19 黒い翼の少女
ゼノベア王都に着いて直ぐに城に入った。
道中のんびりと馬車で来たのに、城を見た途端少し罪悪感が出てきたのだ。
先ずは僕が記憶が戻った事を王様に伝えておかないといけない。
レーシャとアスマたちと。
そんな事を考えていると、偶然城の廊下でアスマとすれ違う。
「あれ・・トワ記憶戻った?」
「え?どうして・・」
「どうしてってそりゃ、顔つきが全然違うからな。まあ、治って良かったよ。これから王様の所に行くんだろ?」
「心配かけてごめん」
「別に良いって」
アスマは手をひらひらさせて去って行った。
「失礼致します」
玉座の間に入った。
毎度のことながら王様の前って緊張するな。
僕は腰を落として片膝を立て頭を下げた。
「トワ・ウインザーただいま戻りました。この度は迷惑をおかけしてしまって申し訳ありませんでした」
王様に、無意識だったとはいえ記憶喪失で迷惑をかけてしまったことを詫びる。
「無事に記憶も戻ったようでなによりだ。勇者たちとまた訓練に励むように」
僕は深く頭を下げた。
**
玉座を退出して、城の自室の部屋のドアを開けた。
ちょこんと、三人掛けのソファに腰かけた銀髪の少女の姿が見えた。
「レーシャ・・」
「トワが城に戻ってくるのを待ってましたの。ずっと、ずっとずーっと待ってましたのよ」
可愛らしい大きな瞳でじっと見つめられる。
「今回は仕方なかったとはいえ・・ウェンディさんとだけ一緒なんて狡いですわ。わたくしも行きたかったのに・・」
僕が記憶を無くしている間、ウェンディと二人きりだけだったことが気に入らなかったらしい。
頭では分かっているのだろうけど、気持ちが我慢できないんだろうな。
「トワ、ちょっと屈んでくださる?」
「え?なあに?」
チュッ
僕の頬に温かい感触が触れる。
「今回はこれで勘弁してあげます」
彼女の白い肌が、みるみる赤くなっていき満面の笑みになった。
「レ、レーシャ?」
僕は頬を触る。
「記憶が無かったとはいえごめん。寂しかったよね」
「本当ですわ。無理言って行こうとしましたけど、アスマたちに止められたんですもの」
僕はレーシャの隣に座る。
彼女は僕にもたれかかって目を瞑った。
「また会えて良かったですわ・・生きた心地しなかったんですもの」
「大げさだなあ・・」
*****
王都から少し離れた森に黒い翼を持った黒髪の少女が空を飛んでいた。
「わらわの今の体は小さくて動きずらい・・500年か、復活するにはまだ早かったかのう・・」
翼を使って空を飛んでいるわけではなく魔力で飛んでいるみたいだった。
「しまった・・魔力切れじゃ・・」
意識を失い失速する少女。
木々に上手く引っかかり、落下は免れたようだがそのまま気を失ってしまった。
「王都の近くにこんな森があったなんて」
歩いて三日かかる場所に森はあった。
森は、鬱蒼と木が茂っていてあまり人の手が入っていないようだ。
僕とウェンディは魔法の訓練をする為、広い場所を求めてやってきたのだ。
「ここは昔、500年前魔王が居たと言われている森で「黒い森」と呼ばれているのよ」
「へえ~」
「近くの洞窟には美しい水晶が採れるから、冒険者がよく訪れるらしいわ。強い魔物が居るらしいけどね」
森は静まり返っていて、魔物も見かけない。
本当に魔王の居た森なのだろうか。
「取り合えず何処で練習する?」
僕は風魔法で空に浮かび上がった。
周囲を見回してみる。
あまり周りの木を傷つけたくないな。
「私も空飛んでみたい。トワばっかり狡い」
「ウェンディ風魔法使えたっけ?じゃあ、一緒に飛ぶ練習する?」
「やった!」
「ん?あ、ちょっと待って」
遠くの木に人の姿のような物が見えた。
僕はそのままその場所に近づいてみる。
高い木の枝に引っかかり、黒色で長い髪の少女が見えた。
「「人が木の上で倒れてる。ちょっと待ってて」」
ウェンディに聞こえるように大声で叫んだ。
僕はそっと少女を風に包んで運ぶ。
柔らかそうな地面に降ろしてみた。
下は草だから、多少は痛くないはずだ。
「何であんな高い木の枝に引っかかってたんだろう」
「翼があるから、飛んでたんじゃないの?」
運んでいる時に背中に何か付いてるなとは思っていたのだが。
よく見ると立派な黒い翼が付いていて、左腕には金の腕輪が見えた。
「え?これ本物?」
そっと触ってみると柔らかい、カラスのような漆黒の色をしていた。
「翼を持った種族って珍しいわね」
「黒くて艶々《つやつや》とした美しい翼だね」
「うう~~ん」
「あ、目を覚ましたのかな」
僕は黒い翼の少女の顔を見ていると、薄っすらと金色の瞳が開かれた。可愛らしい顔をしているが年齢は僕より少し上くらいだろうか。
「わぁ・・」
僕は一瞬、少女の金色の瞳に見惚れてしまった。
しばらく見つめていると・・・。
「ちょっと、トワ」
ウェンディが何故か怒って肘で突いてきた。
「え?何?」
「何って自覚ないでしょ・・貴方って直ぐ惚れっぽいんだから」
「そ、そんな事無いよ」
(多分・・)
だってキレイだったんだもん。
透明で宝石みたいで。
「えっと、助けてくれたのか?とりあえず、すまなかったの。それと恥ずかしいからそんなに見ないでほしい・・」
少女は顔を赤らめた。
「ご、ごめん。木の上で引っかかってたから危ないと思って降ろしてみたんだ」
「木に?下から登ったのか?」
「ううん。魔法で空を飛んでいる時に君を見つけたから・・」
僕は懐かしい黒髪の少女に、すっかり心を許してしまっていた。
翼も艶々していてキレイでずっと見ていられる。
「・・ん。だめじゃ。力が入らん。魔力切れで体が思うように動かないようじゃ」
少女は体を起こそうとしているが難しいようだった。
「ねえ、この人城に連れて帰って良いかな?」
「トワなら言うと思ったわ・・城に入る前に訊いて、大丈夫そうなら連れていけばいいわよ。駄目なら何処かの宿屋に寝かせるとか。とにかく早めに休ませてあげたいわね」




