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ノスタルジア管理局  作者: 彩人
孤独の音
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孤独の音《8-1》


 激しい風が吹き荒ぶ。

 暗い風景を埋め尽くすのは、一度は地に降りたはずの緑葉。力と力がぶつかり合い、辺りを一瞬のうちに拓かせては黒い筈の不浄の塊さえも打ち消して行く。これが、人ならざるモノ達の諍い…。


 次第に風が止む。

 忌むべき敵の姿をその眼に捕える事が出来なくなり、彼は解放していた力を留めた。葉がまるで雪の様にはらはらと音を立てて地に降る。その景色を無言で見つめる男が二人。


「――くそっ、逃げられたか」

「……」


 落ちる葉を右手で軽く掴み、それを悔し紛れに握りつぶす。クシャリと乾いた音をさせて地面に落ちる葉は、跡形もなく散り散りに砕けた。凌が一つ溜息を落とす。


「深追いはするな」

「分かってるよっ」

「……どちらにしろ、記憶の海(ここ)から出てしまえば俺達(・・)領域(テリトリー)には当てはまらない」

「……」

「あとは、奴らの問題だ」


 時間屋――彼らの領域は、この“記憶の海”と……そして。


 どこからか生温かく、優しい風が吹く。

 まるで無理矢理に力の影響を受け、消されてしまった負の感情(いのち)を愛しむかのように。慈しむように。

 スギは不意に空を見上げる。

 厚い雲に覆われた空の下に、今は眠ることしか出来ない負の感情たちが“浄化”の時を待ちわびて揺れていた。その景色は酷く寂しいものだった――。


                    *


一方、地上-――。

 二人は雪と別れ、郊外にある病院を目指していた。

 そこは、今回の依頼主である“福山悠里”の父方の実家がある場所で、この件に深く関わる人物のいる場所と思われた。電車を乗り継ぎ、ただ只管二本の足で確実に真実に辿りつこうとする。

 それが“地上方探索官”としてのイチの仕事だった――。


「イチさん、いつもこんな風に動いてるんですか?」

「……」

「あの…」

「そうだが、何か?」

「いえ」


 移動中、彼は無駄な事は一切話さずにただ眼を閉じ、時が目的の場所へと運んでくれるのを待つ。狭い車内の中では致し方ないと思いながら、電車を待つホームでもこの調子なのだ。さすがのJも、これではどう対応していいのか分からない。


――雪さんみたいに、もっと分かり易ければいいのに…。


 喜怒哀楽が表情に出やすい彼を思うと、自然と頬が緩む。

 それに引き換え彼――加藤一喜――といったら、年の割に落ち着き払ったその態度、見た目もさることながらちゃらちゃらとした若者らしい隙の一つもない。一言でいえば“無邪気さ”とは無縁の男と言ってもいいかもしれない。


――塁さんもだけど、イチさんも謎だよな…。


 Jと同じく現役の高校生ならば少しくらい共通点があっても良さそうなものなのだが、今のところその“共通点”とやらは見つけられそうにない。

 それどころが、一般的な世間話(・・・)とか会話(・・)事態が困難なのだ。雪がよくこの沈黙に耐えられたな…と、不思議に思ってしまう。


「次で降りるぞ」

「はっ、はいっ」

「……」


 不意に視線を感じ隣に座る男の方を恐る恐る見やる。


「ぁ…あの、何か?」

「……いや」


 訝し気にJの顔を見つめ、フイッと視線を逸らす。

 あからさまなその態度にJは戸惑う。どこか伐が悪そうに頬杖をついた掌で口元を覆った彼が、まるで一人言の様に呟く―――。


「―――えっ?」


 ぼそぼそと呟かれた言葉にJは慌てて聞き返す。だが、彼はそれ以上言葉を発することはなかった。

 電車が目的の駅に近づいたのだろう減速を始める車内で、Jはただ彼の言葉の真意を探す。

 ぽつり呟かれた言葉に、どのような意味があるのか―――Jはまだそれを知らない。

 その言葉の真意を本当の意味で知るのは、まだずっと先の事―――。


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