記憶の海・3
三人はその後、黙々と生い茂る森の中を突き進む。
Jは前を行く雪の後ろ姿をちらちら覗いては見るが、振り向いてくれる様子はない。その隣を歩く小さな少女━ラヴィ━も雪同様だ。
(仕方ない…か)
Jは小さく首を傾げて息をつくと、何を話しかける訳でもなく大人しく訳の分からない森の中を歩いた。
『中央』とは、どんな所なのだろうか。
雪は何も答えてくれなかったが、何となくあまり良い感じがしない。そうJの直感が告げている。
胸騒ぎを覚えるような、感覚が、全神経が泡立つ感じ。
(あんまりココには長居したくないな・・・)
重い気持ちを引きずって、Jは歩く。ただ只管前を行く彼に追いつくように。そして・・・。
「うわっ」
下を向いて歩いていたせいで、急に立ち止まった雪に気づかずぶつかってしまう。ゴンッと鈍い音が辺りに響いた。
「…ってーな」
思い切り頭突きをされて雪は恨めしそうにJを振り返る。先程まではJの視線に気づかぬふりを決め込んでいたくせに、こんな時だけ素早い・・・。
「す、すいません」
Jもぶつけた頭を手で押さえ、ただ平謝りに徹した。下手に言い訳をする方が事が大きくなるからである。
「ったく、前くらい見て歩けよ!無駄にでかいんだからよ…」
最後の方の言葉はごにょごにょと口の中でだけ呟かれたように思える。どうやら彼は身長の事を気にしていたらしい。なんだか…。
(へ~…可愛い処あるんだ)
そんな彼を不覚にも「可愛い」と思ってしまった。
緩む口元を慌てて手で覆って咳払いをひとつ…大丈夫、彼には気づかれていないようだ。
(危ない危ない…こんなこと知れたら殴られるじゃ済まないよ…)
内心ひやひやとしながら、Jはふとあらぬ方向に目を向けて彼を見ないように努める。今、目でも合おうものなら完全に噴き出す自信があった。
「おいっ、何処見てんだよ」
勿論、そんなJの心の内を知らない雪は不振に思い声をかけてくる。
「いえ…その、良い天気だな~と」
…・なんと苦しい言い分だろうか。我ながらアホだと自分を呪った。
「ほ~?」
「……」
Jの言葉に雪が近づいてきて同じ方を見上げる。そこにはお世辞にも「良い天気」なんて言えないような、綺麗な「灰色」の空が広がっていた。隣の空気が一瞬ピシッとひび割れた気がした。
「へぇ~?」
「……」
「お前には灰色が「良い天気」に見えるんだ~??」
皮肉たっぷりに雪が腕組をするのが分かる。怖かった。
(まずい…怒ってる…)
雪の方を向く事も出来ずに、Jはただそのまま「灰色」の空を無言で見つめていた・・・。
「中央」を目指す三人。
Jが感じた違和感とは??
まだまだ「記憶の海編」は続きます(^_^;)