記憶の海
白い光が目の前に現れて、変な感覚に包まれる。
暖かいような、冷たいような・・・・そして何故か「懐かしい」と思った。
次に気がついた時には、もう知らない場所に立っていて・・・ここが「記憶の海」なのか、と悟る。
隣にいた筈の雪の姿が見えなくて、Jは辺りを見回す。
「雪さ~ん?・・・・雪さ~ん!?」
大きな声で名前を呼んでみたが、反応はない。あるのは静寂と懐かしい気配のみだった。
(どこにいったんだろう・・・?)
ふらふらと辺りを歩いてみるが、人影はない。緑豊かな自然の中、綺麗な花が咲き、心地よい風が流れた。その時。
━・・・タスケテ・・・あの子を・・━
不意に声が聞こえて頭上を見上げる。そこには当たり前に空があるはずだった。
でも、あったのは映画のフィルムの様に変わる映像と・・・頭に直接響く声。声。声。
━・・・僕がそう望んだ・・・・望んでしまったんだよ・・・━
(この声、塁さん??)
━・・信じられる訳ない・・・人なんか・・・━
目まぐるしく変わる映像と、沢山の声が彼を苦しめる。感じた事のない恐怖、悲しみ、怒り・・・感情の波が押し寄せて、頭が割れるように軋んだ。立っていられない。Jは崩れるようにその場に膝をつく。
━・・・お前を、ずっと・・・━
ゼェゼェと肩で荒い呼吸をし、未だ聞こえてくる声に目をきつく閉じる。どうにかやり過ごせないかと思ったのもあ束の間、またすぐに波が押し寄せてくる。涙が出そうだった・・・思えば何故自分がこんな思いをしなければいけないのだろう。そればかりが頭を巡った。
━・・・せつ・・・生きろ・・お前は・・━
「「う・・わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」」
不意に口から悲鳴のような嬌声が漏れる。気がつけば額が地面につくほど身体を縮め蹲っていた。
男の声、女の声・・・・Jはもう何も考えられない。意識が遠くなりそうだ・・・。その時。
「・・・・・」
頭に何か暖かいモノが触れる。
「えっ・・・??」
痛みが嘘のように引いていくのが分かる。溢れるように響いていた声も次第に小さくなっていく・・・。
Jは驚きで目を見開くと、勢いよく頭を上げる。そこには知らない少女が立っていた。
年の頃は10歳位だろうか。栗色の長い髪が風にふわふわと揺れ、まるで人形のような格好の何とも可愛らしい少女がJを見つめていた。その手は、Jの頭に伸びている。
(この子が・・・?)
目の前の出来事が信じられずにJは黙り込む。その視線に気がついたのか、少女はニコッとほほ笑みを向けてくれる。陽だまりの様な笑顔だった。
「あの・・・・あり・・がとう?」
自信無さげに呟くと、少女は大きな目をもっと大きく開いてからフッと目を細めて、小さく頷いてくれる。思わず見とれてしまうほどの美少女だった。
「J!!」
唐突に大きな声がして、Jは後ろを振り向く。遠くから雪が走ってくるのが見えた。
「雪さん!!」
その顔を見た途端、ホッとして身体から力が抜けて行く。本当に涙が出そうだった。
駆け寄る雪の第一声を期待して、Jは目を輝かせ待つ。そして。
「「「こんの、バカがー!!!」」」
浴びせられたのは予想通りの言葉だった。
(あ・・・やっぱり・・・)
少し淋しいような・・・でもやっぱり安心感の方が強くてJは無意識に顔を緩める。
(雪さんは、こうじゃなきゃ・・・)
そう思いながら、Jはあることに気づく。目の前で怒る彼はいつもと違っていた。その靴は汚れ、息も乱れている。いつも冷静で、ちょっと無関心な彼からは想像できない姿。彼が必死で自分を探してくれていた事を知る。心が暖かくなった。
「大丈夫だったか・・・?」
彼が眉を顰めて尋ねる。その言葉の意味に気づいて、Jは言葉を詰まらせた。今何かを口にしたら涙が出そうで、頷く事しか出来ない。その様子で察してくれたのか、雪はJの頭をクシャッと撫でた。
そして、そのまま自分の方にその頭を引き寄せると耳元で囁く。
━一人にして・・・悪かった━
その言葉で十分だった。止められない気持ちが涙になって溢れる。
「・・・うっ・・雪さ・・ん」
嗚咽交じりのその声も、男なのに情けないと思うこの心も、不安も・・・彼はそれら全てを優しく包んでくれた。
Jの涙が止まるまで、抱きしめてくれていた・・・・。
久しぶりの更新です。
とうとう「記憶の海」編です。
長い事休憩していたので、改めて読み返してから書きました(^_^;)
反省点はいっぱいありますが、書いてて楽しい話しの一つです。
また頑張りたいと思います。
宜しくお願いします☆