23 勝負することになった
部屋で紅茶を飲んでいた。
僕とウェンディ、レーシャはソファに座っている。
午後の時間はお茶菓子と紅茶でまったりするのが王族や貴族の習慣らしい。
「トワ、最近アスマの様子がおかしいのですけど何か知ってますか?」
レーシャが訊いてきた。
「アスマの様子?一体どうしたの」
「そういえば、女神と部屋から一緒に追い出して以来見てないわね」
「・・・あれ以来、女神を見かけていませんわね」
正直来ないでくれて助かっていた。
もう既に3人の女性が居て手一杯だから。
「ぼーっとしてることが多いみたいで、ゴダイが嘆いてましたわ。ほら剣の稽古の時危ないでしょう?なのでしばらく休みにすると言ってましたわ」
「本人に聞いた方が早いんじゃないかな」
「それが・・曖昧に返事をするので何とも・・」
*****アスマ視点
「稽古休み?何で?」
「何でってなお前。最近ぼーっとしているだろう。危なくて仕方ないからな。元に戻ったらまた出来ると思うが・・」
俺はゴダイに言われたことを思い出していた。
原因は分かってる。
『どうしたんですか?元気がないようですが・・』
俺の部屋にずっと入り浸っているアイリーン。
彼女の事で頭が一杯になっているのだ。
「えっと・・でもなぁ・・」
彼女に本当の気持ちを言えるわけがない。
そんな事を言ったら帰ってしまうかもしれない。
トワに相談してみるか。
「女神様はアスマの所に居るんだ。そうだったんだね。どおりで見かけない訳だよ」
トワの部屋に行くと、トワの他にいつもの女性たちが三人居た。
こうなるとは思っていたけどな。
「どうしたらいいと思う?」
いつになく弱音を吐いている自覚はある。
「正直に言っちゃえば?好きですって」
「そうは言ってもよ・・女神だぜ?」
「でもこのままだと悶々としてない?進まないよね・・」
告白しても断られるのは目に見えてる気がするんだが。
種族がそもそも違うし。
目の前の黒い翼の少女と目が合った。
例外が目の前にいたわ。
「わかったよ。何とかやってみるさ」
俺はため息をついて、肩をすくめた。
言わないと先に進まない・・断られても仕方ないよな?
あーもう何年振りだろこういうのって。
思い返せば異世界召喚されてからしばらく経ったなぁ。
俺はもう帰れないのだろうか?
部屋に帰ると、最近では当たり前のようにアイリーンが部屋のソファで寛いでいた。
嫌われてはいないと思うけど。
「あ、あの・・俺・・貴方の事が好きです・・」
アイリーンは俺を見て目をまん丸くしていた。
『好き?わたしをですか?』
「他に誰もいないと思うが・・貴方は神だから人間の俺の事なんて何とも思っちゃいないだろうけど・・」
俺は俯いた。
言った言いきった。
『不思議ですわ。妹も同じ気持ちだったのでしょうか・・』
アイリーンは天井を見つめて呟いていた。
アイリーンは戸惑いながら答えた。
『・・えっと、わたしにはその感情がいまいち理解出来なくてごめんなさい。他の怒りや悲しみは解るのですが・・だけど嫌いではないと思いますわ』
「そう・・か。うん。ありがとう聞いてくれて」
『慈愛の女神とか呼ばれてるけど、人間の感情がいまいちよく分からないのよね。傍に居たいとかじゃ駄目なのかしら?』
俺は思わずアイリーンの体を抱きしめた。
『え?』
「そのままでいい」
嫌いでないのならそのままでもいい。
「今のままでしばらく居てくれ。俺のする事が嫌だったらはっきり言ってほしい」
*****トワ視点
しばらくしてアスマの様子が落ち着いたらしい。
告白をしたのだろうか。
僕たちには関係ないけれど。
「気になりますわ~」
「だよね」
「そうじゃな」
女性たちはアスマたちの様子が気になって仕方が無いらしい。
「放っておいた方がいいんじゃ・・」
「さり気なく訊くのが良いんですのよ」
「そうじゃのう」
ウェンディは頷いている。
いいや、放っておこう。
決して女性陣が怖いわけではない。
演習場ではアスマとゴダイの剣の稽古が続いていた。
実際、魔王と戦わないんだしもう良いのではとも思うんだけど。
アルの正体を魔王だって言えないし。
三人の女性たちは、アスマの様子が気になるらしく演習場に見に来ていた。
僕は一人魔法を試し打ちすることにした。
遠くで魔法使いのユウリも練習をしているみたいだ。
折角なら手合わせ出来ないかな。
僕がユウリに声をかけようとしたら
「ご、ごめんなさい。無理です!」って逃げられてしまった。
逃げることは無いと思うんだけど。
『ファイヤーボール』
初級の火魔法を木製の的に飛ばした。
ドドドーーン
あ、跡形もなく壊れちゃった。
一応弱い魔法のはずなんだけどな。
遠くからユウリが僕を見て引いているのが解る。
えっと威力を抑える方法って無いだろうか?
ここで魔法を連発したら的が全部壊れて使えなくなってしまうな。
あ、氷魔法なら凍り付くだけだし壊さないよね?
『氷結魔法』
パリパリ・・。
的が凍り付いた。
氷がしばらく解ける気がしない。
あ、やっちゃったかも。
その後ユウリが凍り付いた的を火で溶かしていた。
「楽しそうじゃな。わらわも魔法を使っても良いか?」
いつの間にかアルが僕の後ろに立っていた。
「アルが本気を出したら不味いんじゃないか?」
「本気など出さぬよ。そうじゃトワと勝負するなんてどうじゃ?」
え?
魔王と勝負?
「ここだと演習場を壊しそうだから止めたほうが良いよ」
「だったら、黒の森でどうじゃ?」
話の流れでアルと勝負することになってしまった。
本気じゃないから大丈夫だよね?




