表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ノスタルジア管理局  作者: 彩人
水底の涙
35/86

おまけ「水底の涙」――後日談??--

 彼はそこに立ち尽くしていた。

 彷徨える魂“J”こと“瀬名 淳一”の身体が消え、無事に身体へと辿りつくまで…その身体(たましい)を抱いて。


「神谷、無事に彼は目覚めたようだ」

「…そう…か」


 様子を見に行ってくれていたイチの言葉に頷くと、雪は保っていた意識を手放す。身体も心も限界を訴えていた。


「神谷っ!?」


 いつになく慌てたような彼の声を聞きながら、雪は暗い闇の淵へと沈んで行った。


                    *


 ―後日、管理事務所内・管理局。

 

「まったく、ほんとに無茶するよね」

「……悪かった」

「謝って済む問題!?」

「……」


 常になりつつある塁のお説教を受けながら、雪は身体を起こさず視線を外へと向ける。もっとも、起こさないのではなく、起こせない(・・・・・)の間違いだが。

 今回の賭けで雪が背負ったモノは大きかった。

 地上と“記憶の海”を無理矢理繋いだせいで、その身体には殆ど霊力(ちから)が残ってなく、その上、いくら“塁”のサポートがあったからと“契約解除”なんてものまで行った。その代償は大きい。大きいのに…。


「大体、君がそこまでする必要があった!?」

「……そこまでって…」


 気まずそうに逸らした視線で言い訳がましく呟けば、彼の冷たい視線が返ってくる。皆まで言わなくとも、“(カレ)”が怒っている事は分かっていた。


「僕が気づいて(・・・・)ないとでも?」

「―っ」


 不意に詰められた距離に、雪は身を固くする。

 狭いベットを軋ませて、上から覆いかぶさるように見下ろされれば嫌でも意識させられる。例えにこにこ微笑んでいても、髪が長くとも…彼は“男”なのだ。

 文字通り“息がかかりそうな”くらい近くにくると、その眼がスッと眇められる。常にはない冷たい雰囲気を纏い、塁はそっと雪の耳元で低く呟いた。


「彼の記憶をどうしたの?」

「……どう…も」

「本当に?」

「―っつ」


 弱い耳元に息を吹きかけられ、雪は絶句する。

 身体の自由が利かない人間をこんな風に扱うなど、きっと普段の塁からは想像も出来ないだろう。


―これが、こいつの正体だよっ。


 焦る心で悪態をつけば、それを見射ぬいたように塁が酷薄な笑みを浮かべる。その笑顔が恐ろしかった。


「まぁ、いいさ。苦しむのは()だからね―雪」


 スッと頬を一撫でしてから彼は身体を離す。そのことに思わず安堵の息をつけば、塁の表情が苦く染まった。


「これでも心配(・・)してるんだよ?」

「…知ってる」


 彼はいつだって“仲間(ひと)”を思う。

 それを否定する気はない。それでも。


「間違った事をしたなんて、思ってないよ。俺」


 真っ直ぐに塁を見つめ雪は言葉をぶつける。

 そこに“揺らぎ”は感じられなかった。


―成すべきことをしてきたんだね…君は。


 諦めにも似た溜息を吐いて塁は立ち上がる。そのまま“お大事に”と軽く言葉を残して彼は部屋を後にした。


 一人残された雪は、ただ雲ひとつない青く高い空を見つめていた―――。


――水底の涙・完――


「水底の涙」はこれで本当に終わりです^^

ココまで読んで下さった方に敬意と感謝を☆


次回からは新シリーズ「孤独の音」をお届けします。

☆「孤独の音」予告☆


挿絵(By みてみん)


 Jが「記憶管理事務所」を去って数日。

 管理局は何事もなく平和に過ぎていた。依頼や迷子は度々訪れるが、それはいつもの事。振り分けられた担当によって確実に仕事をこなし、その魂をあるべき道へと還す…。

 これはそんな、静かな日々が続いたある日の出来事。


 どうしようもなく自分が嫌で、自分以外も、世界も、何もかもを憎んだあの時。憎悪の淵で違う存在に変わろうとしていた僕を見つけて手を差し伸べた――。


 僕を救ってくれたのは、()だったんだ--。



☆こんな感じです(笑)

 メインは”塁”になります。

 残念ながら「J」は登場しません←多分(゜-゜)

 それでも「仕方ないから、見てやるよ!」って方、お待ちしています♪

 それでは、次回は「孤独の音」でお会いしましょう^^☆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ