助かるよ」
僕はテーブルを拭きながら言った。
「そうか?ならいいのじゃが・・そういえば何で引っ越したのじゃ?」
「何でって勇者パーティ辞めたからね。城からも出たかったし」
ウェンディが突然切り出した。
「トワ・・今だから言うけど、レーシャとはどこまでいってるの?」
「どこまで・・って?」
「キスとか・・そういう事よ」
ウェンディは目を反らして言う。
「あ・・そういえばキスくらいだっけ。僕が記憶戻って城に帰って来た時か」
「そうなんだ・・」
「キス・・いいのう。わらわも甘ーいキスを・・」
ウェンディが少しほっとした表情をしていた。
実際には三人と付き合ってる感じだし・・ちゃんとしないと駄目かな。
「あの?アルさん?」
真夜中の僕の部屋。
部屋は月明かりが窓から差し込んでいた。
ウェンディは隣の部屋で寝ている。
僕の寝顔にアルがキスをしてきた。
キスで目が覚めた。
お姫様じゃないけど。
「こういうの襲うっていいません?」
「キスしてみたかったのじゃ」
「せめて起きている時に言ってくれれば良かったのに。僕もアルの事好きなんだから拒否しないよ」
ぼくはアルを抱き寄せた。
「むぐっ」
「かわいいなぁ。僕もアルの事大好きだよ」
アルは顔を真っ赤にしていた。
月明かりが彼女の顔を照らす。
「今日は・・いつになく積極的じゃの?」
「そりゃ、そっちから来られたら・・我慢できないよ」
黒い髪を撫でてみた。
やわらくて良い匂いがする。
僕はアルの口に優しくキスをした。
「何だかほわほわするんじゃが・・」
「あは、こういうのって初めてだったりするの?」
アルは無言で頷いた。
チュンチュン・・。
「朝か・・」
僕の隣に黒い翼の彼女が気持ちよさそうに寝ていた。
いつもアルは突然来るんだもんな。
まあ、いいけどさ。
可愛い寝顔を見ながら、彼女の黒髪を優しく撫でた。
「トワがレーシャと寝るのは時間の問題かしらね・・」
朝、ウェンディにアルとベッドに一緒に居るところを見つかってしまった。
だからといって悪い事では無いんだけど。
付き合っているんだし。
「王女様は流石に・・そこまでしたら結婚しないとだろうし。昨日のはアルから襲ってきたからなのであって・・」
僕はつい言い訳をしてしまう。
「結婚って何じゃ?」
アルは朝から顔が緩みっぱなしだ。
因みに僕にずっとくっついている。
「人間のところの儀式みたいなものかな?僕はしなくても良いとは思っているんだけど・・」
「そういう訳にはいかないでしょう」
「だよね~」
王様にも頼まれてる感じあるし、けじめをつけないといけないんだよな。
もう少しで16歳になる。
家を出てから1年しか経っていないんだな。
しばらくぶりに城を訪ねた。
レーシャの部屋を訪ねたら僕が来たのを見て驚いていた。
「久しぶりですわね。トワ、わたくしの事すっかり忘れているのかと思いましたわ」
レーシャは椅子に座って呆けていた。
僕たちが居ない間に、アスマと女神アイリーンが付き合い始めたらしい。
とはいっても、ほとんどの人が見えていないのでどうなのだろう。
もう公表しちゃってもいいんじゃないか?
僕はレーシャの隣に座った。
「ごめん。中々来れなくて・・引っ越ししてバタバタしてたから・・レーシャは僕の事どう思ってる?」
「どうって・・惚れっぽい人だなって思ってますわ」
僕は苦笑いをした。
「あは、ごめんね。惚れっぽくて。こんな僕で良いのなら結婚してくれる?」
「・・・!喜んでお受けいたしますわ」
満面の笑顔でレーシャは僕に抱きついてきた。
*****
5年後
僕は21歳になっていた。
歳を重ねても、中身はあまり変わらないような気がする。
ウェンディ、レーシャ、アルと一軒の家で一緒に暮らしていた。
結局レーシャは僕に嫁ぐ形になったのだけど、王様が家をプレゼントしてくれたのだ。
家と言っても以前住んでいた屋敷と同じ位の広さがある。
場所はプノン町だ。
仕事は、以前父が勤めていた領主を任されるようになっていた。
王様から、男爵を叙爵していた。
「今日はゆっくりできるのね?」
「ああ、仕事が一段落ついたからね」
ウェンディが紅茶を淹れてくれる。
庭に置かれた椅子で僕らはのんびりとしていた。
丸いテーブルを囲み僕らは寛いでいる。
「そういえば、女神様人間になったらしいわよ。アスマと一緒になるんですって」
「へえ~そうなんだ」
違う人種?でも一緒になるものなんだな。
あ、魔王が居たっけ。
そういえばアルは幾つまで生きるのだろう?
「そういえばアルって何歳まで生きるの?」
「ん?1000年位は普通かの。どうしたそんなこと急に訊くとは」
「・・いや、寂しく無いのかなって思ってさ」
残されたら悲しいに違いないから。
「それは・・致し方ないな。エルフも長寿だしそんなものじゃ」
家を追い出された時がずいぶん昔な気がする。
そういえば父は細々と借家で暮らしているらしい。
住んでいた屋敷は売り払ったそうだ。
「たまには兄と一緒に父に会いに行っても良いかな」
「わたくしもたまには王様に会いに行こうかしら」
レーシャは大きくなったお腹をさすりながら言った。




