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第三十八話 ギフト狩り

「ミスターK……ヘッドギアの下は、覆面ですカ。噂に違わず、なかなか愉快な方のようデスね」


 ゴツゴツした岩の高台からこちらを見下ろすように現れたのは、ブラックコートで全身を包み込んだ、金髪の男だった。

 続いて、周囲にも複数の、似たような格好をした男たちが現れる。

 

 見たところ、恐らくは全員外国人。

 雰囲気からして、日本で暗躍してるヤバい組織です、という感じがビンビンしている。


「どちらさま、ですか。初対面だと思うんですけど」


 数でいえばこちらは八人。相手は五人だ。いきなり襲われることはないだろう。

 そう思って恐る恐る返答すると、最初に現れた男が深々と頭を下げた。


「失礼。ワタクシ、ギアンと申しマス。貴方に是非ともお会いしたくて、ここでお待ちしていまシタ」


 俺に、会いたくて?


「なんだ、俺のファンですか」


 こないだの強盗の一件以来、すっかり人気者になってしまったねぇ。

 

「そんなわけないですよ」


「わかってますよナナミさん……。そんな怖い顔しないでください……」


 ただのファンが……いや、誰だって、俺がここに来ることが事前に分かるわけがない。

 もし、そんなやつがいるとすれば、それは。


「単刀直入に言いまショウ。貴方を、我々の仲間に勧誘しタイ。貴方の、そのギフトが欲しいのデス」


「ギフト……ですか」


「実に見事なワームホールでしタ。想像以上ですヨ」


 やはり彼らは、俺がワームホールを作れることを分かっていて、最初からここで待っていたようだ。


 そうだ。

 そうなると、繋がる。

 

『深緑の浮遊島』でマンドラゴラを抜いたのは、多分連中の内の誰かだ。

 そいつは自分でワームホールを作ってここに移動し、痕跡をわざと残して俺を誘導した。


 つまり……。

 


「罠、でしたね」


「すみませんナナミさん。俺が今すぐ行こうなんて言ったせいで」


「いえ。いずれ、こんな連中が現れることは想定していました。ただ、少し早かったですね」


「……ギフト狩りってことですか?」


「ええ。間違いないと思います」


 これが、会長や支部長の言っていたギフト狩りか。問答無用の拉致かと思ってたけど、意外に平和的……いや、もう相手のテリトリーに誘い込まれたんだ。状況はそう違わないか。


「いくつか、最近活動を活発化させている海外組織の情報が入ってきています。見たところ彼らは恐らく、そのうちの一つ……北欧系の犯罪シンジケートですね」


「犯罪シンジケート……」


 普通ならドラマ以外では滅多に耳にしない単語だろうけど、実は探検者界隈ではそうでもない。


 海外の犯罪組織が、ダンジョン産の違法アイテムを目的に来日していることは比較的よく知られた事実だったりする。日本が諸外国に比べてダンジョンの数が圧倒的に多いから、それだけ悪いやつも集まりやすいんだ。

 けれど彼らはなかなか協会の網を抜けられず、成果が上がっていないと聞いている。


「協会に知られず違法アイテムを持ち出せるギフト持ちを探しているってことですね?」


 ナナミさんが頷く。


「恐らく、ファフニールを運び出した件の情報を解析したのでしょう。『真眼』を理解しているわけではないと思いますが、返答にはくれぐれも注意してください」


 ナナミさんは俺より若いのに、犯罪組織を前にして肝の据わり方がすごい。

 引っ張られるように、俺の心臓の鼓動もだんだん落ち着いてきた。

 

 そうだ、こっちの方が人数多いんだし、そんな危険なことにはならないよな。

 とりあえずここは無難に対応して、あとのことはタツヤさんや警察の人たちに任せよう。抵抗するようなら、戦うまでだ。


「ミスターK。我々の仲間になってくだサイ」


「えっと……もうワームホール作れる人はいるんでしょう?痕跡残して俺をここまで誘導した人ですよ。一人いれば十分じゃないですかね」


「フフ。彼は少し使い勝手が悪いのでス。大量の採取や運搬は難シイ。貴方のように巨大で安定したワームホールが作れれば、マンドラゴラの流通に革命が起こりマス」


 そんな革命いらないですよ。

 

「生憎ですがお断りします。あんまり悪いこと、したくないので」


 俺の返事に、ギアンは「ククッ」と不気味な笑い声を上げた。


 

「そうですカ……しかし、我々も簡単に帰るわけには行かないんですヨ」


 


 ヒュッ……


 ……風を切る音?

 後ろから?


「ぎゃあ!!」「ぐわっ!!」「うげっ!?」


「……!?みなさん!」


 横に並んでいた合同チームのメンバーが、次々と前のめりに倒れていく。

 飛び散る鮮血の中を、銀色の輝きが猛スピードで弧を描いていた。


「タツヤさん!?……なにを……!!」


 銀の太刀から血を滴らせ、皆が倒れ伏すのを興味なさげに見つめていたのは……合同チームのリーダー、タツヤさんだった。

 

「ご苦労様でしたネ、タツヤくん」


「……ちっ。何人連れてきてやがる。こんな仕事、俺とお前だけで十分だろうが」


「念には念を、ですヨ」


 ちょ……待て待て。

 頭がついていかない。

 タツヤさんが犯罪組織の一味だって……?

 

 絶句する俺を手で下がらせながら、ナナミさんが銃口をタツヤさんに向けた。


「……光宗タツヤ、でしたか。なかなか名演技でしたね。すっかり騙されました」


「貴様らが鈍いだけだ」


 力強く頼もしく見えたタツヤさんの眼は一転、不気味なほどに暗く据わり、その表情は、なにかヤバい薬でもキマったかのように胡乱げだ。


 俺とナナミさん以外のメンバーはすべて斬り倒され、数的優位は一気に逆転してしまった。

 

 ……ヤバくない?この状況。


 焦りが表に出てしまっていたか、ギアンは俺の顔を見るとニィッと口元を歪めた。


「どうですカ?――まだ、我々の話を聞く気にはなりませんカ?」


 さっきと声の大きさは同じなのに、受けるプレッシャーがまるで違う。

 真獣とはまったく種類の違う、彼らから感じる異様な雰囲気。殺気ってやつだろうか。


 これが……本物の犯罪組織。

 


「う、く……」


 足が、手が、鉄球でも括り付けられたかのように重い。


 人が人を襲う。人が人を、傷つける。血が、流れる。

 それがこんなにも、身体の芯から恐怖を呼び起こすものだったなんて。


 俺は、マンドラゴラを悪用する奴らを捕まえるために、強い意思でもってここに来たはずなのに。

 それなのに、俺はまるで蛇に睨まれたカエルのように、体が動かなくなってしまった。



 どうしたらいい?

 このままじゃ……。



 ……呼吸が乱れ、緊張で徐々に視界が白んできた、その時。


 


「――大丈夫ですよ。私がいます」



 

 固まる俺の腕に、ゆっくりと手が添えられた。

 

「ナナミさん……で、でも、相手が多すぎますよ!!」


「私が時間を稼ぎます。その間に、ワームホールで逃げてください」


「え、それじゃあナナミさんは!?だめですよ、そんなの!!」


「私一人なら、なんとでもなります。さあ、早く準備してください」


「でも……!!」


「……!?危ない!!」

 


 ヒュン――

 


「――交渉は決裂、でいいな?」

 


 ズシャァァァ!!!!

 


 ナナミさんに突き飛ばされた俺は、一瞬前までいた場所に銀色の雷が突き刺さったのを見た。

 

 光宗タツヤの一撃だ。地面が大きく切り裂かれ、粉塵が舞う。


「ミスターKか。少しは楽しめるんだろうな」


 俺ら二人を分断した光宗タツヤは、どうやら俺にマトを絞ったようだった。

 突き飛ばされた勢いで地面を転がりながら……すぐそばに、彼の殺気が迫ってくるのを感じて戦慄する。


「ミスターK!!」


「……全く、タツヤくんは血気盛んでいけナイ。彼を殺さないようにしてくださいヨ。……さて、『氷剣姫』。貴女には少し、大人しくしていてもらいまショウ」


 叫んだナナミさんの周囲に、黒ずくめの男五人が円を描くように立ち塞がり……


「――ナナミさん!?」


 奴らの一人が投げた何かが、強烈な閃光を放ち、ナナミさんの姿を飲み込んだのが見えた。


 

 

 


 

 


 

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