孤独の音《3-1》
★☆ノスタルジア管理局☆一周年記念☆★
無事に一周年を迎えました^^
読んで下さった方、お気に入りに入れて下さった方、本当にありがとうございます><
これからも頑張りますのでヨロシクお願いします☆
(イラストは「みてみん」で頂いたバトン用のものです^^)
未来が分かれば、人は間違いを犯すことなく生きられるのだろうか。過去と未来と現在の狭間で、彼はただ人の中に生き、時間の中に眠る。沢山の感情と、沢山の思いと、沢山の…。
時折聞こえるのは“彼”の声で、その声はいつだって必死に“答え”を探そうとしている。傷付き倒れ、くじけそうになる心を叱咤して彼は進む。だから、叶わない事を願ってしまう――彼なら、救うことができるのではないかと――。
水の中―正確には水の様な空間の狭間―に雪は浮かんでいた。
この景色はもう何度見ただろう…無意識の世界で繋がる人の意思――記憶の海――に、彼はその身を委ねる。先程まで身体のうちで渦巻いていた感情たちは今は鳴りを潜め、辺りは静寂に包まれていた。聞こえる音は全て幻――この場所が持つ記憶と、彼の中に眠る過去の記憶が混ざり合い造りだされる音に過ぎない。それでも、その声に胸が痛んだ。
――今は――眠れ。
哀しい記憶に立ち止まる暇はない。感傷に浸る時間も――。
浮かぶ気泡は触れば簡単に弾け消え、そこに痕は残らない。移り変わる気泡に映る仲間たちの顔を見上げ、雪は一人呟く――ごめん――と…。
*
「雪が戻ってこないって!?」
その知らせが彼らに届いたのは陽が天高く上った真昼のことだった。塁と雪、二人が依頼人と会う予定になっていた紫色のドアの室内には横たわる二つの躯。髪の長い少女―福山悠里―と、そして管理官―神谷 雪―は、その手を重ねるように触れ合わせ床に伏せている。誰がみても異様なその光景に、塁からの知らせを聞いた雀と狐は入口にただ立ち尽くした。
「――っだよ、これっ…」
「何が起きたの?」
二人の言葉に、塁はただ静かに眼を伏せ頭を振る。
二人の質問に答えたくとも答えようがない。それが“答え”だ。塁にもあの僅かな瞬間に何が起こったのかなど知る由がなかった。
ただ分かる事は、コレが非常事態であり、彼自身にも予想外の展開だと言うこと。そうでなければその意識の断片さえ、彼の心さえも感じられなくなるほど深く意識を落とすことなどあり得る筈がない。それが管理官としての“神谷 雪”だから――。
――雪、何が起きた…。
苦い気持ちで奥歯を噛みしめれば、少し軋んだ音がする。知らず握った拳には爪が食い込み紅い筋を作るが、それでも彼は懸命にこの場で起こった“何か”を探そうとしていた。その時――。
コンッ
軽く渇いた音がドアをノックする。
その音に三人は振り返り、一つ息を飲んだ――最高責任者・要――がそこにいたから…。
「よう。事情を説明しろや」
「――要さん…」
くわえ煙草に手を添えて、長い黒髪の間から光る鋭い眼差しは何処か億劫そうにさえ見える。はだけた黒いシャツから覗く鎖骨に長い手足がゆっくりと前髪を掻き上げもたれていたドアが小さく軋んだ音を立てれば、革靴の小気味よい音を響かせ彼は室内の中央、二人の少女が横たわる場所へと歩みを進めた。そして――。
「これはどういうことだ…塁」
静かに屈み雪の人形の様な顔を見つめる。頬にかかった銀髪を払い、その頬に触れても、いつもなら機嫌悪く振り払う手もなければ、睨みつけてくる勝気な瞳さえも今は見えない。あるのは静電気のようなチリっとした痛みだけ…。
「数刻前―。
私と、雪は依頼人である少女―福山悠里―と接触を測りました。ご存知の通り、この部屋で」
言い淀んでしまうのはそこにある罪悪感と、僅かな後ろめたさのせいだろうか。本来ならば立ち会うべき自分が席を外したこと、彼に必要最小限の情報しか与えなかったこと、そして――。
――これを招いたのは、自分だ。
本当は傍に居たくなかった。
依頼人である彼女の境遇は、その記憶は、あまりにも自分の過去を思い出させるから。
哀しくも愛しい女性に良く似ている――から。だから眼を逸らした。
――これがその報いか…。
守らなければいけないのは“過去”じゃない。それも遙か昔に置いてきたような郷愁に振り回されていいようなものじゃないのに、それでも雪よりも過去の人を知らず選んでしまった。
「続きを話せ、案内人」
「――っ」
冷たい蔑みの視線を向けられ塁の身体が強張る。感傷に浸る暇などない。今は、目の前の状況を打開する時だ。
――成すべき事を成せ。
自分に言い聞かせて彼は一つ息を吐く。その眼に迷いはなかった。
「少女の精神的な面から、自分が立ち合うのは逆効果だと判断し管理官・雪にこの場を委ねました」
「…なら、お前の判断は誤りだったということだな――」
「――っ」
その言葉に返す言葉が見つからない。
彼の言うことが正しい。これは単純に案内人としての自分の判断ミスだ。だから余計に苦しい。そして何よりも腹立たしかった。
「まぁいいさ」
ぽつり頭上に降る声は怒りとも呆れともとれる響きを纏い、それでも頭に乗せられた掌は優しかった。そして…。
「今はこの馬鹿を、呼び戻す事の方が先決だ」
「出来るんですかっ―!?」
「??」
「私も試みましたが、完全に彼の意識が沈んでるんですよ!?」
驚いて上げた顔の先には、悪戯っぽく笑う男の顔。自分よりも大人で、感情の読めない――不敵な――男は、煙草を静かに灰皿に押しつけると雪ではなく依頼人である少女の傍らに膝をついてその顔を覗きこんだ。重なる二人の手に自分の手を乗せる。そして――。
「汝、この言霊に宿りし誓いを違えぬ者。時の狭間に眠りし者に通じる者。来る時に返し鍵を持ちて、その心に交わる者。忘れし名を求めて止まぬ汝の名は――」
伏せた眼に言霊は集まり、自然に溶ける。その表情を窺い見ることは出来ないが、その口元が声を持たず動くのを塁は感じた。視界には何も変わらないのに、確かにそこの空気だけが異質なものへと変化し影を揺らす。少女の身体が僅かに光り、その長い髪を揺らして身体を起こした。
「――っ…?」
気だるそうに重い身体を起こして、少女は短いスカートの事など気にも留めずに胡坐をかく…そして億劫そうに顔にかかる髪を掻きあげて短い息を吐いた…。
「よう…お目覚めか?」
「…あぁ」
がしがしと頭を掻き彼女は頬杖をつく。先程までとは正反対のがさつな態度に塁は眼を瞬いた。何が起こっているというのだろうか。
「あのっ」
「あ??」
「一体、どういうことですか?」
困ったように眉を顰める彼に、要と少女は顔を見合わせる。互いに視線を交わし出た結論は簡単な物だった。
少女が面倒そうにその事実を告げる――自分が“雪”なのだと…。
「――っまさか!?」
「っんなこと言ったって、本当なんだから仕方ねえだろ?」
「どうして…?」
混乱する頭に、黙り込む雀と狐。
当の本人である雪の身体は依然そこに横たわったままで、何も変わることなく人形のように眠っている。この事態を疑いもせず受け入れられるほど、彼らは浅はかではない。だが…。
「信じられないって顔だな。じゃあ」
「――なっ……触るな変態!」
「――っ!?」
不意に伸びた手が少女の頬に触れると、少女はその手が触れるか触れないかの処で勢いよくその手を振り払う。向けられた視線と、その反射神経の良さ、そして何より少女には見られなかった悪態が、彼女の“中身”が“雪”なのだと教えてくれた――。
三人は息を飲むと、その緊張を解いた。そこにいる人物が誰であろうと、中身が彼ならばその原因を探らなければならないのだ。
「どういうこと?」
「何でお前…」
雀と狐が近づいて変わり果てた彼の身体を凝視する。
面白そうに長い髪を引っ張る雀を睨みつけ、またスカートについた埃を優しく払う狐に照れ笑いを浮かべると、その眼は自然塁を捉えた。
「塁、心配かけた」
「……いや」
「上手く説明できないんだけど。とりあえず、俺の中には彼女が居るはずなんだ」
「…?」
「原因は分からないけど…俺達、入れ替わった」
その言葉は、確かに何かの“始まり”を告げていた――。
年明け最初のノスタルジア更新です^^;
随分時間がかかりましたが、その分じっくり書いたかと聞かれるとそんな事はありません(-_-;)
…いつも通り、思いつくままに文章を打っております(゜-゜)♪
こちらも一周年!
昨年中に第二章に入れてホッとしている作者ですが、ノスタルジアはまだまだ続きます^^;
新キャラも考案したいし…。
今まで通り今年もマイペースに更新しますので、本年も宜しくお願い致します。