第二十七話 ネームド討伐を祝う会
「はっはっはっ!!大戦果だったな、ナナミ!!」
「ありがとうございます、会長」
ファフニール&ハイランダー討伐の、翌日。
俺たちは、居室ではなく、いつもの会議室で祝勝会を開いていた。
仕事をする居室で酒を飲むのはやっぱりよろしくないという判断だったけど、会議室も仕事場ではなかっただろうか。まぁいまさらなんだけど。
白板には『ネームド討伐を祝う会』と書かれている。
ロックグラスを傾けながら、会長は至極上機嫌だ。
「五十階級、それも協会が賞金をかけているネームドを倒したのだ。ナナミの一級昇格は間違いないだろうな。安心しろ、もし協会がゴネても私がゴリ押すぞ」
「それはやめたほうがいいんじゃあ……」
本当にやりかねないからなこの人。ていうか絶対やる。
「それに、ただ討伐しただけではないしな。昨日は久しぶりに驚かせてもらったぞ」
――昨日、ネームド討伐を果たした俺たちは、作ったワームホールを使ってファフニールとハイランダーを一階層まで転移させ、それから大量の人を雇って、地上へと移送した。
その時の管理スタッフ、それに連絡を受けて駆けつけた協会関係者たちは、ファフニールの巨体を前にして、これでもかというほど目を丸くしたのだった。
「ファフニールほどの大物が丸ごとダンジョン外に運び出されたなど、過去に例がない。ソータの能力は本当に素晴らしいな」
危険なダンジョンでは大荷物を抱えて帰還するのは難しく、倒した真獣の素材は一部だけ剥ぎ取って持ち帰るのが一般的だ。
そのため、強力な真獣の真装具を作ろうと思ったら何度もダンジョンに潜って倒さなければならなかったりする。
今回は全部持って帰れたから、一体どれだけ真装具が作れるんだろう。
「……そういえば今朝方、協会から正式にファフニールの寄贈願いが来ていたぞ」
「寄贈、ですか?」
「協会ビル前に飾りたいんだそうだ。真獣は地上では腐らんからな」
そう言って会長は肩をすくめた。
「大金持ちの好事家にでも売れば百億は下らんものを、よくもまぁ簡単にくれなどと言えるものだ」
百億!……でも確かに、ファフニールの強さとネームドの希少性、そして姿形がほぼ丸々残っていることを考えたら、それくらいの価値はあるかもしれない。
「どうするんですか?昨日は会長、最強の真装具を作るぞーと意気込んでましたけど」
「まぁそうだったんだがな。……早速手配したところ、どうもファフニールの素材が硬すぎるわ熱すぎるわで、すぐに加工に取り掛かれそうな職人がおらんようなのだ」
「凄腕の武田工務店も?」
「ああ。腕の問題というよりは道具の問題だな。加工できる設備が無いそうだ」
「では一旦協会に貸し出して、加工の目処が立ったら返してもらうのは如何でしょう」
両手でお酒のコップを包むように持ちながら、ナナミさんが提案した。
「うむ、私もそう考えていた。協会に貸しを作っておくのも悪くないからな。ソータもそれでいいか」
「はぁ……」
「なんだどうした。また死んだような目をして」
「いえ……キノコの売上寄付したり、ファフニール貸し出したり……あんまり、俺の成果報酬に反映されそうな儲けが出ないなぁと」
俺がぼそぼそと不満を口にすると、会長はキョトンとした顔で首を傾げた。
「ん?なんだお前、自分の口座確認してないのか?」
「……?どういうことですか?」
俺はスマホで、自分の口座アプリを開く。
確かに、最近はあまり確認していなかったな。最後に見た時は、前の会社をクビになった日だったか。
「……あれ?」
なんか、残高が見たことない桁になってるぞ?
ええと、十万、百万、せんま……
「さん……おく……?三億!!??ええええええ?!」
な、なんだこれ!?
……いやまて、落ち着けソータ。これはきっと見間違い、勘違いだ。ほら、きっとここ、カンマだと思ったけどピリオドなんだ。小数点なんだ。
そうすると、三十万か。うん、臨時ボーナスとしてはとても良い数字なんじゃないだろうか。
「何をぶつぶつ言っている。間違いなく三億だぞ」
……マジで?
「なんだ?足りんのか?」
「え!いや!その!!足ります!全然足りるんですが!……でも、どうして……?会社の儲けになってないのに」
「阿呆か。寄付するだの貸し出すなどというのは、あくまでお前の成果があった上で、会社が使い道をそう決めたというだけだ。報酬はきちんと払うさ」
「か、会長……!!一生ついていきます!!」
「調子のいい奴だな」
いや、もう、これは……だって三億だよ!?前の会社じゃ、それだけ稼ぐのに何十年かかるんだよって感じだったのに!
……あれ?もうこれ、会社辞めてよくね?
「……などと考えていたらお生憎様だぞソータ。貴様の口座などすぐに凍結できるのだからな」
……くっ!相変わらず一般人では理解不能な超権力を行使してくる!!ネームド真獣なんかよりよっぽど脅威だ!
「大丈夫ですよ、会長。ソータさん、ダンジョンが楽しくなってきたみたいですから」
ナナミさんが頬を赤らめながらそう言った。
……この人、酔ってるな。
「ほう?それは僥倖だな!新フロア発見やネームド討伐が自信に繋がったか!」
いや、そんなことは決して……。
前よりはちょっとマシ、くらいです。
でも、こんなにお金が貰えるなら、ちょっと前向きに頑張ってみても……いや、うーん。
それから少し酒が進んだところで――居室の扉を蹴破らんとする勢いで、広報部長の鈴村イオリさんが現れた。
「櫻井さん、いるかしら?」
「ぬ?どうしたイオリ」
「これから、昨日のネームド討伐について記者会見を行うのだけど……やっぱりその場に立役者がいないと盛り上がらないと思ってね。櫻井さん、借りていくわよ」
「……はひ?」
ナナミさんは顔が真っ赤で目がとろんとしている。
すっかり出来上がっているなナナミさん……。これでは流石に記者会見は無理じゃないか。
「どうしたイオリ。この間はあんなにやる気なさそうにしてたくせに」
「ふふ。最初はそうだったけどね。あんなに大風呂敷広げて、大丈夫かって。でも、こんなにコンスタントに結果を出してくれるなら、こっちとしても広報しがいがあるってものよ」
そう言いながらイオリさんは、ナナミさんの座った椅子の背もたれをガッと握った。
「ほらほら、報道陣を待たせたらダメよ。行きましょう」
座ったまま椅子ごと引き摺られていった……。
……大丈夫かな、ナナミさん。
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