雪と塁・2
「それじゃあ、始めるよ」
「ああ」
二人は頷きあうと、一台のパソコンの前に陣取る。塁が椅子に腰かけ、雪は後ろからその画面を覗きこんだ。
「まず初めのキーワードは?」
塁に尋ねられ、雪は「金子 高久」氏から与えられたキーワードを思い返す。
(「大きな木」、「祠」、「火の神様」・・・「整理された道」・・・)
もう一度考えてみる。どれを入れれば数多の情報を上手く選び出せるか。
「・・・『整理された道』・・・」
「整理された、道?」
雪が呟いた言葉を塁は復唱した。
「本当にそれでいいの?」
「・・・・」
聞かれてもう一度考える。そして、一つの疑問が浮かび上がってきた。
「塁、あの人が生まれた場所って何処?」
「あの人って・・・・金子 高久さん?」
「そう」
「ちょっと待って」
唐突な雪の質問に、塁はキーボードをカタカタと叩く。事務所のパソコンを呼び出し、そこから「金子 高久」についての記録ファイルを開いた。
「あった、これだ」
「・・・・」
塁に促され、雪は画面を食い入るように見つめる。そして、そこに書かれている情報を見て落胆した。
「・・・・くっそ・・・」
ぽつりと呟かれた雪の言葉に塁は苦笑いの表情を見せる。何で気がつかなかったのか。最初にキーワードを提示された時に気づかなければいけないはずの情報を、見逃していた。その事実に、雪は自分に腹を立てて拳を強く握る。
画面に映し出される情報は、全てを繋げた。彼の「記憶」の在処までは分からなかったが、これから何処に行くべきなのか・・・・その道を示しだしている。
「どうするの?」
塁が尋ねた。
「行くさ、今すぐにでも」
「まさか、一人で?」
「ああ」
行く場所は決まった。これからするべき事も行けば自然と分かるだろう。ならば、後はその場に赴くだけだった。
「一人は駄目だ!」
不意に塁が声を上げる。その眼は真剣で、有無を言わせない表情をしていた。雪は戸惑う。
「塁?」
その理由を問うように、塁の顔を覗き見る。一瞬合った目が逸らされた。
「いや・・・ほら、危ないしね」
何かを誤魔化すように、視線を泳がす。
(塁は秘密ばかりだ・・・)
雪は溜息をつくと、小さく頷いて見せた。
「分かった。一人じゃ行かないよ」
「ホント?!」
「ああ」
心底、ほっとした表情の塁に雪は意地悪げに笑い「一緒に行こうな、塁」と、塁の肩を軽く叩く。
「・・・・・?」
「一人じゃいけないんだろ?」
「ちょっと待っ」
「嬉しいな~、塁が一緒してくれるなんて」
「あの」
「ついでだから、Jも連れてこうな~?」
「だから・・・・」
塁に反論を許さず、雪は大きな声で呟いて見せる。そこに反論の余地はない。
大きく項垂れる塁を後目に、雪はにこにこと楽しそうに微笑んでいた。