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ノスタルジア管理局  作者: 彩人
孤独の音
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孤独の音《3-3》



 安らぎと云う“闇”の中、彼は過去の夢を見る。

 時折混じる血の紅は今もあの日のように鮮やかで、首に纏わりつく感触に息苦しさを思い出す。僕はこのまま死ぬ(・・)のだろうか――。


――モウ、オマエハシンデルヨ…。


 嘲笑う―自分の―声が耳元を掠め、目元を塞ぐのはソレ(・・)とは違う誰よりも低い体温を持つ、けれども誰よりも優しい人の手だ。

 だから――塁は漸く眼を開いた。


「戒人?」

「――」


 ふわり漂う白檀を背に感じ触れる掌をゆっくりと外す。空の青さに眼を細めれば覆い被さるその影はいつだって共にいたモノ。一人では生きられないと悟った時から、優しすぎる死神―戒人―と、憎しみに飲まれた人間―塁―は二人で一つの存在となった。そうしなければ二人とも互いの存在を残せなかったから…。


「キミは僕といて不幸じゃないかい?」


 哀しいような寂しいような眼をした塁を戒人はそっと見下ろす。その眼に宿す色は塁の記憶に残る―紅―と同じ色で、けれども塁はその色が嫌いじゃなかった。月読の民(・・・・)として人の死を狩り取る運命を背負って生まれた彼は、“心”を持つが為にこの世に存在した瞬間から異端として侮蔑され、その優しさ故に人の死を受け入れられなかったという。そして――。


――僕がキミの代りになるよ――


 それは心の底から生まれた“瑠衣”自身の願い。

 優しく傷付きやすい“戒人(かれ)”の代りに、自分がその“咎”と“役”を引き受ける――そしてこの瞬間から、言葉は“誓約(ちかい)”となり、彼は管理官だけではなく“案内人”としての生命を与えられた。戒人(・・)と共に生きる為に――。

 

――言葉は“鎖”になる。


 吹く風は戒人(カレ)の身体に阻まれ塁に届く事はない。高い空に手を伸ばして彼の顔を覆う黒布に触れると、不意に彼の肩が震えた。


「僕が怖い?」

「――」

「大丈夫…何もしないよ」


 わずかに瞳を逸らした戒人に塁は自嘲気味に笑うとそっとその布に手をかける。一思いにはぎ取れば露わになった鼻から口元、そして首筋に指を滑らせて怪しく自分の口唇を舐めて見せる――その指の先、肌の下に流れる“紅”の音を感じて…。


「――塁っ!」


 その刹那、ガタンッと大きな音と共に手首を掴まれる。陽光(ひかり)を背負う人物に怪訝そうに眉根を寄せて視線をやれば、そこにいるのは見慣れない少女――ソレが“雪”だと理解するのに、少しの時間を要した。


「雪…?」

「何してんだよっ、お前!」

「……」

「……」


 不機嫌を露わにした少女に、塁はただ茫洋とした瞳を向けて黙り込む。二人の視線が交錯し、一瞬にして冷たい風が二人の間に吹き込んだ。そして――。


「――――」


 大きな影が二人の上に被さると雪を引き離すように掴まれた手首に向けて戒人がその鎌を振り上げる。磨き抜かれた鎌はその刃を曇らすことなく陽光に怪しく煌めいて、一陣の風と共に雪――正しくは福山悠里、その少女――の手にピタリと当てられた。触れてはいないのに、その手首には紅い筋が浮かぶ。それでも雪はその手を離さなかった。


戒人(・・)――ソレをどけろ」

「――」


 低く呻る雪の表情は窺えない。

 塁は驚いたように眼を見張り、戒人は無言のまま上から二人を見下ろす。一触即発の空気が流れ、最初にその空気を壊したのは――塁だった。


「戒人、僕は平気だからっ…それをしまって!」


 我に返り掴まれていた手首よりも先に“戒人(カレ)”の鎌に触れる。見上げたその顔は、常になった黒布を纏い表情はない――“死神”としての彼がそこにはいた。一つ息を飲んで、もう一度彼の名を呼ぶ。その言葉に“霊力(ちから)”を込めて――。


戒人(・・)


 その声に彼の身体は揺らぎ、手にしていた鎌は霧のように掻き消える。まるで何かに縛られているかのように戒人は空中で動きを止めた。その姿を確認して雪はそっと塁の手を離す。


「雪、ごめんっ…ソレ」

「……いいよ、別に」


 離れた手を追いかけようとして触れる瞬間にその手を振り払われる。意図を持って逸らされた視線と、手首に走る紅い筋――見慣れないストレートの黒髪から見える表情は曇りがちで、伏せる瞳には睫毛の影が差していた。よく知る(カレ)のはずなのに、その憂う姿に塁の鼓動は高鳴る。不思議な感覚だった。


「それより――」

「…?」


 徐に自分の手首に浮かぶ紅い筋を舌でペロリと舐めると、雪は顔を上げずに塁に向き直る。その声は至極真剣なモノだ。


「お前――“血”が欲しいのか?」

「――っ」


 彼の言葉に鼓動は大きく脈打ち、言葉を発する事も出来ずに息を飲む。眼を逸らしてきた事をさらりと言い当てられ塁は動揺を隠せない。理性で留めていた“本能”が疼きだしている事も事実(・・)だった――。

 俯いた塁の頭上に諦めにも似た“溜息”が零れる――。

 それは紛れもなく雪のもので、彼が今どんな表情をしているのかも塁には分かってしまう…。だから余計に顔を上げる事が怖かった。


「とりあえず…もう少し我慢(・・)できるか?」

「――っ??」


 彼の言葉に驚いて顔を上げれば、そこに待っていたのは曖昧に笑う雪の顔。哀しいような、困ったような、そんな複雑が詰まった笑顔がそこにはあった。そして―。


「俺が自分の身体に戻ったら(・・・・)、提供してやれるから…」

「雪…」

「さすがに、この身体じゃまずい(・・・)だろ?」

「―――」


 冗談めいた言葉に塁も自然眼を細める。

 その眼に、もう“紅”は見えなかった――。


謎と傷を抱える男―――塁。

その眼に浮かぶのは紅、そして一人では生きられない戒人と塁は一つになる。

謎起き「塁過去編」更新です。


☆こんばんわ~^^

夜勤明けの変なテンション、すみませんっ!

とりあえず話が大きく横道にそれながらの更新です(゜-゜)

このままなんとかなるんだろうか??←


そんな感じで続きます☆


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