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ノスタルジア管理局  作者: 彩人
序章~記憶の海
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記憶の海・4


「着いたぞ。…ここが『中央管理局』だ」


 生い茂る森の中を歩くこと10分。ようやく開けた場所へと出る。

 そこには、大きなガラス張りの不思議なドームが建っていた。


「な…なんですか、コレ」


 その建物を茫然と見つめるJをよそに雪はすたすたと前を歩いていく。またもや彼の質問は右から左へと(スルー)されてしまったようだ。

 内心、肩を落としながらもそろそろこの扱いにも慣れてきていた。

 Jはすぐに気持ちを切り替えて雪の元へと走る。

「雪さ~ん、待って下さいよ~!」

 その後ろ姿は、尻尾を振った柴犬に見えた。



 ドームの表面に触れるほど、近くに来た。

 雪は無言のまま、左手をドームの表面に当ててその周りを歩いていく。何かを探しているようにも見えた。

(何してるんだろ…)

 その後ろをふらふらとついて歩くJの前には、あの小さな少女の姿がある。この子も不思議な存在だと思う。一体何者なんだろうか…。


「あった」

「え?」

 目の前を歩く少女の事を考えていたら、不意に雪が声を上げる。Jは短く驚きの声を漏らしていた。

「何だよ?」

 その声に気づいて、彼は怪訝な表情でJの事を見つめる。Jは何も言えずに首を振っては下を向いてしまった。頭上から微かな彼の溜息が聞こえると、今度はごそごそと何かが動く。

「何してるんです…?」

 気になって顔を上げてみれば、彼が何やら襟元を開けて服の中に手を突っ込んでいる姿があった。

 何がしたいのか、毛頭分からない…。謎だ。

「取れないんだよ…引っかかってて」

 何が取れないのかは分からないが、彼はしきりにごそごそ器用に手を動かして足掻いている。ただ見ているのも気が引けるが、同性とはいえ人の服の中に手を入れるのも躊躇われた。

(無駄に可愛いんだもんな……雪さん(この人)

 

 小さな顔、白い肌、さらさらの髪…この乱暴な言動と、行動さえなければ「儚げな美少年」でも通用するだろう…なんて惜しい事を。Jは内心ちょっと残念な気持ちになった。

「…っと。取れた!」

 そうこうしている内に、彼は目的のモノを手にできたようだ。その手の中には小さなシルバーのペンダントトップが握られている。ネームプレートの様な板状の形をしていたそれは、よく見れば文字が刻まれていた。…「Ray」と。

(「Ray」?……らい?…いや、「レイ」か。光?)

 その単語に微かに目を凝らし、意味を模索する。直訳するなら「光、光線」などが正しいのだろう。

 思いを巡らせて、彼を見る。彼もその様子に気がついたように、ふっと視線を外すとドームへと視線を向けた。

「さて…入るか」

 雪が呟く。その手には「Ray」と書かれたプレートが握られている。

「ここは何をする処ですか?」

 思いきってJは尋ねる。勿論答えが返ってくるなどと期待をしている訳ではない。でも。

「ここはこのセカイの制御装置プラス検索機械みたいなもんなんだよ。これで、あの『金子 高久』氏のキーワードを当てはめて検索にかける」

 予想外に雪は親切にも答えてくれた。拍子抜けしてしまう。

 茫然とした表情で見つめているJに気づいて、雪も伐が悪そうに頭を掻くと更に説明を始めた。

「だからだな…記憶ってのは2種類あって、『物に宿る』記憶と『人に宿る』記憶ってのがあるんだよ」

 めんどくさそうに話しだす彼の眉根は寄せられている。正直に、彼は「説明」が得意なタイプではないのだろう。もっと、「塁」さんとかの方が向いている気がする。

(…新鮮だけど………すごく…分かりづら)

 必死で説明してくれているのは分かる。その気持ちも嬉しい。でも、お世辞にも「分かった」とは言えない彼の説明は聞いてるうちに余計分からなくなってきた。

(これじゃ、聞いても答えてくれない訳だ……下手だもんな…)

 何が分からないのかも分からない。そう言いたくなるような「説明」だった。


「だぁぁぁぁぁぁ…とにかく(・・・・)だ!」

 そんな「分かりづらい説明」をようやく終え、彼は今までの鬱憤を晴らすかのように雄叫びをあげる。ラヴィはいつのの間にかドームにもたれ小さく寝息を立てていた。

(あ~…長かったもんね)

 Jは苦笑いでその様子を見ると、視線を雪へと戻す。彼は思案顔でその場に立ち尽くしていた。

「……」

 彼が口を開くのを待つように、Jも無言になる。そして。

「J!」

「はいっ」

 急に名前を呼ばれ、Jも勢いよくそれに反応する。真っ直ぐに視線がぶつかり、彼は口を開いた。

「お前はここにいろ」

「はっ??」

「ここに残れ」

 突然の「戦力外通告」にJは戸惑う。何を言い出したのだろうか。そんな顔で雪の言葉を待った。

「ラヴィもいるし、今のお前はココには入れない」

 雪は至極真剣な眼差しでそう言う。そこには「入れない」ではなくて「入らせたくない」という拒絶の匂いが漂っていた。

「何でですか!?」

 Jも食い下がらず、噛みつく。犬だってたまには逆らうのだ。

 Jの言葉を予想していなかったのか、彼は少し目を見開いてから、フッと目を閉じ更に黙る。

「……」

「……」

 お互いに黙り込んでいると、雪が小さく息を吐くのが分かった。そして次の瞬間。

「足手まといだから」

 確かに彼はそう言った。言ってはいけない一言をJにつきつけていた。一瞬時が止まる。

 

 プツンッ

 何かが切れた音がして、突如Jが………キレた。

「あーーーー、そうですか!!わかりました!」

「ジェ…J?」

 驚いた雪が、窺うように声をかけるが、最早それどころではない。

 激昂したJに言葉が通じる訳もなく、彼の言葉は止まることを知らず続く。

「もう、勝手にして下さい!!……そんなに一人が良いなら、どこへでも一人で行けばいいでしょう!!」

「……」

 雪はただ黙って俯いていた。

「俺は知りません!……貴方なんか…雪なんか知るか!!!」

 最後の方は怒りに任せた思ってもいない言葉だったのかもしれない…。Jはそこまで言い終えてようやく顔を上げると、目の前の雪を見る。

 彼はただ俯き、何も言わなかった。

「…っつ」

 それが余計に辛くて、Jはその場から走り出す。

 二人の道は、完全に分かれていた…。


「……だから」

 誰もいなくなったその場に、雪は一人佇む。

 ラヴィがいつの間にか居なくなっていたから、多分Jの事を追ってくれたんだろう。その事にただ胸を撫で下ろした。

 記憶の海(こんなところ)で迷子になるのは、やっぱり辛いから…。

 居なくなったJの身を案じて、雪は手にしたプレートの文字を指でなぞる。

「Ray…もう少し、もう少しだけ待っててくれ…」


 その呟きは、風にかき消されていった…。

 

中央管理局に辿り着いた三人。

ところが思いがけない雪の一言で、三人は離れてしまう。


Jは何処に行ったのか?

果たして雪のもつプレートとは??

次回を、お待ちください。

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