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ノスタルジア管理局  作者: 彩人
水底の涙
24/86

水底の涙・2


 賭けをした。

 自分の記憶を使って。

 でもこの賭けは狡だと思った。

 だって…俺の記憶は――記憶の隠し場所を俺は知っているから。


 

 ノスタルジア管理事務所内、管理局。

 定位置(コピー機)に彼はいた。

「調子はどう?」

 不意に後ろから声を掛けられJは振り返る。そこにはいつもと変わらない塁の姿があった。

「塁さん…」

「賭けのこと、聞いたよ」

 苦笑いを浮かべ溜息をつく彼は、どこか疲れているようにも見える。

 定位置で書類のコピーを取りながらJは塁から視線を逸らし、

「ははは…」

 と、ワザとらしい乾いた笑いを浮かべてはみたが、Jはふと気になっていた事を尋ねることにした。

「塁さん、“記憶”ってどうやって探すんですか?」

 ここに来てから気になっていた事。

 前回の依頼人「金子高久」氏の時には雪が一人で事務所へと戻ったため、彼はその方法を知らない。

 おおまかに“記憶の海(うみ)”の『中央管理局』で検索することが出来ると教えてもらったものの、実際に中には立ち入らせてくれなかった。

「う~ん」

 Jの質問に塁は困ったように微笑むと腕を組んで壁に寄りかかり、考える仕草をする。どう答えればいいものか…そう悩んでいるようにも見えた。

「塁さん…?」

「…それは今でなければいけない?」

「えっ?」

 唐突に真剣な眼を向けられJは怯む。その眼差しの奥に広がる何かが、Jに警鐘を鳴らしていく。

「君はまだ、正式では無いから」

「…あっ」

「残念だけど、()は教えられない」

 目の前で開いていた扉が一瞬にして閉ざされたような疎外感。

 “仲間”になれたと思っていたのに…俺は未だに記憶を失くした“哀れな少年(お客様)”のまま。その事実が酷く哀しくさせる。


―俺は“仲間”にはなれないのかな…。


 そんなこと、聞く事も出来ずにJは俯く。頭上で塁の困ったように笑う息遣いが触れた。

 そっと頭に塁の指が触れ、Jはその顔を上げる。そこには塁の慈愛に満ちた微笑みが待っていた。

「そんな表情(かお)をしないで、J」

「……」

「君を仲間だと思っていないわけじゃないんだ」

 慰めるように降る、塁の言葉。まるで何かの呪文みたいに彼は言葉を紡ぐ…。

「ただ、僕たちは“不自由”だから…」

 静かに塁が空を仰ぐ。コンクリートで囲われた部屋の先にあるであろう“空”を。

「…君は、何も知らない方がいい」

 もう一度真っ直ぐな視線がJへと向けられる。

「“閻魔庁(こんなとこ)”に縛られてはいけないよ」

 茫然と立ち尽くすJに、塁は小声で耳打ちする―“キミは飛べるから”―と。

「塁さん??」

 その言葉の意味を問おうとしたが、その口は塁がたてた一本の指によって塞がれた―咎めるように塁が笑う。

 “聞いてはいけない”

 無言の圧力にJは背筋が冷たくなるのを感じた。

「……」

「じゃあ、頑張ってね」

 塁は黙り込んだJにいつものように笑みを向けるとポンッと肩を軽く叩いて歩き出す。不意にJの腕が塁の細い手首を掴んだ。

「塁さん、俺」

「どうしたの、J?」

 予想外に冷たい塁の視線にJは固まる。二の句が告げなくなりそうだ。

「あの…そういえば、雪さんが何処にいるのか知りませんか?」

 恐る恐る聞けたのは変哲もない事…。自分が情けない…。

 だが、雪の事が気がかりなのも本当だ。普段なら局内にいる騒がしく小さな彼を、今日は朝から見ていない。何処となく局内も静かに思える。

 Jの間抜けな質問に塁は拍子抜けしたように眼を見開くと、ニコッと笑う。

「雪は~…多分、()のところかな」

 塁の言う“彼”が誰の事をさしているのかは分からない。けれども、それ以上聞いてはいけないような気がした。直感的に…。

「そう…ですか」

「うん?」

「……」

今度(・・)は聞かないんだね」

 揶揄するように塁がクスクスと笑う。

「だってっ!」

 耳まで赤くしたJの顔を見て、塁が楽しそうに笑いを堪える。Jはフイッとそっぽを向いた。


―塁さん、性格悪い…。


「ごめんね、イジメすぎたかな」

 涙をうっすら目元にため、ようやく笑い終えた彼は少し考えてからJへと近づき口を開く。

「雪のことを知りたければ、“賭け”に勝って…それが“彼女”を救う事になるかも知れないよ」

 耳打ちされたのは意外な言葉。

 分からない事ばかりを言う塁に、Jの眉根は次第に寄せられ怪訝な表情を浮かべる。それでも塁は説明の一つもせずにただ微笑んでいた。

「そうそう、雪が戻ったら“誓約”を行うから…」

「誓約?」

「うん」

 塁はそっと目を伏せ頷く。Jは次の言葉を待った。

「僕らには、それが必要だから…」

「…?」

 意地悪なこの人は、やはり説明責任は果たしてくれないらしい…。

 不満そうな視線を向けては見たものの“じゃあね”と軽く笑い返されては、それ以上の追及など望めなかった。


―大概、謎だらけなんだよな…。


 普段は優しく穏やかな色しか見せない“(かれ)”が、本当は一番“意地悪”で謎なんじゃないかと、Jは思う。後には微かな花の香りが残されていた…。


こんにちわ^^

前回の「水底の涙-塁-」を1と考えて、今回のが2になります!


今回のお話は、塁の本性が垣間見えた感じかと…^^;

謎だらけの彼らです。もう暫くお付き合いくださいorz

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