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ノスタルジア管理局  作者: 彩人
序章~記憶の海
7/86

間章

「雪」

 不意に背後から呼び止められ、雪は振り返る。そこに居たのは・・・。

「要?」

 ノスタルジア管理事務所、及び管理局の最高責任者「要」、その男の姿があった。

「要、何でここに?」

「お前を呼びに来た」

「呼びに?」

「そうだ」

 要は端的に要件を告げる。唐突なその言葉に、雪の頭は追いつかず理解が出来ない。

「どうして?」

「・・・」

「要?」

「分からないか?」

 要は不意に真剣な表情になり、雪をきつく見つめた。雪はハッと何かに気づく。

「まさか・・・」

「・・・・」

 雪の呟きに、要は無言のまま首を縦に振る。何かが起ころうとしていた。



 一方、管理事務所内・茶色の部屋。

 Jは「金子 高久」と向き合う形に座っていた。目の前の老人は目を閉じ、俯いている。また眠ってしまったのだろうか。雪が部屋を去って5分、会話もなく時間だけが過ぎていく。

(俺も、この人と同じなんだな・・・)

 記憶をなくし、居場所を忘れ、「記憶管理局(ここ)」に留まっている。それを不安とか、淋しいと思っているわけじゃない。そうじゃないけど・・・。

「大切な人・・・居たのかな」

 一人や二人、家族だってそうだ・・・誰か、自分がいない事で泣いてくれる人がいるんだろうか。そんなことを思うと、チクリと胸が痛んだ。

「哀しいかい?」

「・・・!?」

 不意に声をかけられて、Jは顔を上げる。そこには老人の優しい眼差しがあった。

「哀しいのかい?」

 もう一度、老人に尋ねられJは瞬きをする。膝の上で手を組み、Jは俯いて応えた。

「分かんない・・・哀しくないと言えば嘘な気がするし。でも、何が哀しいのか、何で胸が痛いのか・・・・それが分かんないよ」

 昨日までは、こんなこと考えもしなかった。自分が「誰」とか、「家族」や「恋人」のこととか・・・悲しむ人がいるかもなんて。

「そうかい・・・それは淋しいなぁ」

「・・・淋しい?」

「大切な人が分からない。何が分からないのかも分からない・・・・それは「淋しい」ことじゃろう?」

 老人の言う事に、Jは目を丸くする。Jの感情は老人の言う孤立感・・・虚無感・・・確かにそんな感じに似ていた。

「そっか・・・俺、淋しいんだ」

 Jはようやく理解して、顔を上げると老人と目が合う。老人は目を細めて、

「・・・わしらは同じじゃよ」

と、呟いてくれた。何となく、心強かった。独りじゃないという事が、Jを安心させる。

「よ~し!爺ちゃん、俺必ず爺ちゃんを成仏させて見せるよ!」

「ふぉ?・・・おぅ」

 Jは燃えていた。



 その頃、管理事務所・廊下。

「要・・・俺、行けないよ」

「・・・どうしてだ」

「だって、俺」

 雪は俯いていた顔を上げると、力なくもう一度「俺、」と呟く。その手は胸のあたりを掴み、着ているベストを皺にする。服の上から、その先にある「何か」を掴み雪は黙り込む。

「今は、行けない」その言葉が頭の中を巡るのに、肝心の声が出ない。出てくれない。分かっている。要が言いたい事は、痛いほどよく分かっている。でも・・・。

「ごめん」

 なんとかその三文字だけを絞り出す。それ以上何も言えなかった。

 暫く沈黙が流れ、やがて要は「分かった」とだけ呟く。自然、要の口からため息が漏れ、辺りに解けて消えていく。雪はまだ要の顔を見れずにいた。足音が近づく。ゆっくりと影が雪のモノと重なり、タバコの匂いが一瞬鼻を掠める。次の瞬間、雪の肩にポンッと大きな手が触れた。

(カレ)を、頼んだぞ」

「・・・要」

「またな」

 要はそれだけ言うと、管理事務所の奥へと歩いていく。後には雪だけが取り残された。

「・・・ごめん。ごめん・・・・俺」

 雪は何度も「ごめん」を繰り返し、胸を、服の先にあるモノを掴んで目を閉じる。今は、行けない。でも、必ずいつか・・・そう心に決めて、大きく一つ深呼吸をする。

「よしっ」

 自分自身に気合を入れて、雪は今度こそ管理局に向かうべく走り出した。





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