22 女神と勇者
喫茶店を出た後、女神が僕たちの後を付いてきていた。
街中を三人で歩いている。
『それでね、わたし・・しばらくトワの近くに居ることにしたわ。面白そうだし』
「近くって・・城に入れないと思うけど・・」
『そこは上手くやってすり抜けるから大丈夫』
ウェンディは、女神相手だからか特に意見を言うわけでも無く聞く側に徹していた。
時折、眉間にしわを寄せたりしているけど。
僕たちはゼノベア城に戻った。
女神は他の人から見えなくなる魔法?をかけて認識されないようにしているらしい。
警備の兵士たちも見えないのでスルーした。
女神は遠慮せずに僕の部屋に入ってきた。
「さすがに・・僕も一応男ですし、寝るときはウェンディの部屋とかに行ってほしいんですけど」
『あはは、ずーっと居るわけじゃないわよ。寝るときは帰るし』
夕方になり、外も暗くなってきた。
ウェンディも女神の動向が気になるらしく、自分の部屋に戻らずに僕の隣に座っている。
僕の部屋で女神がソファに座って寛いでいるんですけど?
「あの・・本当にあの女神様ですよね?」
『なあに今更?』
「だって、以前会った時は暇つぶしに戦争とか起こすって怖い事言ってて・・でも、話してみると意外と普通だから」
神域で会った時は高圧的で上から見下すような感じがした。
でも今は普通の女性としか思えなかった。
『ん・・そうね。人間《この姿》だからかしらね?ほら、形?に引っ張られるっていうじゃない?まあ、でも興味はあったのよ。妹が好きになった人間という者に・・』
コンコンコン
「トワ入ってもよろしいですか?」
そう言いながら、レーシャがドアを開けて部屋に入ってきた。
「お声がしますが、誰か他にいらっしゃるんですか?」
女神がレーシャの目の前に姿を現した。
「え?急に現れてびっくりしましたわ。どちら様ですの?また・・トワの恋人でしょうか・・」
少し俯くレーシャ。
「違うから!この人は・・」
『初めましてですね。わたしは女神アイリーンと申します。お邪魔しています』
「め、女神様??」
レーシャは女神だという事を直ぐに信じたようだった。
*****女神アイリーン視点
夜も更けて、神域に戻ったわたしは思い出していた。
まだ妹が神域に居た頃。
「駄目ですよ姉さま。人間は脆いんですから」
年中妹に怒られていたっけ。
ティアは双子の姉妹で二人で神をしていた。
「平和なんてつまらないんですもの。たまにはドキドキしたものが無いと・・」
「そうやってすぐ争わせようとする!もう少し労りと言うか優しさをですね・・」
しょっちゅう言い合った。
あの頃は楽しかった。
二人して下界をみて騒いでいたから。
でも、ティアはいつの間にかわたしから離れて行った。
「ワタシね人間と一緒になるの。寂しくなると思うけどごめんね」
そう言って下界に降りてしまった。
ある人間の男性が好きになり、結ばれてティアはその時人間になっていたから・・寿命で亡くなってしまった。
悲しい・・悲しみはいつまでも癒されなかった。
寂しさを紛らわせるため、いつの間にかわたしは人間と魔物を争わせるゲームを楽しむようになっていった。
元々わたしは罪悪感などという物は無い。
種族がそもそも違うのだから。
「ティア・・貴方に会いたいわ」
人間と違い神は長い時を生きなければならない。
一人で神域に居るのは寂しすぎる。
いつの間にか、わたしは独り言を呟いていた。
***
「トワ~いるかの?」
黒い翼の少女が僕の部屋を訪れた。
「アル?どうやって城に入ったの。一般人は入れないと思うんだけど」
「トワの知り合いって言ったら城の兵士が通してくれたぞ?」
警備緩すぎない?まあいいけど。
「何だか人が一人増えておらんか?トワの恋人がまた一人増えたのか?今回は随分年上じゃのう」
ソファに座り、四角いテーブルを囲んで紅茶を飲んでいる。
僕とアルとウェンディとレーシャと女神。
これだけ人が居ると部屋も窮屈に感じる。
『あら、わたしが見えるなんて・・さすが魔王様ってことかしら。年上ってまぁ1000歳は越えているわね』
「ていうか、この人は恋人じゃないし」
僕は慌てて否定した。
『面白そうだからトワの恋人になっても良いわよ?退屈し無さそうだし』
「この人はアイリーンと言って女神なんだ」
「へえええ・・女神とな?そもそも実際に女神って居たんじゃな」
アルは素直に信じたみたいだ。
『わたしも魔王は実際には初めて見るわ』
「あれ、わらわ魔王って言ったっけ?」
和やかに談笑する二人。
「おーい。レーシャ、王様が用があるって言って・・」
アスマがノックをせずに部屋に入ってきた。
当然のごとく女神を見て固まっている。
「随分人が多いな。一体どうしたんだ?また一人増えてるし・・ていうかまたトワの恋人か?」
『女神でーっす』
軽いノリで答えるアイリーン。
レーシャが呼ばれて部屋から出て行った。
「女神ってあの神様だよな?召喚の時に力を貸したっていう?」
『今回は力だけ与えたので、レーシャさんが召喚の議をしたことになってますが普通の人間は出来ませんからね?』
アスマはアイリーンの青い瞳をじっと見つめた。
「それにしても・・あんたって目の覚める美人だよな。こんな人見たことねえわ」
アイリーンは目をぱちくりとさせている。
「口説くなら、外でやってください」
僕はアイリーンとアスマを部屋から強引に追い出した。
このまま女神が、アスマの方に行ってくれないかなと期待して。
*****アスマ視点
廊下で俺はアイリーンと向かい合っていた。
突然トワから部屋を追い出されて二人きりになってしまった。
「口説くって一体アイツは何を言ってるんだか・・」
確かに美人だが、何て言うか美しすぎて浮世離れしてる感じなんだよな。
『・・美人ですか・・』
アイリーンは照れているのか頬を少し赤らめている。
『あの・・少しお話しても良いですか?貴方のお部屋にこれから行っても?』
「あ、はい」
チラチラ恥ずかしそうに俺を見る彼女の姿が、とても可愛く見えて思わず答えてしまっていた。
胸がドキドキしている。
今まで年下ばかりで好みの女性に会えなかったんだよな。
でも男の部屋に女性を連れて行っちゃっていいのだろうか?
そもそもこの人はこの城にどうやって入ったのだろう?
俺は彼女を連れて部屋に入った。
城の部屋の作りはトワの所とほぼ一緒だが、基本的に一人でいることが多い。
物はほとんど無くて家具しか置いていない。
「むさ苦しいところだけど・・どうぞ」
『同じ部屋のはずなのに、雰囲気がだいぶ違いますわね。不思議ですわ』
アイリーンの澄んだ声が心地よく聞こえる。
『さっきからどうしたのですか?緊張しているの?』
「え・・えっと。女性をこの部屋に入れたのは無いから・・」
『貴方、顔が赤いですわよ?風邪でも引いてしまったのでしょうか?』
俺の額にヒンヤリとした彼女の手が触れる。
『熱はないようですわね。良かった』
アイリーンは心底ほっとした様子で微笑みかけていた。




