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第二十八話 テレビ報道

『……以上が、昨日の会見の様子だったわけですが、いかがですか、解説の森見さん』


『そうですね……実に……素晴らしい会見でしたね。まるで氷の女神が降臨したような。自分がその場に行けなかったことが本当に悔やまれます』


『おっしゃる通りですね』





 記者会見の翌日。

 居室に乗り込んできた会長とイオリさんに言われるがまま、俺たちは四人で朝の報道番組を観ていた。


 四人で観ていた、というのは少々語弊がある。朝から、ナナミさんは机に突っ伏したまま動かないからだ。


 二日酔いかな?と思っていたのだが、この記者会見の映像でよく分かった。


 酔っていたナナミさんは、記者団の前で……銃を構えたり、真装具に衣装替えしたりしながら、実にノリノリな様子で写真撮影に応じていたのだ。


 これまで、人前でそんなパフォーマンスをしたことのない【氷剣姫】が、である。


 会場の盛り上がりといったら、それはそれは凄まじいものだった。


 手元のスマホで調べると、『櫻井ナナミ』『氷剣姫』が急上昇検索ワードの一位、二位となっている。そしてナナミさんのキメ顔写真が、あらゆるニュースサイトを飾っていた。


「あの……ナナミさん?大丈夫ですか?」


「……殺してください」


「こわっ!大袈裟ですよそんな!」


「……殺してください」


「いやいや!気にしなくても大丈夫ですって!すっごい素敵でしたよ!特にあの、銃を口元に持ってきてたポーズ……」


「……殺し……ますよ?」


「すみません」


 フォローしたつもりが盛大に地雷を踏み抜いたようだ。


「櫻井さん、ごめんなさいね?なんだかとってもノリノリだったから私も楽しくなって色々な格好させちゃったけど、まさかそういうの嫌だったなんて」


 イオリさんが本当に申し訳なさそうに謝っている。


「……いえ、飲み過ぎて意識が飛んでいた私が悪いのです」


 ビールをコップ一杯くらいだったと思うけどな。本当にお酒弱いんだなナナミさん。


「ナナミは酒が飲める歳になったばかりだからな。慣れれば強くなるさ」


 常に酒瓶抱えている会長が言うと説得力があるようだけど……そんな人と一緒に飲んでたら、慣れるより先に体を壊す気がする。


 テレビでは解説の人が、如何に【氷剣姫】の復活が待望されていたかについて猛烈な熱量で語っている。司会者もそれに引くことなく、同じくらいの勢いで返していた。間違いなく二人ともファンだ。

 

 そういえばかつて【氷剣姫】のファンはイエティと呼ばれていたんだったな。もちろんナナミさんがそう呼ぶわけはないので自分達で作った呼称だ。俺も、ミニイエティと呼ばれるくらいにはファンだった。


 テレビで【氷剣姫】が賛美されればされるほど、ナナミさんはどんよりと暗くなっていった。


 その様子を見かねたように、会長が肩をすくめた。


「ふむ。少し報道番組として偏りが過ぎるな。ナナミが可哀想だし……おい、私だ」


 会長はおもむろにスマホで電話をかけ始めた。誰と話しているんだろう?


 

「話を変えろ。しつこい」


 

 ……会長がそう言って、数十秒後。

 先ほどまで熱弁を奮っていた司会と解説の人が、カメラの下あたりを驚いた顔で凝視したと思ったら。


『……さて、【氷剣姫】の話題は尽きませんが、このあたりで次の話に移りたいと思います』


 話題変わった!?


 ……相変わらず凄い力だ。絶対に敵に回したらいけない人間というのはいるものだな……。


『さて、次の話題は……今、【氷剣姫】と並んで話題沸騰中、謎の探検者ミスターKについてです』


 ぶー。……げほっげほっ。


 思わずお茶を吹いてしまった。

 次は俺かい。


『……はい。あの孤高だった【氷剣姫】と、なんとチームを組んでいるという、うらやまけしからん人物ですね。実に許しがたい』


 ……なるほど、これが日本中のイエティたちの本音だな。正体バレてはいけない理由が一つ増えた。


『ミスターKは昨日の会見にも姿を現しませんでしたが……実はダンジョンで共に戦ったという探検者から、ミスターKについて証言を得ることができました。正体を暴く重要な鍵になるかもしれません』


 司会がそう言うと、VTRが始まった。

 ……まず間違いなく、高杉チームだろうな。なんかあんまり共に戦ったって感じはしないんだけど。

 顔は見せてないし、ギフトの力も少ししか見せてないし……まぁ、正体がバレる心配はしなくて大丈夫だろう。


 顔が隠れた状態で、マイクを向けられている人物が映る。


『いやもう、マジ可愛かったっすよ。……ああ、ミスターK?覆面でしたね』


『お姉様は孤高でお美しくて……!……え?ミスターK?覆面ね』


『櫻井くん!この高杉アキラ、必ずやキミの隣に立てる男に……え?ミスターK?うん、なかなか立派な覆面だったよ』


 ……


 ……うん?それだけ?


 画面がスタジオに切り替わる。


『以上、ミスターKの情報でした。ここから、ミスターKの人物像に迫りたいと思います。どうですか、森見さん』


『はい、唯一分かることは、ミスターKというのは覆面を被っている、ということです。プロレスラーならいざ知らず、探検者で覆面とは……ミスターKは、かなりの変態である可能性が高いですね』


 こらこらこらー!?

 露骨なディスりっぷりがひどい!!


「会長、もう一度話題を変えるように電話していただいてもいいですか」


「覆面……?お前、なんつー格好でダンジョン潜ったんだ?バカか?」


 ああ!会長が引いてる!ついでにイオリさんも引いてる!!

 覆面って会長の悪ふざけだと思ってたけど……もしや……。


「いや、これはですね、ナナミさんが……」


「……ぷくく」


「ナナミさん!?」


 机に突っ伏したまま顔を背けて笑っている!

 ナナミさん、見かけによらずイタズラ好きか!?


「……いいのよ、ソータくん。体を張って話題を獲りにいかなくても。そのあたりは広報部が上手くやるわ。ていうか、変態覆面男のイメージは広報部としても少し払拭しにくいわ」


 ナナミさんに言って!!


 ……テレビでは、ますますミスターKの変態疑惑追及に熱が入っている。

 俺はなんともいえない疲労感を覚えて、机に突っ伏したのだった。






 

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