お師匠様と弟子
『休憩じゃ。休む時は休む。それが1番だ』
『はい!お師匠様』
〜〜〜〜〜
「お師匠様」
「どうした」
10代前半程度の少年の質問にぶっきらぼうに答える見た目に反して高年の『お師匠』と呼ばれた男。その髭の長さが生きた時を証明でもしているのかと言うほどに長い。
「何故、人は武術を学ばなくてはいけないのですか」
この少年はこの1ヶ月毎日同じ事を聞き、毎日お師匠様に話をはぐらされて、聞きそびれている。そして今日こそは教えてもらうと決意している。
「1ヶ月か……」
「何がですか?」
「お前が。わしにそれを言い続けて、な 人は何故武術を学ぶのか。それは簡単だ。強くなるためだ。」
「強くなるため?」
「そうだ。だがそれは不正解だ。」
「どう言う事でしょうか」
「人より強くなる。それはどう言う意味だと思う」
突然、聞かれたら質問の意味を考え黙り込む。
「・・・」
「人間、誰かを見下さないと、生きていけないのじゃ。
赤子の時から全てができる人間が居たら、それはもう人ではないのかもしれぬ。
人間は弱い。生まれた時誰かに守ってもらわなければすぐに死ぬ。
さて、お前の質問は『何故人は武術を学ぶ』だったのう、
あくまでも私が思う答えだが良いか、これが正解とも限らない。それでも聞くか?」
「お願いします。お師匠様」
「先ほども言ったが。人間誰かを見下さないと生きていけないのだよ、自分より弱い存在を揶揄しないと自分の生きる意味を見失う。わしだって昔はそうであった。」
「つまりお師匠様は僕を見下していると」
「最初の頃はそうであった。だが今ではお前に励まされる時も多い。
見下してはおらぬ。我が師は昔私にこう言った『悪い人は人が人であるために誰かの上に立つ。そして上から見下す、と』一方で『良い人は人が人であるために誰かの上に立ち、そして見上げる、より高みに向かう為に』わしは今でも師の言葉の意味がわからない。だからまだお前にお師匠様と呼ばれる理由はないと思ってる」
「それでもお師匠はお師匠です」
「そうかもしれぬな。わしも早く我が師の境地につかなければ笑われてしまうな。さて休憩はここまでじゃ稽古に戻るとしよう。」
「はい!お師匠」