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第三十話 強盗団

「……!何事ですか!?」


 ナナミさんが素早く反応する。

 俺も、少し遅れて音のした方を振り返った。


 ……!なんだあれは!?


 駅前通りの向かい側にあるビルの一つから、大きく煙が上がっていた。そこから人々が蜘蛛の子を散らすように逃げてくる。

 

 遠目に分かるのは、一階にある店舗の入口が無茶苦茶に破壊され、そこに妙な格好をした連中が複数人、走り込んでいく様子。

 その連中の手に、刃物や鈍器のようなものが握られているのが見えた。


 あそこの店は確か、宝石店だったはずだ。

 てことは……


「宝石強盗!?こんな昼間っから!?」

 

 ここは駅の側だぞ?すぐに交番から警察が来る。とても正気の沙汰とは思えない。


 ほら、銃を構えた警官が二人、駆けていって……



 ――ズッガアアアアアアン!!


「うわああああああーーー!?」



 再度の爆発音に、警官の叫び声が重なる。一瞬遅れて、周囲から悲鳴と車の急ブレーキの音が上がった。

 

 おい、マジか。

 あいつら、警官に攻撃しやがった!


 店の方から、拳大の何かが飛んできて爆発したようだった。もしかして手榴弾??冗談じゃないぞ。


 こんな強引なやり方で宝石を奪ったところで、逃げ切れるはずがないじゃないか。


「……あれは、怪樹斑ですね」


 目をキツく細めてビルの方を凝視していたナナミさんが、呟いた。


「ビル内部と周辺にいる不審者は、確認できる限りで六人……奥の一人は分かりませんが、他は全員、顔に怪樹斑が見られます」


 顔に……って、こんな離れたところから顔見えるの?

 ベースギフトは身体能力を底上げするらしいけど、眼まで良くなるんだな。


「怪樹斑……マンドラゴラじゃの」


 やれやれといった様子で、黒峰先生が肩をすくめる。


 そうか、連中は……マンドラゴラ中毒者か。

 

 マンドラゴラは、一般の人でも知っている有名なダンジョン産のアイテムだ。比較的低層階で入手できる根菜のような植物で、口にすると空を飛ぶような高揚感と万能感が得られ、また常人でもギフト持ち並の身体能力が得られる。

 

 ただし、マンドラゴラが市場に流通することはない。法で、売買が徹底的に禁止されているからだ。


 マンドラゴラには重度の依存性がある。また、服用を繰り返すことで徐々に精神に異常をきたし次第に凶暴性が生まれる。

 末期になると『怪樹斑』と呼ばれる、樹の根っこのような紋様が顔に浮かぶ。そうなると、もう手遅れだ。人格は破壊され、欲望のままに犯罪に手を染めるようになってしまうのだ。


「一時期は大問題になったものだが……マンドラゴラが採れるダンジョンに規制がかかってからは、めっきり見なくなっていたがのう」

 


 その時、一際大きな悲鳴が上がり、野次馬の輪がばらりと崩れた。

 それだけに終わらず、連続して助けを求める声が上がる。何か先ほどまでよりもさらにマズい事態が起きたようだ。


「いけない……!連中、周囲の人を襲い始めました!!」


 おいおいおい、ウソだろ!?

 破壊衝動が抑えられなくなるって話は聞いてたけど、これはさすがに無茶苦茶だ!


「行きます!」


「ナナミさん!?」


 ナナミさんがヒールを跳ね上げるように脱ぐと、次の瞬間、彼女の姿がかき消える。

 

 ナナミさんのユニークギフト【時渡り】だ。


 とても目で追えない速度で、ナナミさんは強盗団に一気に肉薄していた。


 まさに間一髪、通行人に斬りかかろうとしていた男の手首を蹴りあげているのが見えた。


「流石ナナミさん!」


 ……いやまて、感心している場合じゃないぞソータ。

 

 いくらナナミさんでも、真装具も身につけていない状態であんなイカれた連中の相手をするのは無茶だ。

 

 マンドラゴラは常人でも身体能力アップ効果があるというし、もし取り囲まれでもしたら……!

 


 ――ズッドオオオン!!

 


「……あ」


 次に俺が見たのは、真横に足を蹴り出したポーズで静止しているナナミさんと、体をくの字に折り曲げながら派手に吹っ飛ばされていく男の様子だった。


 そのまま街路樹に叩きつけられた男は、ズルズルと地面に滑り落ちて動かなくなる。


 ……そうだった。【時渡り】は【脚力超強化】系統の最上位ギフトだった。


 その超移動速度にばかり目がいくけど、キック力も超人レベルなんだな。

 これ、心配ないかも。

 


 そして、ナナミさんの大立ち回りが始まった。

 

 武器を持った男たちが奇声を上げながらナナミさんに襲いかかるが、彼女はワンピース姿のまま超速で身を翻し、次々と連中を薙ぎ倒していく。


 再び集まった野次馬から、大きな喝采が上がる。


「ネェちゃんすごいぞ!やっちまえ!!」

「ねぇ、あの人、もしかして有名な探検者の人じゃない?!」

「あっ!そうだよ!櫻井ナナミ!!【氷剣姫】だ!!」

「やばっ!ホンモノめちゃ美人!!」


 そこにもはや緊迫感などはなく、人々の様子はまるで映画の撮影現場にでも居合わせたかのようだ。


 実に一分もたたないうちに、ナナミさんは五人の男を地面に沈めていた。

 先程のナナミさんの観察が正しければ、残るは一人のはず。本当にあっという間だった。


 


「颯爽と駆けつけて悪を倒す……まさにヒーローだなぁ、ナナミさん」


「――『探検者たるもの、常に人々のヒーローであれ』。あの子の父親が、よく言っていたセリフじゃ」


 黒峰先生が、俺の呟きに応えてくれた。

 ナナミさんの父親――櫻井ゲンマか。

 

「……あの子は小さい頃から、そんな父親の背中を見て育ってきたからのう。人一倍、人助けに重きを置いた探検者に育ったようだわぃ」


「そう、だったんですね」


 人を助ける探検者、か。

 探検者って、良くも悪くも自分の欲に忠実な人が多いイメージだけど、そんな信念を持ってる探検者もいるんだな。


 ――俺も、ヒーローになりたいと思って探検者を目指してたけど、純粋に他人のためにって考えてたかというと……多分、そんなことはない。

 承認欲求というかなんというか。そんなものだったんじゃないかな。

 

 本当のヒーローってのは、まさに今回みたいな時に、躊躇せずに飛び出していける人なんだろうな。

 とても、俺には真似できな……



 

 ……ん?


 その時、ふと俺の目に、妙なものが映った。


 壁にめり込むようにして気絶していた男の身体が、さっきまでは無かった『色』を発していた。

 

 『色』は全身に広がっていたが、胸の辺りが特に濃い。

 トゲトゲがついた、ちょうどウニのような形に見えた。


 俺はその形に、見覚えがあった。

 たしかダンジョン図鑑の、『トラップ』の項目に……

 


 ――まさか!?



「黒峰先生!!」


「!なんじゃ、どうした!?」


 先生に説明してる時間はない。

 俺は咄嗟に、先生が引いていたキャリーバッグに手をかけていた。

 


 

 


お読み頂き、誠にありがとうございます!


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どうぞよろしくお願いします!



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