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ノスタルジア管理局  作者: 彩人
孤独の音
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孤独の音《6-3》


 沢山のモニターが並ぶ中央制御室内に、塁たちはいた。

 大小様々な画面と、それらを作動させるためのデスクが二つ。なんら普通のコンピューターと代わりの無いように見えるソレに、左右それぞれ時間屋の二人が座る。その動作が余りにも自然で、これが彼らにとっての日常(・・)なのだと気付く。カチッと電源を入れた画面から起動する鈍い音が聞こえ始める。

 不意にオレンジの保安灯だけ着いた薄暗い室内に灯りが点った――。


「綺麗ね――」

「……うん」


 キラキラと何かが光に反射して室内に舞っている。それがただの“埃”なのか、それとも別の何かなのかなんて確かめる術もないけれど、これはとても綺麗(・・)だと思った。

 カタカタと打ち込む文字の速度は速い。複数のモニターに浮かび上がる映像は様々で、けれども二人が見つめているモニターは一つ。場所、時間、出来事、人物、ソレに関わる全ての情報が廻る中で、目的の情報(もの)を確実に消化していく。そうして導き出された答えは――。


「在った」

「ビンゴ! こっちも捕えた」


 ほぼ同時に二人は声を上げる。その声に促される形で塁と心は画面を覗きこんだ。そこに映し出された情報(モノ)、それは…。


「――っ」

「…これって」


                       *

 一方、地上―――。

 三人は街の中を歩いていた。

 目的もなく人混みを流されているのではなく、しっかりとした目指す場所を持ち、その為に歩く。そこに楽し気な会話はなくて、あるのは難しい顔をした少女の憂い顔だけ…。


「……」

「――神谷?」


 不意に立ち止まり表情を曇らせた雪に気付いて、イチが振り返る。同じようにJも訝し気に足を止め二人を見た。


「どうしました、雪さん?」

「……」

「…雪さん?」


 Jの声さえも届いていないのだろうか…いや、どちらかと言うと自分の気がついてしまった出来事を、どう消化しようかと思い悩むように立ち止まり足元を見る。少し先を歩いていたイチも訝し気に歩みを戻すと雪の顔を覗きこみ、腕を掴んだ。その刹那。


「――イチっ」

「―――っ」

 

 掴むはずだった細い腕に、逆に自分の腕を掴まれている事にギョッとする。心なしか、いつものような軽い口調はなく、むしろ必死ささえ感じられた。そして――。


――俺は重大な事を見落としていたのか…?


 雪はもう一度自分に問いかける。

 あの時(・・・)襲いかかった黒い影と、少女の不可思議な行動。それらの意味を――。

 

――本当はあの場にもう一人(・・・・)居た?


 襲い来るのは言葉に言い表せられない不安。どうしてだろうか。今になって気付かされる第三者の存在に、雪の背を冷たい何かが走る。自分の小さな肩を抱いてその場に俯く少女の背に、イチは訝し気にその手を回した。微かに震えている――。


「神谷?――神谷、どうした?」


 雪の耳もとでイチの声が冷静に響く。

 それだけで温度が戻ってくる。低く落ち着いた声音は雪を決して貶めたりはしないもの。甘やかす事も、蔑むこともない存在。それが妙に心地よかった。


「――っ」

「…神谷?」

「…大丈夫。悪い」


 一つつめていた息を吐きだすと、雪はまだ落ち着かない胸の音を掴んでそれでも言葉を続ける。青ざめたままの顔色では“大丈夫”でないことは確かなのだが、イチはその言葉を受け取ると「行くぞ」と短く言い捨てて雪の傍を離れる。その様子に気がついて今度は入れ替わりにJが雪の肩を抱いた。不安そうに顔を顰めて雪のことを見ている眼と眼が合う。それが妙に腹立たしかった。彼は髪を乱暴に掻き上げると軽く舌打ちをしてJの手を払いのける。それが二人の距離を如実に表し、Jは傷付いたようにその手を引いて笑った。


「…行きましょう。雪さん」

「……ああ」


 イチから少し遅れて雪が歩く。そしてその後ろにJが続く。それ以上の会話はなかった。

  

                    *


 可能性を信じてみたいと思った。

 例えそれが苦しむだけの道だったとしても、進む事を止めたりは出来ない。ただ前に、前に進めるのならそれでいいとも思っていた。 

 簡単なことだ。諦めることなどいつでもできる。ただどちらかが崩れ落ちるまで、この腐ってしまった世界を見守ろうと―――。


 彼は光の閉ざされた場所で夢を見る。

 聞こえるのは遠き日の思い出(こえ)と、温かき水の湧き出る音。久しく夢に囚われることなどなかったと言うのに、今日はどうした訳か感傷的な気分を拭えないでいる。そこに言葉は届かない。声は水にのまれ沈んだ――。


 近くで安らかな寝息を立てる少年の存在を感じる。

 無垢な明るさと優しさを併せ持つ漆黒の髪の少年。あの日の自分と重なるのは重い荷物を背負わせてしまったからだろうか…。


「――ん」


 眠る身体に再び息吹が宿る。声が言葉に色と音を点す。消えてしまったはずの世界を、もう一度その手に抱く為に――。


「――雪―――」


 呟いた声に言葉を返す者はいない。

 不意に足音が近づけば、それがよく知るもののソレだと分かる。振り向く事もせずに溜息を吐けば、彼は気だるげな煙草の煙と共に言葉を吐きだす。


「よう――お目覚めか?」

「要――か」

(さとる)の身体が幼いからとはいえ、タイムリミットがある奴は大変だな」

「負荷をかけたくはない」

「知ってる」

  

 馬鹿にした風でもなくさも当たり前に会話を続けると、男は徐に一枚の紙切れを取り出す。それを受け取る事もしない少年の眼前につきつけると紙を開いて見せた。


「分かるか?」

「文字の一つも把握できないが?」

「あぁ…近すぎたか」


 慌てて顔から20センチ程離すと、諦めにもにた溜息が少年の口唇から零れる。それを物ともせずに男は屈みこんで同じ目線で紙の内容を見た。


「大体の予想はついている」

「あっそ」

(アレ)は、そろそろ気づいた頃合いか…」

「…そーだな」


 言葉少なに端的なやり取りをして、少年はもう一度溜息を吐くと不意に背後にあるモノ(・・)を見上げた。

 箱庭から見た世界に、夢と現世を浮かべながら――。


長らくお待たせしました<(_ _)>

ようやく「ノスタ」の更新です。 

おかげさまで不調を乗り切り、ちょっとずつではありますが執筆が進んできています。

今後の展開に突破口が開けたような気がします。


これからも執筆の方頑張りますので、感想・ご意見など何かございましたらご一報下さい。


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