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ノスタルジア管理局  作者: 彩人
序章~記憶の海
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記憶の海・5

ドームの表面に右手を当てて、雪は静かに目を閉じる。

 掌の中には「Ray」と書かれたプレートが握られ、丁度ガラスの表面にその文字が映っていた。


(動作始動…キー確認…暗証番号(ナンバー)解除…)


 言葉に比例するように頭の中でキィィィンと音が響き、同時に映像が網膜を通して頭の中に映し出される。次から次へと現れては消え、消えては現れ…。その無数の映像の中から雪は目当ての映像(もの)を見つけた。


(ロック)、解除」


 途端に映像がかき消える。辺りは静けさを取り戻した。

 小さく溜息をつくと、雪は手にしていたプレートを首に戻す。きちんとボタンを止めると、何もなかった筈のガラスに目をやった。そこには先程まではなかった「扉」と「ドアノブ」がある。ドアを開け彼は中に入った。


 辺り一面が電子画面に覆われた暗い部屋。雀なら喜んでここに入り浸る事だろう。吐き気がする。

 とりあえずメイン画面の前まで行くと、雪はスイッチを入れ手繰り寄せた椅子に乱暴に腰掛けた。

 不意に走り去っていったJのことを思い出す。投げ捨てられた言葉も…。


 ━あーーーー、そうですか!!わかりました!━


 ━もう、勝手にして下さい!!……そんなに一人が良いなら、どこへでも一人で行けばいいでしょう!!━


 傷ついたような怒った表情が浮かぶ…それを打ち消すように頭をガリガリと掻き毟ると、クソッと短く悪態をついた。言葉が頭から離れない。


 ━俺は知りません!……貴方なんか…雪なんか知るか!!!━


 初めて面と向かってぶつけられた言葉、感情。あんな風に気持ちを露にすることもあるのか、なんて場違いな事を考えて自嘲の笑みを漏らす。そんな事を思いながらいると、ピピッと電子音が何かを告げる。それは誰かからの連絡だった。


「記憶管理局、空移管・雪」

 まるで義務の様な挨拶を口にする。相手は分かり切っている、雀だ。

『ついたか~?』

 気の抜けたやる気の無い声が返ってくる。ホントにこいつは…。

「ああ、そっちは?」

『イチには話を通したぞ』

 淡々と会話は続く。その間にも、雪はメインコンピューターに「金子 高久」氏のキーワードを打ち込む。

(「大きな木」、「祠」、「火の神様」・・・「整理された道」・・・)

 大方の事は分かっている。彼の生まれた土地、育った場所、現住所…これらから絞り込み、その上で手掛かりになる言葉(キーワード)を並べていった。

「イチは動けるって?」

『急すぎるからな~…まぁ、渋ってはいたけど塁からのお願い(・・・)は断れないだろ』

 悪戯をしかけた子供のように楽しそうに笑う電話越しの雀。内心、イチに悪いことをした…と少しばかり良心が痛む。確かに彼は塁からの『お願い』ならば断れないだろう。

「お前、悪どいな」

 思った事を正直に口にしてみる。もっとも、相手が(こいつ)だからこそ出来ることだが…。

『まあな~』

 予想通りの悪びれた様子を微塵も見せない返答。雪は皮肉の笑みを浮かべると、唐突に話題を切り換えた。

「…Jと離れた」

 その言葉に、電話越しから『はぁ~??』と呆れた声が聞こえる。

『なんで、また』

 興味も薄そうに聞き返す雀は、電話越しでカタカタとキーボードを叩いているようだ。何かを調べているのだろうか。

「…ちょっと、さ」

 Jを怒らせた…なんて言えなくて、言いたくなくて、雪は曖昧に言葉を濁すとメイン画面に映し出される情報に目をやった。どうやらキーワードの検索が終わったらしい。

『ふ~ん…まぁ、いいけどね。お前が良いんなら』

「深く関わられても面倒だろ…」

 お互い違う事をしながらの会話。そこに意味はないのだが、今無性に誰かと話がしたかった。

『…っと、あったぞ』

 急激に会話を切る雀。それとほぼ同時に、雪もあるモノを見つける。

「…こっちもだ」

 二人の導きだしたモノが「一つ」に繋がった。

 見つからなかったパズルのピースが浮かび上がる。

 「金子 高久」氏の心残りの「在り処」も…。

『イチにも連絡しとく』

「ああ、頼んだ」

『そっちは一人で大丈夫か??』

「…厄介なことになってなきゃな」

『厄介なことになってるだろ~…これ。応援頼んどこか?』

 またも冗談めいた楽し気な口調の雀に、雪は表情を引きつらせて苦笑いを見せた。

「楽しそうじゃねえか…」

『そ、そんなことある…わけないだろ』

 表情は見えないが、きっと緩んでいるに違いない。雪は心の中で「後で覚えてろよ…」と毒づくと、メイン画面の情報を腕時計に打ち込む。管理局「空間移動管理官」にのみ与えられた特殊な七つ道具の一つである時計(それ)は、人体の生命探知から情報のメモ、座標の記録に至るまで必要な行動動作がこれ一つで行える便利なモノとなっていた。

「とにかく、今から向かうから…」

命綱(・・)、ちゃんとスイッチいれとけよ~』

「……」

 何故だか癪に障る物言いに感じたが、これ以上こいつとじゃれている暇はない。短く返事を返すと、時計の「人体生命探知」機能のスイッチをオンにして確認する。

「入れた…じゃあな」

『りょ~かい。健闘を祈る』

 通信が途絶えた。

 その場は機械の動く音に満たされ、辺りは薄暗い表情を取り戻していく。

 そっと、左足・太もも辺りをズボンの上から触る。ゴツッとした堅い棒状のものが布の上からでも確認出来た。

「…行くか」

 小さく溜息をついてから、雪は歩き出す。

 出来ることなら、何も起こらなければ良い…そう願ってしまう自分を押しとどめ、気を引き締めると目的の場所へと向かった…。


 一人、記憶の海の奥深くへと、足を踏み入れて行った…。



 

 

 



 

 

雪サイドのお話になります。

大分確信に迫って来たかと…(・_・;)


次回はJサイドになります。

新キャラ登場の予感です(笑)


そう言えば…「イチ」の説明なんも入れてあげてなかった…。

次回は21日の水曜日までに更新しますので、宜しくお願いします☆

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