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第三十六話 マンドラゴラ群生地

「そういえば、どうしてここなんですか?他にもマンドラゴラが生えているダンジョンはありますよね?」


「ここが封鎖されているから、だ」


 ふと疑問に思ってタツヤさんに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。

 封鎖されているから?どう言う意味だろう?

 封鎖されていない方が怪しまれずに採りやすいんじゃないだろうか。


「マンドラゴラという植物は、抜くと根っこが強烈な奇声を上げるんです」


「ナナミさん……あ、それ聞いたことあります。その声を聞くと、死んじゃうとか」


「いえ、死ぬことはありません。ただ、とにかく大きな声なので、フロア全体に鳴り響くんです」


 ふむふむ。……それで?

 

 まるで分かっていない俺を見かねてか、再びタツヤさんが口を開いた。


「つまりだ。マンドラゴラを抜くと、それが周囲の人間にすぐ伝わってしまうってことだ。他の探検者がいるかもしれない場所で、それはリスキーだろう」


 なるほど。だから逆に、封鎖されて探検者がいないダンジョンが怪しいのか。


「もし本当に隠された出入り口などがあるならば、封鎖など関係ないからな」


 隠された出入り口……か。

 俺もちゃんと仕事をしないとな。

 島に降り立ってから、周囲を常に凝視し続けているけど、今のところ特に変わった『色』は見えない。


「このフロアには出入り口は無さそうです」


 メンバーには、ただ探索結果のみを伝えている。俺のギフトの詳細は、もちろん教えていない。

 うっかりギフトの詳細が広まって、会長たちの言う『ギフト狩り』なんて遭ったら洒落にならないからな。ダンジョン探索だけでも危険がいっぱいなのに、そんなリスクが追加されたら遅かれ早かれ俺は死んでしまう。


「そうか。よし、次へ行こう」


 タツヤさんは特になにも聞いてこない。藤堂支部長に詮索を止められているんだろう。

 変な格好しているくせに、仕事はきちんとしてるんだなあの人。



 


 次のフロアへは、島の中心部からまた延々と螺旋階段を降りていく必要があった。


 しばらく島内部を通る階段を進むと、島の下から空に抜けて……そしてまた、真下に島が現れた。

 どうやらここは、島が縦に連なって各フロアを形成しているようだ。フロア間の移動が全部階段なのがしんどすぎる。


 


 次のフロアを探索中に、何度か真獣に襲われた。

 

 難易度が低いと聞いていたけど、見たところ十階級が中心で、十五階級あたりの真獣もチラホラいる。決して弱い奴らではない。

 

「誰だよ難易度低いって言ったやつは……」


「ミスターK、危ないですよ。伏せてください」


 ナナミさんに腕をぐいっと引っ張られ、つんのめる。

 直後、さっきまで俺の頭があったところをバカでかいカラスみたいなのが猛スピードで掠めていった。

 

 ナナミさんの銃が閃光を放つ。

 哀れデカガラスは、地上に落下することも許されず爆散した。


「油断はダメですよ。いくら難易度低いダンジョンとはいえ」


 なるほど。ナナミさんレベルの人たちが「難易度低い」とか言ってたんだな。つまり、まるで参考にならねぇってことだ。


 その後も、ナナミさんの大砲のような銃と『時渡り』の前に、相手になる真獣など現れるはずもなく。

 合同チームの面々は皆、ただポカンとしながら彼女のあとをついていくだけだった。


 


「――さて、ここだ。この島に、マンドラゴラ群生地への隠しルートがある」


 四つめの島。

 結局ここまで第二の出入り口は見つからなかった。

 これまで、どれだけの階段を降りて、どれだけ歩いただろう。もう足がガクガクいっている。

 

 あれ、もしかして帰りは……登るの?あの階段。


 



「着いたぞ、隠しルートの入り口だ」


 しばらく進んだところで、タツヤさんが一本の木を指差した。

 その木は全ての枝が奇妙なほど捻れていて、恐ろしい化け物のような形をしている。夜道で見たら叫んでしまうかもしれない。


「あ!ここに穴が!」


 根元に、人一人がギリギリ通れそうなくらいの穴が開いていた。


「その穴を通れば、マンドラゴラの群生地に着く。この隠しルートが見つかった時は……それはそれは、盛り上がったもんだったんだがな」


 タツヤさんが、ギリっと奥歯を噛み締めた。

 ……既存のダンジョンで隠しルートを見つけるのは、かなりの名誉だと聞いた。

 でもそれが、のちに大問題になる凶悪な麻薬、マンドラゴラの群生地だったなんて……発見者は、後でさぞかし落胆しただろう。

 


「よし、いくぞ。まずは俺が入ろう」



 タツヤさんが穴の縁にゆっくりと足をかけたとき……


 ――『怪音』は聞こえた。




「ギィィィィヤアアアアアアアアアアーーー!!!!!」



 

「――うわあああああ!?」

 

 思わず耳を手で抑える。

 ヘッドギアを被っているのに、脳まで突き刺さるような、恐ろしいほどの爆音。――いや、声か?


「……マンドラゴラだっ!!たった今、誰かが抜いたぞ!!」


 タツヤさんが驚いた顔で叫ぶ。

 これがマンドラゴラの声か!思っていたよりも遥かに気味が悪くて大音量――これは確かに、抜いたら即バレだ。


「どいてください!」

「あ、ナナミさん!?」


 タツヤさんを押し退けて、ナナミさんが穴に飛び込んだ。

 冷静に見て、今のメンバーではナナミさんが最大戦力だ。もし今、中に危険人物がいるのなら、彼女が先頭を切るのは理にかなってるけど……でも何が起こるか分からないのがダンジョンだ。

 俺はとっさにナナミさんの後を追う。


 穴の中は滑り台のようになっていて、いったん尻餅をつくと、すごいスピードで奥へ奥へと引き摺り込まれた。


「うわっ!うわわわわーーーーー!!!!」

 

 速い速い!止められない!


「きゃあ!?」


 ぽんっと広い空間に飛び出したところで、前に立っていたナナミさんにぶつかった。

 そのままくんずほぐれつ、ゴロゴロ二人で地面を転がり、壁まで行ってようやく止まって……


 あれ?


 俺の目と鼻の先に……ナナミさんの目と鼻があった。


 これは、なんというかとても……近い。


「ご、ごめんなさい!」


「……早くどいてください。重いです」


 半眼で睨むナナミさんから、慌てて距離をとる。

 やばい、めっちゃ良い匂いした。

 

 ナナミさんはため息をつきながら起き上がると、ぐるりと周囲を見渡した。


「誰もいませんね」


 俺たちがたどり着いた場所は、大体スーパーマーケットくらいのサイズの、だだっ広い一つの空間だった。

 壁がほんのりと光る土でできていて、おかげで全体が見渡せるのだけれど、怪しい人影は全く見当たらない。


 グジュリ……と気味の悪い音がしたので、慌てて足元を見てみると……びっしりと、畑の人参のように、奇妙な葉っぱが生えていた。


「うわ、なんだこれ!」


「こいつらがマンドラゴラだ。抜くなよ」


 後から追いついてきたタツヤさんは、俺にそう忠告した後、周囲を睨みつけた。


「……おかしい。誰もいないぞ」


 この部屋は、見た限り入り口が一つしかない。

 鳴き声が聞こえた直後に、俺たちは入り口に飛び込んでいる。誰ともすれ違ってはいないはずだ。

 

 マンドラゴラを抜いた人物は、一体どこへ逃げたのか。



 

「ん?」


 あれ?これは、なんだ?

 

 空中に、『色』が渦を巻いている。


「ナナミさん、これ」


「……?なにかあるのですか?」


 やっぱり真眼でなければ見えないか。

 てことは、これが隠された出入り口?


 でも、前にキノコの山を見つけた時の隠し扉とは、だいぶ様子が違う。


 全く扉のような形状をしていない。固定された出入り口というより、こじ開けた穴の跡、という感じだ。


「だんだん、消えていく……」


 傷口が塞がるように、渦のサイズが小さくなり、色が薄まっていく。



 これは見覚えがある。

 

 ……そうだ、以前、ハイランダーが突然現れた時に生じていた渦にそっくりだ。

 

 無数にあるダンジョンの不思議の一つ、ネームド真獣がダンジョンを跨いで現れる現象について、協会は『真獣の一部はダンジョン間を自在に移動できる可能性がある』との見解を出している。


 マンドラゴラを抜き、ここから消え失せたのは、まさか真獣?

 ……いや。だとしたらマンドラゴラが地上で流通している事実はどう説明する?

 今回はたまたま真獣が抜いただけで、一連の騒動とは無関係、という可能性だってもちろんあるけど……。


「どうだ、ミスターK。なにか見つかったか?」


 タツヤさんにずいっと顔を覗き込まれた。


「ああ、えっと……痕跡のようなものを見つけました」


「なに!?本当か。……辿れるか?」


「えっと、そうですね……」


「安心してくれ。我々はみな、ここで見たことは口外しないと誓おう」


「少し、相談させてください。……ナナミさん、ちょっといいですか」


 俺はナナミさんを少し離れたところへ連れて行き、声を潜めて、消えつつある渦の話をした。


「……それは、辿れるのですか?」


「多分可能です。ファルニールを運んだ時のように、痕跡を辿ってワームホールを作るんです」


 痕跡はきっと、移動した先まで続いているはずだ。

 それを真眼で追っていくのは、それほど難しくはないだろう。あとはそのルートを、ワームホールとして開通させてやるだけだ。


 ナナミさんは、ワームホール、という言葉を聞いて、少し困ったような顔をした。


「後日、では間に合いませんか?」


「ええ、痕跡は今も縮小し続けています。辿るなら今しかないんじゃないかなと」


 ナナミさんの言いたいことはわかる。大勢の前で真眼の力を見せるのはリスクが高いし、それに……辿ったその先に、何か待ち構えているか、わからない。


 だけど、せっかくタイミング良く、騒動解決の糸口になるかも知れないものが転がってきたんだ。

 ここを逃せば、もしかしたら永遠に手がかりが失われてしまうかも知れない。そうでなくとも、解決まで時間がかかれば……それだけ、マンドラゴラの犠牲者は増える。


「行きましょうナナミさん。ほら、言うじゃないですか。当たって砕けろって」


「……せめて虎穴に入らずんば、のほうでお願いしたかったですが。無事に帰るのが大前提ですよ」


 ナナミさんは渋々だけど了解してくれたみたいだ。


 よし。じゃあさっそく、この痕跡を辿るとしよう。

 幸運にも見つけることのできた、今にも消えそうなこの痕跡を。



 ……マンドラゴラが抜かれた直後に踏みこめていなければ、こうはいかなかっただろうな。



 


 ――なんだか少し、タイミングが良すぎる気もするけれど。

 


 


 


 




 


 


 


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